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第十三章:新たな地

209.道しるべと戦いの予感

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「シーニャ! 上だっ」
「ウニャウッ!!」

 魔物の隠れ場所になるだけあって、天井や両側の壁には小さな魔物が棲みついていた。
 樹洞内部は、岩で出来た洞窟でもないので所々に日が差している。

 レベル的に大したことは無いが、戦うのには窮屈な所ということもあり、シーニャと連携して魔物を排除しまくっている最中だ。

 ルティは暗闇と狭い所では拳を存分に振るえないとかで、後方支援を望んで控えている。

「ウウウ……、すり傷がたまるのだ」
「痛むか?」
「痛くは無いのだ。どっちかというとかゆいのだ」

 ここでの戦いは魔法を一切使わず、森に強いシーニャ一人に任せている。
 ここにいる魔物のほとんどはコウモリが多いが、厄介なのは樹木に長く居着いている樹人じゅじん族だ。

 はっきりとした姿は確認出来ないものの、皮膚がかゆくなる樹液のような攻撃を仕掛けて来ている。
 これには強さがあるシーニャでも、完全に防ぐことが難しい。

「……ふむ。ルティ! シーニャに回復薬を投げてくれ!」
「は、はいっっ! 投げればいいんですね~!?」
「急げ!」

 シーニャ自身は回復魔法が使えるが、攻撃に集中している時は回復する意思を閉じているらしい。
 そんな時に有効なのは、ルティの料理と錬金術、それと薬師の知識だ。

 薬師くすしとしてのスキルはまだ基本でしか無いが、回復薬程度なら即作れる。
 そう思って任せていたら、

『シーニャ、行きますよぉ~!!』
『……ウニャ?』
『てぇい、てぇい、てぇぇぇぇい~!!』
『フギャッ!?』

 何事かと思っていたら、ルティは大量に作っていたらしい回復薬を次々と投げまくった。
 回復薬は瓶では無く改良された小さな麻袋に入っているようだが、いくら何でも投げすぎだ。

 予想もしていなかったシーニャが、大量の麻袋の重さで転倒。
 かえってダメージを負ったように見える。

「ルティ! あ、あんなに重たいもんを投げなくても……」
「いやいや、軽いものですから大丈夫ですよ~! 即効薬ですから、たちまち超回復! ついでに耐性も得ちゃいますよ~」
「どんな効果があるんだ……」
 
 意表を突かれたシーニャだったが、大量の麻袋効果で辺りの魔物もいなくなったようだ。
 回復薬の効果が効いたようで、シーニャはすぐに起き上がりおれの元に戻って来た。

「アック、アック! ドワーフが一番危険なのだ!!」
「かゆみとか痛みは消えた?」
「ウニャッ! それだけはドワーフのおかげと言うしか無いのだ……」
「そうだな……」

 シーニャへの支援を成功させたとはいえ、おれに怒られるのを予想してか、ルティが頭を抱えてうなだれている。
 元はと言えば回復薬を投げさせた原因がおれにあるし、ここはむしろ褒めるべきか。

「はぁぅぅ~……またやりすぎちゃった……」

 相当に落ち込んでいるようだが、ここは優しく声をかけてあげねば。

「あ~……え~と、ルティ!」
「ひ、ひぃ……は、はい~?」
「いや、怒ってないから顔を上げていいんだぞ?」
「で、ですけど~……」
「そ、それじゃあ、回復薬をおれにもおすそ分けしてくれないか?」
「アック様にですか!?」
「おれは自然治癒はあるけど即効薬は無いから。だからもらえると嬉しいぞ!」
「そっ、そういうことでしたら!」

 決して嘘でもない言葉に、ルティはすぐに顔をぱぁっと輝かせた。
 これにはシーニャも安心した表情を見せている。

 おれに何袋か手渡すと、今度はルティが先頭に立ち始めた。
 どうやらシーニャの不安を消したい気持ちが芽生えたようだ。

『アック様! それとシーニャ! ここから先はわたしがご案内します~!! 樹人族だろうとコウモリだろうと、拳で追い払いますよぉぉ!』
『それはいいが、気を付けろよ!』
『アックの言う通りなのだ。ドワーフは慌てすぎなのだ! ウニャ』
『どうってことはありません! とおぉぉぉぉぉ!!』
『あ、こらっ! そんなに走らなくても――』

 おれとシーニャが言った傍から、何か強烈な衝撃音が響いた。
 もしや樹洞の壁にでも衝突したか。

『あいたぁぁぁぁ……!! あっ! アック様、アック様! こっちへ来てくださいっ!!』

 全く、騒がしい娘だ。
 どこかにぶつかったらしいが、何か見つけたのか気にもしていないようだ。
 
「何だ? 道しるべ?」
「そうですっ! きっともうすぐ出口なんですよっ! すぐです。すぐすぐ!」
「ウニャ? 何て書いてあるのだ?」
「……カウム樹洞。この先、外、危険……か。出口でいきなり襲われるとかじゃないよな?」
「襲われても問題無いのだ! ウニャッ!」
「大丈夫ですよ~! アック様なら!」
「それはそうだが……不意打ち攻撃があるかもしれないし、防御態勢で進むぞ」

 やはりというべきだろうか。
 エルフが長く守って来た森の先では、戦いは避けられないかもしれない。
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