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第十一章:滅亡公国
166.ルーヴとアック、対峙する
しおりを挟むミルシェに知らせたことに関しては問題無いし、想定通りの反応だ。
しかし問題は奴だ。会話の流れからして、何かしらのちょっかいを出して来ることは間違いない。
「アックさま。その滅亡公国へは、素直に行くことが可能なのかしら?」
「魔物がはびこっているだろうが、行くだけなら問題は無いな。何か気になることでも?」
「……いえ、先程の男の様子が気になったものですから」
ミルシェの監視スキルは相当に鋭いな。
おれのお目付け役などと言っていたが、一瞬で奴の気配に気付く辺りがさすがだ。
確かに奴の言葉には、何か含みが込められている。
おれがこの街に来たという時点で、すでに何らかの手を打っているのは違いないだろう。
嫌な言葉をもっと並べてもおかしくなかったが、すぐに警備に行くのも妙だ。
「ふぅん……イスティさまは貴族だったなの?」
「うっ? 起きていたのか、フィーサ」
「ウトウトしていたところだったけど、聞こえて来たら目が覚めてしまったなの」
「ふん、食えない小娘ですわね」
「それはお互い様だもん!」
やはりというか、フィーサとミルシェも仲が悪いようだ。
だからといって憎しみ合ったりするわけでもないが。
「二人とも落ち着け。で、フィーサが言うようにおれは貴族の国の生まれだ。貴族になるつもりは無かったけどな」
「やっぱりそうだったなの! わらわを引き当てたのは必然だったなの~!」
「どういう意味だ?」
「わらわは宝剣だったなの。ガチャで引き当てるのも、きっとイスティさまには資格があったからだと思うなの」
家柄だとかそういうので出るものが決まっていたとすれば、レア確定以前のガチャの結果は、相手次第だったとでもいうのだろうか。
今となってはその辺を気にしても、仕方がないことではある。
「とにかく、アックさま。この街が安全かどうかは、まだ何とも言えないことかと思いますわ」
「あぁ。分かっている」
事を荒立てずに行きたいところだ。
『アック~! ポカポカふわふわなのだ~!! ウニャ!』
『こっちに宿がありますよ~! 早くおいでください~!!』
二人でどこかに走って行ったかと思っていたら、宿に案内されていたらしい。
ルティとシーニャは狼耳型の防寒具を身に着けて、暖かそうにしている。
「ふぅ……、アックさま参りましょう」
「そうしよう」
「イスティさま、わらわはしばらく大人しくしているなの」
「人化しないでか?」
「はいなの! その方が多分いいと思うなの」
「……分かった」
空が白く周りは雪景色ということもあり、正確な時間は分からない。
しかしあちこちの家や詰所に火が灯されているのを見れば、夜に近いと言えるだろう。
宿の入り口までたどり着くと、ルティが嬉しそうに声をかけて来た。
「えへへ、アック様! どうですか、どうですか~?」
「……何が?」
「もこもこしてて触りたくありませんかっ!」
「その耳のことか?」
「あのぅ~そのぅ……ぜひとも!!」
防寒具越しに触った所で分から無さそうだが、ここは素直にしておくか。
ルティの頭に手を近づけて、そのまま耳の所を撫でてみた。
「これでどうだ?」
「何だか不思議な感じで、アック様の温かさを感じます~」
「よく分からないが……狼の耳も中々いいな」
おれの前に屈みながら、ルティは狼の耳を触らせ続けている。
それにはミルシェも呆れて、さっさと宿に入ってしまった。
しばらくなでなでしていると、いつの間にか別の耳に変わっていることに気付く。
「フ、フニャウ~……」
「シ、シーニャか!」
「あれれ? えぇぇ!?」
「アック、触れるならシーニャの耳に触れていいのだ! 狼の耳なんて駄目なのだ!!」
「あ、あぁ、うん……」
寒さよりもルティへの対抗心の方が強かったらしい。
それはともかく宿に入るとベッドは人数分あって、それなりに広い作りだ。
それぞれで割り当てられた部屋に入って、ベッド脇の椅子に腰掛けようとしたその時だった。
「イスティさま、何か来たなの」
フィーサの言葉の直後、何の意図なのかおれの部屋に奴が訪れて来た。
『イスティ。いるか? ルーヴだ。入るぞ?』
『――何の用だ?』
『なに、他愛ないものに過ぎんさ』
……嫌な予感は大体的中する。
一人になるのを見計らって訪れる辺りが、この男の嫌な所だ。まぁ鞘にフィーサがいる時点で、全くの一人では無いわけだが。
ベッドを挟んで、おれと奴とで椅子に腰掛けながら対峙する。
そして、
「イスティがここに来た目的は、故郷に行く為だろう?」
「……それがどうかしたか?」
「今さら戻ってどうするのかと思っただけだ。滅んだ国を再生でもするつもりか?」
「だったら?」
「そういうつもりならば、騎士団長として見逃すわけには行かないってことを伝えたくてな」
「――お前には関係ない。邪魔をするな!」
「邪魔はしないが、騎士としての務めは果たさせてもらう。今からお前には、練兵場に来てもらうぞ! いいな?」
戦闘訓練という名の始末……か。
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