146 / 577
第十章:力を求めて
146.忘れ去られた装備の返還
しおりを挟むすごい剣幕で怒鳴られるのを覚悟で、ルティたちのことをミルシェに話した。
いつでも謝れるような姿勢を取ろうとしたが、彼女から返って来た反応は穏やかなものだった。
「ルティ……あの子って、そういう運命を呼び寄せてしまうのかしらね。そう思いません?」
「ま、まぁな。心配じゃないのか?」
「ふふっ、心配なのはアックさまの方でしょう? 先程から落ち着かない様子を見せていますわよ?」
「……む」
そんなに必死な形相をしていただろうか。
現実問題としてあの湖村が過去だとしたら、彼女たちを過去に置いて来てしまったことになる。
しかしあそこの亡霊たちの依頼を遂げていない以上は、もう一度行けそうな予感もあるが。
いずれにしてもギルドに加入して、真面目にスキルを上げておく必要がありそうだ。
「ねえねえ、ミルシェ? わたしのことは聞かないの? わたし、フィーサなんだよ?」
「そんなのは知っているわ。その姿、その話し方……成長でそうなったということなのでしょう?」
「どうして分かるの!?」
「……聞かなくても大体分かることだわ。それより、アックさま」
「どうした?」
「アックさまを見つけた時のことなのですけれど、ボートの中ではなく、あたしの足下に流れ着いて来たものがありますわ。何か気になったので、ラーシュさまに見られる前に拾っておきましたけれど……」
「ふむ?」
ミルシェはゴソゴソと、ベッドの床下から何かを取り出す。
大きさや形を見る限り、それほど大きなものでは無さそうだ。
「これですわ。このお部屋に隠して置いていましたの」
「――あ! そ、それは……」
「アックさまのものなのでしょう? いま身に着けられている、腰衣に似た色をしていますわね。大事なものなのにあたしが拾うことになるだなんて、アックさまらしくない不注意ですわね」
「そうだな、ごめん。助かった」
「わ、分かればいいですわ」
ミルシェの手元からおれの手元に引き寄せると、魔法文字が浮かんだ。
【EXレア ハイドロ・ガントレット 霊獣の守り Lv.820】
「こ、これは――! あの時のものか」
「何ですの!?」
「イスティさま、驚きすぎ~!」
「……あ。あぁ、いや……ミルシェのそれはガントレットという装備だ。両手に装備するものなんだが、途中で行方が分からなくなっていたものだ。助かったぞ、ミルシェ」
「そうでしたのね。それは何よりですわ」
例によって再生された装備は健在でも、湖底のヌシだったシリュールの姿がどこにもない。
もしかすればシリュールは、この湖村にミルシェがいることを知っていて、装備を託したのだろうか。
そうなればトラウザーのラーナのように、またどこかで現れるかもしれないな。
それにしてもつくづく、水装備ばかりだ。
以前ガチャで出した時は中途半端な炎系装備だったが、忘れ去られたシリーズは水属性装備ということなのだろうか。
「ミルシェ。ここからラクルまでどれくらいだ?」
「ラクルでしたら、歩いて行ける距離ですわ。あたしは、ラクルからここへ来ましたの。残念なことに、あたしが以前いた水底神殿が沈んでいましたから」
「え、そうなのか? じゃあラクルは無事なんだな?」
「話を聞いていませんでしたの? 至極平和ですわ。沈んだのは、神殿の辺りですわね」
南アファーデ湖村の亡霊が気になることを言っていたのは、神殿のことだったようだ。
そういえば聖女エドラごとあの洞門を崩したが、地形ごとを変えてしまったか。
「ふわぁぁ~……。イスティさま、外に行かないの~?」
「……話の邪魔をしてくるだなんて、姿はともかく小娘以下ですのね」
「む~! そういうミルシェは、おば――」
「な、何ですっっ――!?」
「――っとぉ、ミルシェ。ギルドに誘われたことだし、村を案内してくれないか?」
「い、いいですわ。先にたどり着いたあたしが、アックさまをエスコートさせて頂きますわ!」
フィーサとミルシェも、大概相性が悪いようだ。
「イスティさま、わたしは剣に戻るね。だから、一緒に連れて行ってくれる?」
フィーサはそう言うと、輝くプラチナに姿を変えて見せた。
「あ、あら? 宝剣……にしては、随分と派手になっていますわね。以前はもっと地味な……」
「ミルシェも地味になったなの! わらわは、常に輝いているなの!!」
「フィーサは神剣に変わったってことを、伝えてなかったな。すまん」
「ど、どうでもいいことですわ。小娘以下なのは、変わりようがありませんもの」
「む~~!!」
むぅ、こんなに仲が悪いとは。
ミルシェとはまだまだ話足りないが、実在の村を見て回って、それから考えることにする。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
554
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる