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第十四章:鳴動の大陸

255.精霊竜の縄張り、そして

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 フィーサだけを外に残し、おれとシーニャは小屋の中へ足を踏み入れた。
 中へ入ると物が乱雑しているだけで、ルティの姿はもちろん、人の気配はどこにも感じられない。
 
 小屋の中は狭く、部屋がいくつか分かれているが、迷うほど広くは無さそうだ。
 シーニャと手分けして探していると、すぐに彼女の声が上がる。

「アック!! こっちに来るのだ!」

 外から見た小屋は、小さい建物にしか見えなかった。
 しかしシーニャの声が奥から聞こえて来る時点で、どうやらここは、岩をくりぬくようにして作られた立派なアジトのようだ。

「シーニャ? どうした、何があった?」
「ここなのだ、ここから風が来ているのだ!」

 シーニャが指し示す所に近づくと、家具の後ろから風の音が聞こえて来るのが分かる。

「……岩の洞穴ってやつだな」
「ドワーフはこの先にきっといるに決まっているのだ! ウニャッ!」
「――そうだな。何が待っているか分からないが、行くしか無さそうだな」

 シーニャとともに洞穴を歩き進むと、先の方からにぎやかな音が聞こえて来た。
 恐らくそこにルティがいるはずだ。

 洞穴は連中が生活の為に使っていたようで、魔物が襲って来ることは無かった。
 そうしてしばらく道なりに進むと、日差しが降り注ぐ庭園のような所に出た。

 樹人族と戦った時にあった泉もあって、穏やかな場所のようにも思える。

「ウニャニャ? 森なのだ?」
「ふむ……、人間のというより、生物の為の場所みたいだな」
「ドワーフはどこなのだ?」

 生い茂った森に迎えられたが、生物の気配が全く感じられない。
 ルティは一体どこに行ってしまったのか。

「――さま~……ここですよ~! お~い、お~い」

 そう思っていると、どこからともなく声が聞こえて来る。
 シーニャも気付いたようで、耳をピンと立てて唸り声を立て始めた。

「ウウウゥ……! アック、何かがたくさん来るのだ」
「――近い」

 声と同時に、複数の地鳴りが響く。
 シーニャはすでに戦闘態勢に入っていて、急襲に備えている。

 ――ギャウッ!
 ――ギゥゥッギゥゥッ!
 ――お~い、お~い~!!

 耳に届いて来る音と声は、竜のような感じを受けた。
 人の声も混ざっているようだが。

 そんなことを思っていると、突然空が暗くなる。

「ウニャニャニャ!? アック、アック!! 大変なのだ!」

 シーニャが騒ぐので、空を見上げてみた。
 するとそこには、数えきれないほどの竜の大群が、空を覆い尽くしていた。
 
「こ、これは……ここは、竜の――」
「危険なのだ! 危なすぎるのだ!! アック、どうすればいいのだ!!」
「落ち着け、シーニャ。ここは様子を――ん?」

 見上げながらどうしたものかと思っていると、赤い何かが落ちて来ていることに気付く。
 それもおれだけをめがけているようだ。

「シーニャ、おれから離れろ!」
「ウニャッ!? わ、分かったのだ」

 シーニャをおれの傍から下がらせ、上空から落ちて来る奴に備えていると、赤毛が真っ逆さまに落ちて来るようにしか見えない。

「――ルティか!?」

 上空からの強烈な頭突きに備えていたが、寸での所で静止。
 そのまま空中で一回転したらしく、彼女はゆっくりとおれに近づき抱きついて来た。

「アック様っ、私です。ルティシアです」
「そうだと思ったが、何か感じが違うな……それに、抱きしめた状態で浮いているんだが?」
「それがですね、私、精霊竜さんに好かれちゃいまして! 飛べるようになったんですよっ!!」
「空をか?」
「ですですっ! どうやらここは、精霊竜さんたちの縄張りのようでしてっ!!」
「――だろうな」
 
 ここがウルティモが隠していた場所なのだろうか。
 そうだとしても、他の魔導士がいてもおかしくないのだが。

 精霊竜に好かれて空を飛べるようになったとか、ここに来てルティが力を得たというのも謎だ。
 確かに不思議な場所ではあるが、他に何かありそうな気がしてならない。

「ウニャニャニャニャ!? 怖いのだ、怖すぎるのだ!! アック、助けてほしいのだ~!!」
「シーニャ! 何でシーニャも浮いているんだ……?」
「分からないのだ! アック、何とかして欲しいのだ~」
「はぇっ!? どうしてシーニャも浮いているんですか!?」
「分からん」

 ルティはともかく、シーニャは自分の意思とは別で浮かされている。
 精霊竜の悪戯いたずらだとすれば、お仕置きをするしかない。

「……風に屈せ! 『アエルブラ――』」
「だ、駄目ですっ、駄目ですよ~!!」
「わっ、ばかっ!!」

 ルティが抱きついたままだったことが災いし、途中で遮られた。
 その影響で、おれたちは地面に勢いよく落ちてしまった。

「――う~ん……」
「ふわわっ!? ア、アック様、そこはまだ駄目ですっっ……」

 地面に叩きつけられたと思っていたが、おれの手にはスライムに似た感触があった。
 それがルティだということは分かっているが、どうやって助かったのか。

「ウニャ、油断も隙も無いのだ!!」

 そうこうしていたら、シーニャによって引きはがされていた。
 どうやらルティの精霊竜によって守られていたらしく、彼女も無事だった。

「ルティ。ここには精霊竜しかいないのか?」
「そうみたいです。人間の気配は全く無くてですね~……」
「じゃあ人間たちはどこに行ったのだ? シーニャ、ここに逃げ込んだのを見たのだ! ウニャッ」

 精霊竜たちから敵意が無いのは分かった。
 だが逃げ込んだ他の戦闘魔導士たちは、一体どこへ逃げたのだろうか。

 そう思っていたその時、背後から聞こえて来たのは奴の声だった。

「アック・イスティ君。ここを知られた以上、責任を取ってもらうとしようか!」
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