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第十三章:新たな地
225.グライスエンド・リアンの庭 ⑤
しおりを挟むシーニャにとどめを刺そうとしたその時だった。
リアンは自分が繰り出そうとしていた鋭く尖った枝が、何者かによって止められていたことに気付く。
「な、ぜ……!?」
「お前の役目は足止めだ。獣人、それも虎人族を抹殺することでは無い。半端な樹人族が出しゃばった真似をするのは見過ごせん」
「イスティが来ている! それでも止めるのか?」
「それならなおのことだ。われらはイスティの実力を見定め、知ることにした。樹人族リアン、ここは引け! さもなくば――」
「……わ、分かったよ」
リアンの攻撃を止めた男の言葉により、リアンは攻撃を止めて何処へと消え失せた。
「ウニャ。お前、何なのだ? どこから来たのだ? 派手な人間、見たこと無いのだ」
危機を脱したシーニャは、目の前の男にすぐ話しかけた。男は赤紫色の襟付きマントを羽織っていて、顔を半分ほど隠す黒色のマスクをしている。
「ふ、人間の装備を着る虎人族か。それもイスティの仕業なのだろうな」
「お前、敵なのだ? さっき何をしたのだ?」
「どちらでもないが、礼儀くらいは身に着けている。樹人族が勝手にしたことについては、許せ」
「納得なんて出来るはずが無いのだ! アックがただじゃおかないのだ!」
「アック? イスティの名か。とにかく、われは失礼させてもらう」
「逃がさないのだ!!」
この場を去ろうとする男に対し、シーニャは無意識ながら木の根を放つ。
木の根によって、男は身動きが出来なくなっている。
「むっ!? 木属性が使える虎人族だと? ……いや、リアンのせいだな」
「ウニャニャ!? 何なのだ、何なのだ~!?」
「ふむ……覚えたてか。それならまだ抜け出せるな」
男がそう言うと、シーニャが気付く間もなく男に距離を取られている。
何かの攻撃をされたでもなく、するりと抜け出されていた。
「な、何なのだ!? 何をされたのだ」
「そのうち分か――」
戸惑うシーニャをよそに、男はこの場から去ろうとする。
だが、
『全く、ワーム族がいなくなったかと思えば、今度は派手な謎の男か。シーニャに下手な真似をしたようだが……?』
『ウニャッ! アック! アックなのだ~!』
『悪い、シーニャ。今何とかする!』
おれは樹人族リアンによって地下に落とされていたが、突如ワーム族が行方をくらました。
そのすぐ後、地上で妙な魔力を感じたので急いで戻って来た。
この場にいるのはシーニャだけでルティたちの姿は確認出来ないが、何とも派手な男がいたものだ。
「イスティ……キサマが、アック・イスティか?」
「……そういうあんたは、何者だ? リアンはどうした?」
「われは末裔のウルティモ。樹人族は去った」
「何の末裔だ? ネクロマンサーってやつか? シーニャに何をしたのか話せ」
「そこの虎人に聞け。われらはこの先で、キサマを迎えてやる! それまでせいぜい見つけておけ」
ウルティモと名乗った男はこの場から離れるつもりなのか、後退を始めた。
だがこのまま逃がすわけには行かないので、風魔法で奴の動きを止めてやる。
そう思った一瞬、妙な感覚が全身を襲った。
こちらの動きを封じたでも無さそうなのに、自分の動きが鈍くなったような感じだった。
「……アック、どうかしたのだ? あの男はどこへ行ったのだ?」
「おかしいな……魔法が発動していないのか? そんなはずは無いんだが……」
「シーニャ、あの男に助けられたのだ。どうやったのか分からないのだ」
「助けられた? それもどうやったのか分からないままか」
あの妙な魔力は経験したことが無いが、何の末裔なのか気になる。
もしかすればフィーサが知っているかもしれないな。
それとも魔石に聞くというのも手か。
「ウニャ。アックは大丈夫だったのだ? シーニャ、森を思い出して理性がどこかへ行ってしまうところだったのだ」
「ワータイガーか。そうなったら戻れない?」
「もう平気なのだ! アックのために、シーニャ生きているのだ。ウニャッ!」
「そうか。シーニャ、よく頑張ったな!」
「フニャ~」
「ところで、ルティたちはどこに?」
「泉の所にいたはずなのだ」
ここには初め草原が広がり、奥には泉があった。
しかし男が去って気付いた時にはすでに、何の変哲もない土がむき出しの地面だけになっていた。
「泉どころか、草原も消えているな……リアンがいなくなったからか」
「――アック、アック! 何か聞こえるのだ」
「……ん?」
シーニャの小さな虎耳が、微かにパタパタしている。
どうやら何かの音に反応しているようだ。
『はえぇぇ~……た~す~け~てぇぇぇ~』
どこからともなく聞こえて来るあの声は、間違いなくあの娘に違いない。
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