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第十三章:新たな地
228.宮廷道化師のスフィーダ 前編
しおりを挟む「ほら、シーニャ付いてるぞ」
「フ、フニャ」
「よし、これで綺麗になった」
「じ、自分でやれるのだ。アックはシーニャを子ども扱いするのだ!!」
「えぇ? そんなつもりは無かったが……」
「次からは気を付けて欲しいのだ! ウニャッ」
ようやく食事を終えたシーニャは、口周りにステーキのソースを付けていた。
それを備え付けのテーブルナプキンで拭いてあげたのだが、彼女の怒りを買ってしまったようだ。
「アック様、駄目ですよ~。シーニャも私と同じ年くらいなんですから!」
「そうだったな」
「で、す、が! 今度は是非とも私の口元を拭いて下さいっ!」
「お前食べ終わってるだろ」
「今じゃなくて、今度ですよっ! よろしくお願いします!」
「よく分からんが、拭けばいいんだな?」
「はいっ!」
ルティは逆に、子ども扱いされたいということなんだろうか。
「ルティは小娘扱いされたいだけなの。シーニャは、きっと恥ずかしいだけなの」
「ん? 怒ってないのか?」
「シーニャはずっとずっと、大人なの。イスティさまも、大人になって欲しいなの」
「そ、そうか」
「なの! ……ところでイスティさま。教会というのは、もしかしてアレなの?」
人化していないフィーサは、誰よりも先に辺りを見渡すことが出来る。
彼女が言う教会は、山を背にした場所に建っていた。
人家から離れた所に佇んでいるが、すでに利用しなくなった場所ということだろう。
わざわざそこに招待をして来る時点で、この町とは無関係の者と予想出来る。
◇◇
外観は石畳で作られたことが分かるが、やはり人気の無い所にあるだけあって、全体的に質素な造りだ。
扉が無いので、すんなりと中に足を踏み入ることが出来た。
入ってすぐのことだ。何やら声、あるいは何かの音が建物の中に響き渡り始めた。
そして、
「むむむむ? こ、これは……どういうことでしょう!?」
「ウウウニャ!? う、動かないのだ」
「どうした、シーニャ、ルティ!」
「うぎぎぎ……手足が全く言うことを聞かなくてですね……ふんごぉぉ!!」
「アック、音を探して欲しいのだ……ウゥ」
入って早々、おれとフィーサを除いて、ルティとシーニャが全く動けなくなってしまった。
魔法でも無ければ、仕掛けていた罠でも無いようだが。
音のようなものが教会の中で響きまくっているものの、そいつの姿が確認出来ない。
不明な攻撃に平気なのは、おれとフィーサだけだ。
全く効いていないおれを褒め称えているのか、今度は拍手が聞こえて来る。
何とも面倒そうな相手なので、声を張り上げて出て来てもらうことにした。
『おい!! 目的がおれなら、今すぐ姿を見せろ! さもなくば、問答無用でここを燃やす』
シーニャがいるのでもちろんそんなことはしないが、挑発をしないと出て来そうに無さそうだ。
「イスティさま、上!」
フィーサの声と同時に、ナイフが数本おれに向けて放たれていた。
「……バーニングシールド」
向かって来たナイフの素材に関係無く、炎の盾を発動させてそのまま跡形も無く溶かす。
どうやら相手はおふざけが好きらしい。
『面白い! この町に来て、面白いものが見れるとは!』
熱でナイフを溶かしたことに感動したのか、姿を見せない男の声が響き渡った。
まどろこしい奴だ。
『……そうか、それならアエルブラストも喰らうか?』
『遠慮するよ。同じ魔導士のようだから、様子を見させてもらった。今すぐ会いに行ってもいいかい?』
『好きにしろ』
おれの前に現れた男の姿は、どこかの帝国から逃げ出して来たような、何とも面妖な格好をしている。
片手には楽器のようなものがあり、話している最中も音を出しっぱなしだ。
「さてさて、まずは共鳴の教会へようこそ。自分は宮廷魔導士にして道化師でもある、スフィーダ」
「宮廷か。少なくとも、グライスエンドの人間じゃないわけだな」
「ご名答! キミもここの末裔では無いのだろう?」
「……アックだ」
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