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第十一章:滅亡公国

175.イデアベルク公国 森林ゲート抵抗戦 2

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「何故ここにいるか、だと? 国を捨てた人間が吠えるな! 我らエルフは、キサマたちが放棄したここを守り、棲んで来ただけのこと。我らだけでは無く、兎人とじん族もここを守り抜いた。それだけのことだ!」

 サンフィアと名乗るエルフが姿を現わしてから、ちらほらと他の獣人も姿を見せ出す。
 エルフの他にも、兎人族がいてシーニャと同族の虎人こじん族、そして少数ながら猫人族の姿も確認出来る。

 耳の長いエルフが数人と、獣耳の獣人が数十ほど見える。
 信じたくは無いが、貴族の遊びにでもされたか。

「守り抜いた? それはここのエリアをか?」
「我らが人間に与えられた場所は、この森ぞ! 獣人はもちろん、エルフはこの先に立ち入ることさえ許されなかった。故に、魔物が侵入しようとも森だけは必死に守り抜いたのだ!!」

 公国に暮らしていた頃からそうだったのだろうか。
 子供の頃は、居住区から外側へは滅多に出ることが無かった。

 まして国が危ない時も、森に何がいるのかさえも分からずに逃げた。
 それだけに、まさか森に棲んでいたとは。

「お前たちは、いつからここにいる?」
「魔導兵反乱の時より前だ。近くの森を追われ、ここに棲みついた。国を捨て逃げたキサマごときが、我らに戯言たわごとをほざくな!」
「……なるほどな。おれがガキの頃からいるのか」

 イデアベルク公国は貴族が多くいたが、君主はどうしようもない奴だった。
 裕福でなまじ魔力も有していただけに、滅亡の原因を作ってしまったわけだが。

 しかし周辺を含めた規模でいうなら、王国よりも面積はでかい。
 ここのエルフは、周辺の森を追われてここに棲みついたということか。

「我らはキサマら人間と、講和するつもりは無い! 去らなければ、我の刃がキサマの喉元に突き刺さると思え!!」

 なかなか好戦的なエルフだ。
 他の獣人は子供も混じっているせいか、石や木の矢を向けているのが精一杯の抵抗だ。

「フゥゥ!! お前、何なのだ! アックに刃を向ける、シーニャ許さないのだ!!」
「……フン、人間の周りをウロチョロしているかと思っていれば、虎人族のメスか。人間に従うメスに用は無い! もちろん、そこのドワーフも同様だ!!」
「えぇっ!? わ、私も敵とみなされているんですか!?」
「この人間に従っている時点で、全て敵とみなす」

 人間がいなくなってからも、森を守り抜いて来た……となると、抵抗するだろうな。
 出来れば戦わずに行きたいが、国を立て直すにはエルフたちも必要になる。

「ウウゥッ……!!」

 そう思っていたら、シーニャの方から攻撃を仕掛けていた。
 森よりも際立つ真紅のローブに身を包むエルフは、姿だけで判断すれば魔導士そのもの。

 シーニャの攻撃に対し、特に武器で応戦するつもりが無いようだ。
 それどころか口元で何かを呟き、詠唱のようなものを発しようとしている。

 幻影の火矢を作りだしたのも、どうやらこのエルフらしい。
 槍の矛先はおれの喉元にあるままで、シーニャには幻影魔法。

 このエルフの実力は相当なものなのでは。
 シーニャが先に動いてしまったので、相手の出方を待つしか無さそうだ。

「イスティさま、わらわが人化して獣人を制するなの」
「人化して? どうやるんだ?」
「その為にも、わらわに炎属性を付与して欲しいなの」
「……よく分からないが、任せていいんだな?」
「はいなの!」
「フフッ、小娘だけでは心もとないですし、あたしも動きますわ。アックさまは、虎娘とルティの動きを見定めてからお動きくださいませ」
「ミルシェも獣人の方に行ってくれるのか。それなら、頼む」
「むぅ~!」

 言われたとおりおれは、ふてくされるフィーサに炎属性を付与。
 そしてミルシェは、フィーサを手にしてエルフの死角から行動を起こした。

 槍だろうが魔法だろうが制するのは容易たやすいが、力を示すのはここじゃない。
 エルフとシーニャ、ルティの様子をうかがいつつ彼女たちの動きに注意を払うことにした。

「――フン、小賢しい人間め」
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