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第十三章:新たな地
230.宮廷道化師のスフィーダ 後編
しおりを挟む調子に乗っておれをコケにしているようだ。
だが、それもすぐに終わることになるだろう。
今まで沈黙していたフィーサが、おれの手元に自ら収まった。
奴の奇声と音の相乗による空気攻撃に対し、振り上げるだけで何かをもたらすらしい。
「おやおや? ただの飾りだと思っていたけど、ようやくその剣を使う気になったのかな? 面白い! いいよ、実にいい!」
「遠慮なく仕掛けていいんだな?」
「もちろんだよ! どんな攻撃だろうと、自分には当たりもしないだろうからねぇ」
「――そうさせてもらう」
「いやぁ、楽しみだ」
奴は舐め切った態度を見せながらも、いつでも自分の声を発せられるように態勢を崩していない。
対するおれは神剣フィーサを振り上げ、振り下ろすタイミングを見計らっているだけだ。
そしておれ自身、特に意識を働かせたつもりは無かったが、神剣を手に振り上げていた時には奴の頭上をめがけて、飛び上がっていた。
「――な!?」
あっけに取られた奴にお構いなく、そのまま振り下ろす。
「……貫け、≪ペネトレイト・ストライク≫!」
出て来た言葉は、剣の技そのものだった。
技の名は神剣フィーサブロスから浮かび上がっていた魔法文字を、そのまま口にしただけだ。
振り下ろされた神剣と技は、奴の全身にあっさりと突き刺さっていた。
おれ自身は無意識に動作しただけだが、奴が思う以上に攻撃から貫きまでの早さに、対応出来なかったとみえる。
「あ、あぁぁぁ……バ、バカな……何故――」
「音の共鳴が、手の打ちようがないような最強の技だとでも過信していたか?」
「ガッ……ガハァッ……ち、ちくしょう。ただの魔導士では無かったのかよ……」
こうも見事に剣が突き刺さる場面は、初めてかもしれない。
もちろんそこまで痛めつける意思は無かったが、フィーサの威力が上がっていたのもあるだろう。
スフィーダは吐血を起こしながら、ダメージを負っておれに向き合っている。
「……悪いが、おれは魔導士じゃない。魔法は使うけどな」
「く、くそぅ……宮廷魔導メンバーを敵に回しやがったな?」
「宮廷魔導メンバー? それは初耳なんだが、おれを勧誘するつもりがあったとか?」
「そ、そのつもりでここへ呼んだ……だ、だが……」
「――なるほど。それなら回りくどいやり方で、仲間を苦しめるのはやめるべきだったな!」
「す、すでに、解けているはず……グ、グゥウ……」
そこまでの重傷では無さそうだが、思いのほかショックと衝撃を受けたようだ。
おれからは回復をかけられないので、シーニャかルティにかけてもらうか。
「ウニャ~! やっぱりシーニャのアックなのだ! さすがなのだ」
「アック様ぁぁぁぁ!! 信じていましたよ~!」
そう思っていたら、動けるようになった彼女たちが勢いよく走って来た。
シーニャなんかはとどめを刺せとか言いそうだが、説得するしかない。
◇◇
「嫌なのだ!!」
「アック様、それはいくら何でもあんまりですよ!」
「怒るのも無理は無いが……あのとおり、奴は十分に痛めつけられている。フィーサが突き刺さったままなのは見えるだろ?」
「ウ、ウウ……ウニャ」
「い、痛そうです。それに、フィーサをあのままにしとくのも見ていられないです~……」
スフィーダを貫いたフィーサは、通常ならすぐに手元に収まる。
だが今回の技で、奴に突き刺さったままだ。
「そういうことだから、奴に回復をかけてくれないか?」
「わ、分かったのだ……」
「助かるよ、シーニャ!」
「回復し終わったらご褒美が欲しいのだ。約束して欲しいのだ!」
「何でも聞くぞ。それじゃあ、頼む」
「ウニャッ!」
シーニャがおねだりをするとは珍しい。
でもこれで、奴も死なずに済んだ。
「あのぅ、アック様~」
「ん? どうした、ルティ」
「私は何をしたらいいのでしょう?」
「そ、そうだな……」
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