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第十二章:認められし者

186.凌駕の絶対者 前編

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 二体の魔導兵を破壊した後、おれたちはサンフィアの道案内で居住区の中心地にたどり着く。
 
 ミルシェの考えどおり真紅のローブが魔導兵を誘うものとなっていて、ここにたどり着くまでに数十体の魔導兵が姿を現わした。

 そのどれもがガラクタ並の弱さだったが、真紅のローブを狙いに来ている動きだった。
 そう考えると、ローブに潜在するバフに反応していたのは間違いないだろう。

「……イスティ、ここだ。ここがかつての公国の中心地だ。懐かしいか?」
「おれの記憶は貴族が行き交っていた頃までだ。廃墟に懐かしむことは無いな」
「気を悪くしたのか? だがキサマがここを奪還するのも、間近だぞ!」
「何故そう言い切れる? ここに魔導兵全てがいるというのか?」
「その通りだ! 目の前にそびえ立つ建物には、公国の魔力を集中させた施設が残されている。我はそこで――」
「……サンフィア。何故お前がそこまで知っている? それに、その真紅のローブはどこで手に入れた?」
 
 森林ゲートをひたすらに守り続けたエルフで、人間を許さないと言っていた彼女。
 だがおれと誓約を結び、態度を変えた。

 しかし真紅のローブといい、公国内の案内といい……ここを知り尽くしての言葉に聞こえる。
 生き残りのエルフと生き残りの獣人を守っていたが、彼女はもしかしたら……。

「アックさま。思った通りで間違いありませんわ! 彼女は――」
「待て、女! 我の話を聞くがいい」

 ミルシェの言葉を遮り、サンフィアは沈痛な表情で話し始めた。
 どうやら敵ではないことを証明する話のようだ。

「……分かった。話を聞く」
「我は人間……公国の貴族の……エルフとして生きて来た。イスティがまだ幼き頃より、我はこの国で暮らし、貴族どもの慰み者として住んでいたのだ」
「――! な、慰み……それってまさか――」
「案ずるな! フ……滅びの公国を取り戻すイスティが現れることを信じていた我は、全てを許してなどおらぬ。そうでなければ、キサマの妻となり得んのだからな! 安心したか?」

 ここへ来た時、エルフと獣人だけが生き残っていたことに違和感を感じていた。
 まさかと思ったが、愚かな貴族によってしいたげられていたようだ。

「……そうなると滅亡へ導いたのは、フィアの仕業か?」

 半端な魔力を有していた貴族がゴーレムを魔導兵へと変え、しかし扱いを間違えて暴走させた。
 魔導兵は反乱を起こし、公国に存在する人間全てを抹殺、あるいは排除。

 そう聞かされて国を追われたが、どうやら滅亡へ向かわせたのは、貴族への懲らしめが関わっているようだ。

「導いてなどいない。我は、貴族……栄華に溺れた人間を正そうとしただけだ。滅ぼすつもりなど、我には無かった!」
「調子のいいことを言いますわね! 人間は愚かではありますけれど、その為にアックさまは追われる運命になったのですわ! アックさまに近づいたのが、何よりの証なのではなくて?」
「魔導兵どもは魔力を施設から奪い、勝手に増えて行ったに過ぎない。我らだけでは、ここまでなることなどあり得なかったのだ!」
「……おれがここに来なかったら、どうするつもりだったんだ?」
「無論、ここで果てる運命だっただろう。だがキサマが現れた。それも、凌駕の絶対者としてだ! 我はキサマの強さを認め、キサマに尽くすことを決めた!! ここを正すのはイスティ、キサマしかいない!」

 魔物を一匹倒しただけの強さで、こうも考えを変えられるものだろうか。
 今となっては記憶が無いが、親を含めた貴族連中が公国の為に何かをしていた思い出は一切無い。

 そうなるとサンフィアを含めた獣人の子たちの方が、滅亡公国を何とかしようとしていたことになる。
 しかしまさか、滅亡を知る者だったとはな。

「イスティさま、このエルフをどうするの?」
「そうだな……」
「我は罪を背負う。イスティ、キサマの為にだ!」

 滅亡したきっかけは確かにサンフィアの行動によるもののようだが、再建すればいいだけの話だ。
 再建の為には、サンフィアはもちろん獣人の力が必要となる。

 何とも言えないが、今さら罪を償わせる考えには至らない。
 とにかく今は、魔導兵を殲滅するのが先決だろう。

「フィアの言ったことが真実だとしても、おれは罪だとかそんなのは気にしない。元はといえば、調子に乗った貴族が悪いんだからな。だから気にしなくていいぞ!」
「それでこそ我が夫! そして幼きイスティの頃のままだ!」
「……何? 幼い頃のおれを知っているのか?」
「キサマは分からないだろうが――」
「――それで、あなたのそのローブはどこで手に入れたのかしら?」

 どうやらミルシェの怒りは、限界が近かったらしい。
 真紅のローブは間違いなく、レアな防具。

 その入手先によっては展開が大きく変わりそうだが……。

「フッ……、真紅のローブは、幼きイスティからの贈りものだ! 出会う運命だったということだな!」
「――な、何!?」
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