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第十三章:新たな地

212.最期の温泉で運気上昇!? 前編

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「どうしました? 何だか神妙そうな顔をしていますよ?」
「いえ……」
「ふふふっ、ロキュンテからどうやって来たか気になっているんですよね?」
「いや、まぁ……」
「その前に……ルティシア!」
「は、はいっっ!!」
「あなたはパパのお手伝いをして来てね」
「わっ、分かりましたっっ!」

 ルシナさんの言葉に素直に従って、ルティは慌てて村の中へと駆けて行った。
 やはり母親の迫力は半端じゃない。

「さて、アックさん。まずはおめでとう! よく頑張りましたね」
「――はい?」
「ご自分の国を取り戻しましたよね?」
「何故それを……」
「そうですね、私が占術士だから……と言えば納得出来ますか?」

 直接聞いたことがあるような無いような、いずれにしてもルシナさんは不思議な力の持ち主だった。
 娘であるルティにも不思議さがあるし、やはり親子だな。

「確実には分からないんですよね?」
「ええ。占い、先見の明……先を見通すことが出来ますが、上手く行くかは本人次第です」
「なるほど。では、ここへはどうやって来れたんです?」
「アックさんは、薬師くすしの村を覚えていますか?」
「確かドワーフしか入れない……でしたっけ?」
「それと、スキルを極めた者ですね。あまり覚えていないようですね」
「濃い霧で何も見えなかったくらいしか……」

 確かルシナさんのお姉さんがいたはず。
 その時点では、スキルが足りないから村には入れないとか散々だった。

「私たちはまさしく、幻霧のネーヴェル村から来たんですよ!」
「――ということは、村は全く未知の土地にあったと……そういうことですか」
「そうですね。ここファレワル村もそうですし、この先の町も人知れぬ地なのです。アックさんがここへたどり着いているということは、エルフに認められたのですね?」
「は、はい」
「でしたら背負っている獣人の彼女と、眠っている神剣の子を起こすついでに、アックさんも入りに行きましょう!」
「えっ? 入りに……?」

 どう考えても温泉の話だと思われるが、温泉に入れば何か得られるのだろうか。
 しかもフィーサとシーニャのことも、ルシナさんには分かっているようだ。

 ◇◇

 ルシナさんの案内で、ファレワル村に足を踏み入れた。
 村の中も至る所で間欠泉の水蒸気が噴き上がっていて、村に住んでいる人間は極端に少ない。

 ルティの姿はすぐに見つけることが出来たものの、ドワーフの親父さんであるテクスと汗を掻くような作業を、何度も繰り返していた。

「ルティシアですけど、最近弱くなってませんか?」
「……いえ、そこまでは」

 寒さにはめっぽう弱かったのと、体力が無くなってたくらいか。

「いいえ、あの子は故郷にいた時よりも弱っていますよ。気を遣ってくれているのですね」
「いや、すみません」
「そんな予感もありまして、あの人と一緒にお湯汲みをさせています」
「それだけで強く?」
「熱い所で熱い作業をするだけで、努力を思い出すはずですから」

 最近は戦わせるよりも後方支援を任せていた。
 しかしルシナさんの言い方だと、前に出て戦わせた方がいいようだ。

「それにしても物凄い汗を流していますね……」
「――ですので、アックさん」
「はい」
「あの子とこの子たちで、奥にある湧泉に入って来てください!」
「……温泉ですよね?」
「そうですよ~。ここは間欠泉のおかげで自然に湧出してますから」
「ルティと彼女たちとおれでですか?」
「何か問題でも?」

 問題ありまくりだろう。

 今までは理性を保ったままでルティに背中を流されたくらいで終えているのに、目覚めていないシーニャとフィーサを入れるだけでなくルティも一緒となると、問題が発生しそうになる。

「せめてルティは、ルシナさんとご一緒にどうですか?」
「私たちは入る必要が無いので、遠慮なさらず」
「……どういう意味です?」

 ルシナさんを問い詰めるつもりは無いが、やはり何かあるような口ぶりだ。
 首を傾げていると、入り口で声をかけてくれた彼が話しかけて来た。

「ファレワル村の湧泉は、人生最期の温泉だからだよ」
「死に際に入る温泉!?」
「ファレワル村の先にある町は、命を落とすくらい危険な所。その前に湧泉で運気上昇をさせておけば、助かるかもしれない……という意味があるのだよ」

 ルシナさんをちらりと見ると、深く頷いている。
 そこまで危険な町なのか。

 そうなると理性は抜きにして、ルティたちと汗を流しながら運気を上昇させるしか無さそうだ。

『アック様~! お待たせしましたっ!!』
『お、おぅ……』
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