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第九章:神族国家ヘリアディオス
122.風のラファーガ、興味を持つ
しおりを挟むただの悪戯書きでも何でも、まずはアグニの印章を手に入れた。
彼女が言うには、隣接する村を進んで行けば、光の所に行きやすくなるとのこと。
よく分からないが、全ての属性印章を手に入れなくてもいいらしい。
ましておれは、試練を受けに来たわけではないだけに、無理強いをするつもりもないのだとか。
「神族と言うから少しは身構えていたのに、そんなにかしこまる必要も無ければ、畏れることも無さそうだな。なぁ、ルティ」
「ええぇ? わ、わたしは畏れたいですよぉぉ」
「何だ、らしくないな」
「こう見えてもわたし、信心深くてですね~……」
「それはルシナさんの教えか?」
「もちろんですよ~! 火山渓谷に住む者は、火の神を信じて日々の暮らしをですね……」
その割には小さな女の子だとか言っていたが、姿までは信じられなかったか。
それにしても、
「神族の国ってなぁんにも無いんですねぇ~」
「そんなこと言っていいのか?」
そう思っていたが、口に出すのもどうかと思っていたのに。
「だってさっきまでは、ぽかぽか陽気で眠くなって気持ちよく過ごせていたんですよ~? それが今は、ただ真っ白な壁だけが延々と続いているだけじゃないですか~」
「……基本的に、壁で属性を区切っているんだろうな。そうでなければ神族はともかく、そこに住む民が環境に合わなくなるはずだ。さすがに火の民が、氷の村に行けるはずもないだろうからな」
「そんなものなんですかねぇ~」
ルティにも同じことが言えそうだ。
火山に近い所に住んでいたのなら、氷山に行くのも躊躇するだろうな。
「それぞれ適した所に住んでいるってことだろ」
「なるほど~! ところで、どちらに進んでいるんですか?」
「……風だ。氷の方は寒そうだからな」
「わたしも寒いのは苦手ですっ!」
そうだろうな。やはり言うと思った。
風属性であれば、たとえ強い風が吹き荒れても凍えるということは無い。
『――それはどうかな?』
む!? 何だこの声……。
「ひゃわわあぁぁぁ!? アック様、いきなり何ををを~!!」
「……何っ?」
「ひぃえぇぇ~すごく高い所に浮いて行きますよぉぉ~!? これは結構怖いものが~!」
「落ち着け! それはおれじゃない!」
「えぇ!? アック様じゃないなら、どなたが~!?」
何の警戒も持たずにルティは、スタスタと歩いていた。
それがどういうわけか、風の力で体ごと浮き上がった状態だ。
おれが以前やった風で抱っこしつつ、自然乾燥したものに近い。
あの時はおれのおふざけだったが。
『このままカノジョを連れて行っていいかな?』
「それは駄目ですよぉぉ~! アック様が、そんな勝手を許すはずがありません~」
『それもそうだね。それじゃあ、そのアック様を吹き飛ばしてからにするよ』
「……えぇぇ? だ、駄目です、駄目です~!!」
浮かんだままのルティは、何やら姿の見えない奴と空中で会話をしているようだ。
男の声はおれにも届いているが、ルティの声は聞こえない。
ひたすら驚き困惑している様子だけは、かろうじて分かる。
あの様子では恐らく……。
そうこうしていると、おれの全身がやや浮かせられた感覚に陥る。
だが大した風では無いので、吹き飛ばされることは無さそうだ。
「――キミがアック様かな?」
「そういうお前は、風の神ってやつか?」
「話が早いね。それなら、カノジョを賭けて勝負をしようじゃないか!」
「カノジョというのは、空に浮かせて遊ばせているあいつのことか?」
「あぁ、そうだよ。ボクは風のラファーガ。アック様には悪いけど、あの子はボクが頂くよ」
アック様やめろ……というより、こんないけ好かない野郎が風の神か。
しかもいきなり現れて、ルティを賭けるとかふざけたことを。
ルティに興味を持ったうえに、傍に置きたくなったとでもいうのか。
アグニはともかく、こんな野郎が神族とは。
「勝手なことを言うな! ルティはおれの大事な仲間だ。すでに勝った気になっていると、痛い目を見るぞ! それがたとえ神族だとしてもな」
「……面白い人間だ。精霊魔法を使える程度で、いい気になるなよ人間!」
「つべこべ言わずに攻撃して来たらどうだ?」
どうにも雑魚臭がプンプンするが、ルティをあのままにするのは危険すぎる。
ここは手っ取り早く、終わらせてやろう。
「おっと、その前に……」
「――なっ!? ま、魔石が!?」
「魔石は危険だ。しばらく旋風の中に留まってもらうよ」
「勝手な真似を……風の神だか何だか知らないが、ルティも魔石も返してもらうぞ」
「面白いね、本当に」
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