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第十三章:新たな地

214.神剣フィーサブロスの目覚めとスキル上昇

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「はふぅぅ~……! ハァハァハァ……アック様っ、アック様が理性を失って来ましたよ~!!」
「――くっ、くぅぅっ」
「フニャァ~フニャウゥ……アックを存分に抱きしめまくるのだ」

 完全に身動きを封じられたのは初めてかもしれない。
 シーニャも凄い力だが、問題は興奮しまくっているルティだ。

 加えて、湯の中ということでのぼせて力が出せない。
 非常にまずいし、熱耐性の無いシーニャがまた眠ってしまう恐れがある。

 ――そう思っていたが、急激に体が冷えて来た。
 灼熱の湯のはずなのにどういうことなのか、お湯の水面に薄い氷が張り始めている。

「ガチガチガチガチガチガチ……ささささ、寒いで、でででですすすす……」
「ウニャ? 何が起こっているのだ?」

 状況変化のおかげで熱から冷えたシーニャの力が抜けたので、この隙に急いで下衣を着た。
 ルティはガチガチに震えて、湯船から出られなくなっている。

「――全く、イスティさまも仕方が無い男の子だなぁ」
「フィーサ! 目覚めていたのか」
「それはそうだよ! だって、お湯の中に浸かっていたんだよ? わたしだけ眠っていてイスティさまってば、ルティやシーニャと仲良くしてるんだもん。気付くと同時に、体内の氷属性を広げちゃった!」

 フィーサが目覚めてくれたのは良かったが、人化しているのに穏やかじゃない。
 しかも彼女の体内に残るエンチャントアイスを解放したということは、相当怒っているようだ。

「完全回復したのか?」
「あ~! 話を逸らしてる~!! イスティさま、わたしにも何かしてくれるんだよね?」
「フィーサにか……?」
「そうだよ! してくれないと、ルティが凍っちゃうんだから!!」
「そ、それはまずいな」
「じゃあ、はい! わたしにも何かして!」

 フィーサが目覚めたのも、生命力を高める温泉テルモンのおかげだろうか。
 しかも興奮状態で、いつもより強気だ。

 人化して少し年上のお姉さんな外見ではあるが、中身はとても幼い神剣。
 ここは軽く、口づけだけに留めておくことにする。

「――ひゃぅ、ひゃうぅっ……!? イスティさまにキスされた、キス……」
「ああ。こんなことで悪かった――な!? お、おい、大丈夫か?」
「し、心配いらないけど、熱を放出して来るね!」

 想像以上に純粋だった。口づけだけで熱を帯びてしまうとは、これは気を付けなければ。
 慌てるようにして、フィーサは人化のまま湯に飛び込んだ。

 すると氷が張っていた湯が、あっという間に灼熱の温度にまで沸騰した。
 ルティは落ち着きを取り戻し、肩を隠すくらい浸かり始めた。

 シーニャは全身をゆでだこのように真っ赤にしながら、冷えた地面を這いずり回っている。
 フィーサが目覚めたかと思えば、相変わらずドタバタだ。

 ◇◇

「シーニャ、大丈夫か?」
「……ウ、ウニャ。熱すぎて入れないのだ……それに、何か変な感じがしたのだ」
「はえぇ~……私もあんな恥ずかしいことを言ってしまうなんて……恥ずかしいです」
「我を忘れたとかか?」
「何だかとっても興奮しちゃいまして~、そうかもしれないです」
「シーニャ、シーニャじゃないみたいだったのだ」
「ふむ……?」

 運気上昇で生命力を高めるというよりも、興奮状態にさせて自分を見失わせる効果なのでは。
 特にルティの興奮状態は、手がつけられない状態だった。

「フィーサは? フィーサも何かおかしい感じになったのか?」
「おかしいことなんてないよぉ? う~ん……あ! そのお湯の効果が分かるようになったかも!」
「それって、スキルが変化したってことなのか?」
「うん。多分そうだよ」

 おれだけは特に何の違和感も感じられないものの、彼女たちの状態変化は急激だった。
 フィーサだけがスキルを得られたということは、やはり何かの効果効能が含まれていたことになる。

「イスティさま」
「うん?」
「イスティさまはすでに生命力が強いから、興奮しなかったでしょ?」
「興奮はともかく、生命力は上がりようがないのか」
「小娘たちはまだまだ強くなれる潜在能力があるから、お湯の効果で興奮しちゃったかもなの」

 おれの生命力は、恐らく母の幻に出会えた時に爆上がりしているはずで、上がりようがない。
 それ以外の力も言い伝えの温泉程度では、変化しなかったということだろう。

「ふぅ。まぁ、いいお湯だったな」
「ウニャ」
「私、何だか力がみなぎってきた気がします~!」
「それならルティ。この先も先導するか?」
「嫌ですよ!!」

 さすがに学習したか。シーニャもおれの傍を離れずにいるし、それがいいかもしれない。

「……それなら、わたしが先に歩くけどいい?」
「フィーサがか?」
「スキルを試してみたいの。イスティさま、いい?」
「――ということは、この先の気配に気づいているんだな?」
「うん! だからわたしに任せて!」
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