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第十二章:認められし者
190.イデアベルク魔導戦闘戦 3
しおりを挟む『おい、キサマ!! 理由は後で聞かせてもらうからな! 我というものがありながら――』
『アックさま、どうぞ終わらせてくださいませ。あたしくしたちは、ご帰還をお待ちしておりますわ』
ミルシェとサンフィアの声を聞きながら、おれは黒煙の下に向かって歩き出した。
◇◇
『イデアベルク・イスティ……認識、認識。遠隔攻撃にシフト開始……迎撃用意』
黒煙からの視界が大分薄らぎ始めると、動きを止めていた魔導兵も動作を再開させる。
ミルシェたちがいる場所から、比較的近い所にいたのは五体くらいの魔導兵だ。
こいつらからは、特に識別情報が見えて来ていない。
そうなるとこれらは、単純な攻撃パターンを変えられる個体だということが分かる。
両親の名を識別情報にしている個体との違いは、公爵家から直に魔力を注がれた個体というだけ。
もちろん他の貴族、国民も魔力を注いでいるが、単におれの家系は魔力が強かっただけの話だ。
魔導兵そのものが両親という訳でもないので、破壊することに何の躊躇いも持たない。
『イ、イスティさま~! わらわは、ここにいるなの~……』
手前に見える複数の魔導兵の先から、フィーサの声が聞こえて来た。
やはり無事だったようで、回収を求めている。
だがその前に、遠隔攻撃を仕掛けて来る魔導兵を、完全に破壊することが先決だ。
遠隔攻撃といっても、所詮半端な魔力供給からの攻撃。
ここは素早く動くことにする。
識別の無い魔導兵に対し、通常ではあり得ない程の速さで奴らの後ろについた。
「警告、警告……!! ターゲット消失、消失……リキャスト開始……」
おれの動きを見失った魔導兵に対し、魔法による攻撃では無く拳に力を込めた。
元がゴーレムの魔導兵は決まった箇所に、人間の心臓でいう核が存在する。
その場所は、まだ公国が健在だった時に飽きるほど見て来た。
そこを目がけて、激しい勢いのままに破壊重視の拳を叩きつける。
遠隔攻撃から別のパターンにシフトしようとしていた魔導兵らは、不意を突かれて対応出来ず、危険回避する間もなく木っ端微塵となった。
「……ここまで残っていたようだが、塵になって土に還っておけ」
既に存在を失った魔導兵を消し、残りは二体となった。
親の名を冠した魔導兵は、恐らくオールタイプ。
ルティとシーニャに使った魔法攻撃も、大した魔力消耗をしていないはず。
そうなるとフィーサの攻撃で、片方の魔導兵にどれ程のダメージを負わせているか。
◇◇
「フィーサ、無事だな?」
「もちろんなの! わらわが神剣に生まれ変わってから、全然力を使っていないなの~」
「攻撃した魔導兵はどうなった?」
「とにかく吹き飛ばしてやったなの! でもでも、どうなったのかまでは確かめられていないなの」
爆炎では核を破壊するまでには、到底至らない。
そうなると、多少なりの蓄積ダメージを与えた程度だろう。
『エルメル・イスティ……魔力回復完了。イデアベルク・イスティ認識……近接戦闘シフト』
『ベルク・イスティ……反撃態勢完了。イデアベルク・イスティ認識……属性防御シフト』
どうやら二体とも向かって来るようだ。
一方は近接戦闘で、もう片方は物理攻撃にカウンター対応で、魔法攻撃を防ぐつもりらしい。
「イスティさま、わらわを存分に使って欲しいなの!」
「……そうさせてもらう。フィーサには全属性の魔法をエンチャントする。そのうえで、可能な限り剣技だけで破壊する!」
「かしこまりました、マスター」
最近まで、剣としてのフィーサをほとんど使って来なかった。
そのせいか、彼女がおれのことを『マスター』呼びをしていない状態が続いた。
フィーサの潜在能力も解放して、残りの魔導兵を完全に消してやる。
そうすれば、名前だけ生きていた親も浮かばれるはず。
◇◇
黒煙はすっかり消え、上空の色がはっきりと見えるまでになった。
ミルシェたちがいる所とここは、数百メートルは離れている。
この場所から彼女たちがいる所に、近づく恐れはない。
そう考えると、思いきりやれるという一種の”楽しみ”が膨らむ。
「エルメルとベルク……全く、どうせなら莫大な遺産を残して欲しかったものだな」
「……」
神剣フィーサブロスは、おれの声に反応しない。
あっさり終わるにせよ、そうでないにせよ神剣は、神経を研ぎ澄ましている。
「――エンチャント、ライザーを付与。識別エルメル・イスティに攻撃を開始する!」
前傾姿勢で腰を低く落とし、フェイントを兼ねた突進剣技を行う。
まずは、母の名を騙る魔導兵を塵と化す――。
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