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第十章:力を求めて

150.最後の専用魔石、確定する

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「――という訳で、ラクルに戻ることにする。戻って来たミルシェにも、部屋を割り当てたいしな」

 ミルシェのおかげで、シーニャとルティ、おまけにフィーサまでもが綺麗に洗われていた。
 ルティの赤毛は一層の明るさを取り戻しているし、シーニャのモフモフも完全なものだ。 

 シーニャの警戒心は最初解けていなかったらしいが、ミルシェに逆らえない空気を感じて、今はすっかりと大人しくなっている。

『アックさん! ラクルに帰られるそうですね』

 小屋の前にいた所で、村長であるラーシュに声をかけられた。
 ラーシュには旧湖村のことを、それとなく教えておいてある。

 おれの話を聞いた彼は、何度か頷いて何かを納得していたようだった。
 
「帰るというか、戻ると言うべきか……ギルドの加入の件、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそですよ! もちろん、他のギルドに入って頂いても問題ありませんので、今後も釣りを頑張ってください!」
「そうですね、そうします。また寄りますんで、その時はまた!」
「お待ちしています」

 釣りギルドの面々には、スキルアップで居場所が分かるらしく、特に挨拶はしなかった。
 村長以外の人とはほとんど関わらなかったが、また来た時には話も聞けるだろう。

 ミルシェが馴染んでいた湖村ではあったが、彼女も軽い挨拶を済ませていただけだった。
 おれたちは東アファーデ湖村を後にして、ラクルへ向かう。

 ◇◇

 ラーシュ村長に聞いていた通り、ラクルへは歩いて一時間もかからなかった。
 東の海岸沿いを歩いていた途中、かつてミルシェがいた海底神殿らしき残骸が沈んでいたのが見えた。

 彼女を救い出すためだったとはいえ、何とも言えない時間が流れた。
 しかしミルシェ自身は、吹っ切れた表情を見せてくれたので、気に病むことは無かった。

 そうこうしているうちに、久々のラクルに到着。
 外から見える限り、頻繁に船が入出港しているだけで、大して変わっていないように見える。

「着いたのだ?」
「そうだと思いますよ~! アック様、お先に行ってていいですか~?」
「わらわも行くなの~!!」
「待った! フィーサ、おれの手を握れ」
「え? 急にどうしたなの?」
「……おれたちの倉庫に防御魔法をかけてある。解錠出来るようにするから手を」
「はいなの!」
「よし、いいぞ」

 念には念を入れておいたが、たとえSランク冒険者だろうが侵入はされていないはず。
 シーニャを先頭に、彼女たちは拠点でもある倉庫に、嬉しそうに走って行く。

 ラクルに入る手前の外に取り残されたのは、おれとミルシェだけ。
 これには理由があり、彼女の強さなんかを確かめたい気持ちがあったからだ。

「……ふぅ。アックさまも大変でしたのね」
「ミルシェ……いや、シーフェル王女としてどうだったんだ?」
「何もありませんわね。あたしはご存知の通り、気ままな水棲怪物。人間の為にどうこうするつもりなんて、ほとんど無かったですわ」
「そうだろうな。でも、王国は救えたんだろ?」
「それもほとんど、アックさまのおかげですわよ」
「何もしてないぞ?」
「デーモン族が大量に飛んできましたわ。あんなのを寄越すなんて、あなたさましかいませんわ」

 そういえば命令を解除していなかったが、勝手に帰ったんだろうか。
 そもそも水棲王女を救えとしか言っていなかったし、多分大丈夫なんだろう。

「――それで、あたしだけを残すのはどういう意味を?」

 彼女の強さを測ろうと思ったが、その前に魔石に触れさせてみることにした。
 専用魔石の数を数えれば、やはりルティとミルシェで間違いないからだ。

 トラウザーに守られた魔石を取り出し、彼女に見てもらった。

「魔石……? 何も見えない……これは一体?」
「それは専用魔石だ。すでにシーニャとフィーサが、魔石によって成長を遂げている。ルティはまだだけどな」
「成長を? その魔石があたしの専用になると?」
「名前こそまだ現れていないが、間違いないとおれは思っている。触れてみてくれないか?」
「え、ええ……アックさまが言うなら」

 水棲怪物の時は、魔石自体にあてられて精神が不安定になっていた。
 しかし力を失った今なら、魔石に触れても問題は起きないはずだ。

「あっ――!」

 何かが反応したのか、彼女は魔石を地面に落とした。
 
「ど、どうした? 何か……」
「いえ、少し熱さを感じただけですわ」
「おれが拾っても?」
「もちろんですわ。何が見えるのかを知れるのは、アックさまだけですもの」

 専用魔石だった場合は、彼女にも見えるはず。
 とりあえず魔石を拾うと、魔石から見えた名前が浮かび上がる。

 【ミルシェ・オリカ 防御魔法に特化 潜在:主に依存】

「見えた?」
「そ、そうですわね。よく分かりませんけれど、新たな名前なんて今さらですわ……」
「ま、まぁ……」

 とにかくこれで、後はルティだけということになったようだ。
 ミルシェの専用魔石がラクル近くで確定するという予感は、何となくあった。

 しかしそうなると、ルティは一体どこになるのか。
 成長条件は不明だが、ミルシェで間違いなくて良かった。
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