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第十二章:認められし者

194.イデアベルク・イスティの帰着

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「――う……んん」

 意識を閉ざしてから、どれくらい眠っていたのだろうか。
 どうやら光とともに母に会えたらしいが、どんな姿だったのかさえよく覚えていない。

 母の名を冠したアーマーが覚醒したが、これで忘れ去られたシリーズが全て揃ったということなのか。
 もっとも錆びた剣は未だに錆びた状態のままで、装備袋に入れっぱなしなのだが。

 それでもとりあえず、これで国を再建することが出来そうだ。

 ◇◇

 エルメルアーマーのスキルでも気付いたが、どうやらおれは水属性に縁があるらしい。
 そのせいか分からないが、さっきから顔にポタポタと水がしたたり落ちて来ている。

 眠っている最中に、雨でも降って来たか。
 そう思っていたが、

『ア、アック様、アッグざば~目をお覚まし下ざいいいい~……!!』
『ウニャウゥゥ……アックがいないと、シーニャ、悲しいのだ……寂しいのだ……』
『キサマ! 我を残して早くも未亡人とさせるつもりか!! 我は許さぬぞ! 聞いているのか、キサマ!!』

 ――聞こえて来る声は、ルティとシーニャ、サンフィアの三人だけだ。
 そして恐らく涙を流しまくっているのは、ルティなのだろう。

 一体どうして、そこまで悲しんでいるのか。
 フィーサには特に説明をしていなかったが、それが仇となってしまったようだ。

 彼女たちのすすり泣きと泣き声を聞いている限り、早とちりで悲しんでいるように聞こえる。
 とりあえず目を開けようと思っていたが、体力の消耗なのか起き上がることが出来ない。

 そういうことなら、今は大人しく眠ることにした。

 ◇◇

『うぐっぐずっ……どうすれば~どうすれば~』
『ア、アックの体が冷たいのだ! シーニャ、アックを温めるのだ!! ウニャゥ』
『えっ?』

 どうやらまだルティは泣きじゃくっていて、シーニャは何かの行動を起こすらしい。
 どれくらいの時間が経ったのかが不明だが、大げさにしすぎだろう。

「むむぅぅ……」

 何やら首元から上半身にかけて、モフモフとした感触が継続している。
 顔には相変わらず、大量の水滴が落ちまくりだ。

 これはいい加減目を覚まして、起き上がらないと。

『――のわっ!?』

 目をうっすら開けると、何故か目の前にヒゲがあってくすぐったい。
 胸元にはシーニャが乗っかったまま、離れずにくっついている。

 視線を頭上に移すと、そこには滝のように泣きじゃくっているルティの顔があった。

「アック、アック! 生き返ったのだ!?」
「へ?」
「ア、アァァァァァァ、アッグ様、アッグ様~!! あうぅ~良かった、良かったです~」

 二人とも何を言っているのか。
 とにかく起き上がろうと思ったが、シーニャが顔をこすりつけて来る。

「フニャン……まだ起きたら駄目なのだ」
「む……むむぅ」

 永遠のモフモフは、確かに捨てがたい。
 だが同時に、ルティの涙がずっと落ちまくりだ。

 こうなればシーニャを抱えたまま、上半身だけでも起こすことにする。

「ウニャ~? 起きるのだ?」
「そのままでいいよ、シーニャ」
「ウニャ!」

 ルティの顔しか見えていなかったが、空を見上げると夜になっていた。
 せいぜい数時間程度のはずなのに、周りから聞こえて来るのは賑やかな声だ。

「おれはどれくらい眠っていたんだ?」
「え、えっと~」
「シーニャ、ずっとアックの傍にいたのだ。時間なんて分からないのだ」
「わ、わたしもアック様の顔しか見ていないです」
「そうなのか……。近くにミルシェはいないのか?」
「ミルシェさんなら、獣人たちとエルフさんたちと話をしていますよ」
「フィーサは?」
「知らないのだ。アックが起きなくなってから、どこかに行ったのだ」

 眠っている間に、色々動きがあったということか。

「ラーナはどこだ?」
「カエルの子でしたら、戻っていますよ」
「戻……あぁ、そうか」
「びっくりしましたよ~! すごい光に包まれたと思ったら、アック様がどんどん冷たくなって行くんですから!! もう本当に、どうすればいいのか分からなくて……」
「ウニャ。ドワーフはアックに水をかけすぎなのだ!」
「手当たり次第の回復水をかけまくれば、目を覚ましてくれるかと~」

 母に会えたあの光は、危なかったということか。
 全然苦戦もしてないし、魔力も体力も消耗していなかったのに。

「なるほど、そうか……それは助かった。ありがとうな、ルティ。シーニャも!」
「と、とんでもないです~!」
「ウニャッ!」

 落ち着いたところでシーニャを抱っこして、おれは立ち上がった。
 そのまま周りを見回すと、魔物の屍骸は既に無く、離れた所に獣人たちが集まっている。

『あ、お目覚めですわね! アックさま、もう大丈夫です?』

 起き上がったおれに気付いたミルシェが、駆け寄って声をかけて来た。

「ミルシェ! どうなってる? おれはどれくらい眠っていて、今は何時だ?」
「……アックさまは、十日ほど眠っていましたわ! 今は夜の八時といったところですわ」
「と、十日……!?」
「ええ。アックさまは眠られていましたけれど、この国に帰着されたことで、状況が一変していますわ!」
「帰着か……」
「とりあえずお食事の準備が出来ていますわ。落ち着いたら、その子たちと一緒にあたしに声をおかけくださいませ」
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