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第十三章:新たな地
221.グライスエンド・リアンの庭 ①
しおりを挟むルティからの期待の眼差しを一身に受けながら、混ざりの無い魔石を放り投げた。
だが魔石は何も反応を示さず、ガチャにはならなかった。
「そ、そんなぁぁぁ……」
「ルティが落ち込むことないだろ」
「だってだって、アック様~」
「おれの装備はほぼ最強だし、武器も新たに求めなくてもいいわけだしな。ガチャで欲しいものを求めるとしたら、知らないスキルとか便利なスキルくらいだぞ」
「私の専用魔石が覚醒したら、すごいものが出るんでしょうか~……」
「……期待していいんじゃないか?」
――とはいえ、どこで魔石が覚醒するかも不明だ。
魔石がおれに対し反応しなかったのは、望むものが無かったからだろう。
こればかりは、魔石に聞くことが出来ない。
しかしシーニャとフィーサ向けのものが出たので、それだけでも十分だ。
「アック、アック! 似合っているか教えて欲しいのだ!」
「おっ!」
「前がよく見えないのだ~! ウニャ」
「シーニャ。そのフードを上げれば見えるぞ」
「ウニャウ?」
エレーヴクロークに着替えたシーニャが、楽しそうに近付いて来た。
色合いは濃い碧色をしていて、胸部分には緋色の宝珠ペンダントが輝きを見せている。
防御力の程度は不明だが、魔法耐性がありそうだ。
虎耳を隠せるフード付きで、フードを深々とかぶって見せに来たらしい。
黙っていれば雰囲気のある魔術師にも見える。
「ほら。シーニャの顔がはっきり出たぞ」
「フ、フニャ……アックが近すぎるのだ」
「お、驚かせたか? ごめんな」
「問題無いのだ! これでシーニャ、シーニャを隠せるのだ。ウニャッ!」
何やら恥ずかしそうにしていたが、すぐに機嫌を良くしてやる気を見せている。
後はフィーサだが、人化を解いて剣に戻っていた。
「そのアイテムのことが分かったのか?」
「不明な液体は人化では使えないと判断したなの! だから、わらわはしばらく人化しないなの」
「そうなのか。じゃあ鞘に戻って……」
「嫌だけど、ドワーフ小娘に付いててやるなの。どうせ落ち込んでいるはずなの」
「まぁな。じゃあルティに持たせてやるんだな?」
「仕方が無いなの」
仲が悪いルティとフィーサなのに、ルティの落ち込みぶりは同情を引いたようだ。
おれが魔石ガチャを望まなかっただけなのだが、こちらもなぐさめたくなる。
『と、とにかく、町へ入るぞ!』
◇◇
「ふわ~~! アック様、すっごく大きな泉が広がっていますよ~!!」
「……はぁ、何にも心配いらなかったなの」
フィーサのため息が聞こえて来たが、確かに町へ入ってすぐに、ルティは元気を取り戻していた。
ネクロマンサーたちの反応を見る限りでは、すぐに戦闘が始まると思っていただけに拍子抜けだ。
眼前に広がっているのはありきたりな町でなく、草原と泉がある庭園のような光景だ。
もちろん家といったものは無く、人の気配も感じられない。
「町……だよな? どこかの森に転送されたとかじゃないよな……」
「ウニャニャ? 草原がどこまでも広がっているのだ~」
「シーニャは何か感じるか?」
「何にも無いのだ」
「……ふむ」
村であれば、いきなり畑が広がっているというのは珍しくない。
しかしグライスエンドは町だ。
末裔が暮らしているのならかなりの人数が隠れているはずだが、気配が無い。
果たしてここは、現実か幻か。
ルティとフィーサは、泉の所に近付いてはしゃいでいる。
水がある所も特に危険は無さそうだ。
『――こんにちは。きみはだれ?』
外門から町へ入ってすぐの草原。
あまりに穏やかな風景に目を奪われていた、まさにその時だ。
おれとシーニャの背後、つまり外門側から女性の声が聞こえて来たことになる。
全く気付けなかったし、気を付けてもいなかった。
「うっ? いつから後ろに……」
「ウゥゥ……!」
「いや、何か気配が……?」
敵意を出さなくても大体の気配は索敵スキルが自然と働くが、全く気付けなかった。
人間に見えるが、そうじゃない可能性がある。
『おれはアック・イスティ。きみは?』
『イスティ? そう、きみがそうなんだ。ぼくはリアン。この庭はぼくの庭』
『庭……? 君の庭ってことか。勝手に入ってすまないな』
『――あまり驚いていないのかな? それじゃあ……ゆっくりしていってね』
『えっ?』
てっきりすぐに戦いが始まるとばかり思っていたが、この女性は敵でも無ければ末裔でもないということなのだろうか。
エルフには見えないし人間でも無さそうだが、様子を見るしか無さそうだ。
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