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第十章:力を求めて
152.拠点倉庫への訪問者
しおりを挟む病みつきになりそうなシーニャの耳触りと、全身の毛触り。
やってることはミルシェにしそうになったことと同じなのに、何という魅力。
「――アック、アック! くすぐったいのだ」
「……っと、悪い」
「もういいのだ?」
「この辺にしないと変な感じになりそうだから、やめとくよ」
「ウニャ?」
シーニャは年齢的にはおれやルティと同じだ。
そのはずなのに人懐っこさがあるからか、傍に置いておきたい衝動に駆られてしまう。
『『ただいま戻りましたっ!!』』
おっ? やっぱりどこか買い物に行っていたか。
しかも意外なことに、人化フィーサと一緒だ。仲が悪いはずなのに。
「イスティさま、ただいまっ! たっくさん買って来たよ~」
「何とも珍しい組み合わせだな。仲直りしたのか?」
「いえいえ、アック様違いますよ?」
「どういうことだ、ルティ?」
「ケンカばかりしていると思ったら、それは大きな間違いなんです! こう見えて、わたしも大人になりつつあるということなのです!!」
「……ルティが大人に? どの辺が?」
「その成果を、ただ今大急ぎでご覧に入れますよ! ではっ!」
大人になった成果を見せるとか、どういうことなんだ。
人化フィーサはいい意味でアクが抜けているせいもあるが、ルティと気でも合ったのか。
「ふんふんふん……何だかお肉なニオイがして来たのだ~」
「肉か。……そういや、シーニャは魚は食べないのか?」
「シーニャ、お肉大好きなのだ!」
「そ、そうか。食べないわけじゃないんだな?」
「ウニャ」
虎だから肉食の方だった。
――とはいえ、ルティの料理も口にしていたし何でも食べるのかも。
「あら? ルティが帰って来ましたの?」
「いま料理を作っているぞ。勢揃いしたことだし、ミルシェも食べるだろ?」
「……そうですわね。人間まがいのあたしですけれど、頂きますわ」
「味覚とかもそうなのか?」
「ええ。肉は好みませんけれど」
「なるほど」
「シーニャ、お肉がいいのだ! ウニャ」
「何も悪いとは言ってないわ。やりづらいわね……」
なかなか相性の悪さだけは直しようが無いな。
ミルシェはルティと組んでいたからいいが、シーニャは難しそうだ。
『お待たせしました! アック様、ささっ、どうぞどうぞ!!』
みんなで食べる日が来るとは、これは感慨深い。
しかし、
「……一応聞くが、何の肉だ?」
ルティとフィーサが運んで来たのは、何かの肉を練り合わせた肉団子だ。
市場で買ったらしい青銅製の鍋に、ごちゃまぜで食材が入っている。
「わたしが選んだんだよ~。褒めて褒めて~!」
「そうなのか。ルティ、何の肉?」
「それですね、何とっ! 色々です! 湖村で頂いたお魚や、ラクルで買った獣肉なんですよ~」
「いつの間に貰っていたんだ……。それはいいが、何の獣だって?」
「気にしすぎでは無くて? アックさま、ルティを信用してお食べになられては?」
「……それもそうか。じゃあ頂くか」
「どうぞどうぞ! 素敵な効能効果がありますよ~!」
「ほぅ?」
単なる料理で終わらせない所がルティのいい所でもあるが、どんな効果が生じるのか。
◇◇
「ウニャ~もう食べられないのだ~」
「肉はともかく、出汁はまぁまぁですわね」
「ゲプゥ……もう動けませぇん~」
シーニャ、ルティはたらふく食べ、ミルシェは食べられそうなものだけを食べたようだ。
それに引き換え、フィーサは本体が両手剣だからか、油だけを好んで舐めている。
「人化しても同じようには食べられないのか?」
「それはそうだよ~。人化出来ても、人間じゃないもん」
「……何だか申し訳ないな」
「どうして? わたし、イスティさまの剣だもん。使われるだけでいいよ~」
「そうか」
そう言われれば、フィーサが食事をしている所は見たことが無い。
人化で勘違いしそうになるが、神はそこまで万能な剣に仕立てなかったようだ。
「――! イスティさま、人化を解くね」
「分かった」
ソファのある所でルティたちはくつろいでいる。
そんな中、フィーサと同様に何かの気配を感じた。
『ごめんください。冒険者アック・イスティはここに?』
知らない女の声だ。
ここは民家と違って、出入り口は一か所だけ。
そうなると扉を開けて出迎えるか、開けずに声だけで対応するしか無い。
倉庫に戻って来た時点で、強力な防御魔法は解いた。
それでも無関係な者が近づけないようにしてあったが、それを突破されたことになる。
『それを答える義理は無い。アック・イスティに、何の用だ?』
扉を開けずに対応することにした。
ここにおれ目的で訪れているということは、手練れの何者かに違いないからだ。
『……アック・イスティ! 貴様の強さはまがいものだ。我らは認めぬぞ! 出て来て我らと戦え!!』
これはもしや挑戦状か?
しかも得体の知れない女と、複数らしき連中だ。
理由も無く戦うのは好きじゃないし、ギルドにでも持って行くとしよう。
『今すぐは無理だ。戦いたければ、ギルドにでも依頼するんだな! そうすれば依頼を受けてやる!』
『……いいだろう! アック・イスティ、貴様をこの地から追い出してやる!!』
何かと思えば、ラクルから追放したいようだ。
一体どこの連中なんだか。
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