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第十四章:鳴動の大陸
240.ルティのお願い 前編
しおりを挟むおれに従った幻獣たちは力でこそ支配したものの、正式に契約したものでも無かった。
召喚として従わせるには、やはりきちんとした契りを結んでおきたい。
そのことを話して、ドワーフの子たちには幻獣を返すことにした。
しかし幻獣のクラスがすでに上がってしまい手に負えないので、改めて召喚をし直すことにしたらしい。
「ボクたちはグライスエンドで生まれた。でも、のけ者。自由無い、遊べない、森の中。……アックさま! ボクたちが自由に生きる家が欲しいです」
召喚ドワーフの一人、フォルネウスを使ったフォルからお願いをされてしまった。
話を聞くに、末裔の町にいながら実力の足りない者は、中心に近づくことが許されないのだとか。
序盤の樹人族は末裔では無かったが、実力でいえば確かにと理解出来る。
ドワーフの召喚は未熟ではあったとはいえ、決して劣るものでは無かった。何とも厳しい町なのだろうか。
◇◇
「自由に生きたい家……か」
「イスティさま、ドワーフたちをどうするの?」
「う~ん……このまま森の中に置くのも厳しいし、かと言って連れ歩くのはな……」
「気配を感じるに、自然と人工とですみ分けが出来ている町だと思うの! だからイスティさまがしたいようにするべき! それに――」
「フィーサは何か気になることでもあるのか?」
フィーサが見やっているのは、シーニャとルティのようだ。
「……イスティさまは召喚を得たことで魔力も安定して来たけど、あの小娘たちのことが心配。だからここでいったん、国に戻ってもいいかも!」
「イデアベルクにか?」
「うん!」
ドワーフとの戦いが決し、フィーサは再び人化。
そんな彼女が、ここでひとまずイデアベルクへ戻るべきと言い出した。
おれはともかくシーニャやルティにとっては慣れない環境のせいで、負担がかかっているということらしい。
さらには、おれに心酔しているドワーフたちをここに残して行くには、危険すぎるとも。
だからといって、末裔の子たちをイデアベルクにという考えには至っていない。
民家から離れた森の中ではあるが、グライスエンドから出られるのかが問題だ。
この先は恐らく、戦闘が激化するエリア。
フィーサが言うのはまさに、今のうちにということなのだろう。
「ウニャ? どうしたのだ、アック?」
「大丈夫か? シーニャ」
「まだ眠いのだ……ムニャゥ」
確かにシーニャだけを見れば、本来の実力が発揮されない状態でここまで来ている。
そう思えば、ここでイデアベルクに戻ってもいいのかもしれない。
問題はどうやってこの町を出るかだ。
「アック様、アック様っ!」
「ん? どうした、ルティ」
「ドワーフの子たちのお家を探してあげるんですかっ?」
「ん~、まぁな」
「それならっ、イデアベルクですっ! そこでならあの子たちも自由に過ごせますっ!!」
「しかしどうやって……」
イデアベルクに戻ることも悩んでいたが、ドワーフの子たちをどうするか。
そう思っていたら、ルティが意外なお願いをして来た。
「アック様! ルティシアのお願いを聞いてくれますかっ?」
「な、何だ?」
いつになく真剣な眼差しと少し甘えた声。
またとんでもないことを言い出しそうなんだが。
「転送ですっっ!! アック様には転送があるじゃないですか! 母さまも転送はおすすめだとおっしゃっていました。ですから、転送でバビュン! って戻っちゃえばいいんですよ~!」
「――て、転送!? そ、それだけか?」
「はいっっ! ……って、他に何かありましたか?」
「い、いや」
何とも意外なお願いだった。しかも転送とは、あまり使っていなかったな。
属性移動魔法が不安定なだけに転送も使っていなかったが、その手があったか。
「どうですか、どうですか~?」
「……やってみるか」
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