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第八章:因果の国

120.禁断の口づけと強制解除!?

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「ま、待てっ! ルティ、おれのことが分からないのか?」
「とりゃぁ~!!」

 闘技場とまでは行かない広さの空間。
 ここには、これといって障害となる物は見当たらない。

 おれを引き込んだ炎の壁はすでに消えている。
 それゆえ、魔力の欠片もほとんど感じることが出来ない。

 だからといって、魔法を封じられているでも無さそうだが。
 目の前のルティは、魔法を使えない回復士。

 やられることを想定していないほどの激しい拳の連続攻撃で、おれに襲い掛かって来た。
 ルティからは得体の知れない獣に見えているらしい。

 これは本気で相手をしないと、結構本気で殴り掛かって来る彼女を止められないか。

「てぇぇぇぇい!!」
「――! ふ、甘いな」
「あ~また外れた~! どうして当たってくれないんですか!!」
「無茶を言うな」

 これは以前から変わっていないが、ルティは確かに強く、岩をも粉砕する。
 しかし致命的な欠点があって、どうやら改善されていない。

 最近の彼女は戦うよりも、支援に回っていたというのもある。
 明らかに動きが遅いことが、ルティの欠点であり弱点でもあるということだ。

 身軽さではシーニャに劣るだろうし、連続攻撃といった多撃もフィーサには敵わない。
 圧倒的なのは、

「こんのぉぉぉ~!!!」

 何の素材で出来ているかは不明だが、ルティの振り下ろす拳で、足下の床にヒビが入り始めた。
 鈍い音が鳴り響くたびに、ピシピシと壁が崩れを見せている。

 対するおれは、魔法でも放とうと思っていた。
 しかし拳には拳で相手をするのが、彼女には一番効き目がある。

 そう思ったからこそ、攻撃をよけ続けて来た。
 どうすれば幻を解き、ルティを止められるのか。

 こんな状況下では、魔石ガチャをする余裕も生まれない。
 いや、下手をすると破壊されてしまう恐れがある。

 唯一、おれにとって禁断ともいえる手段が残されているが……。
 これであれば、間違いなくルティにかけられている幻惑魔法を解くことが出来る。

 それも強制的に。
 やるべきか、やらないべきか、答えが出せない。

 それともとりあえず、まともに彼女の攻撃を受け止めてみるべきなのか。
 何が正しいのか、判断のしようがない。

 火属性に耐えられるルティに、氷属性あるいは風属性で攻撃をしても良さそうだが。
 幻惑で勢いをつけて来ているということは、受けるダメージすら感じないということになる。

「――っ! くそ、壁が崩れて来たか……」

 やむを得ないか。
 それをしたからといって治るかも不明だ。

 だが火の神の村にまで、影響を及ぼすわけにもいかないだろう。
 ルティは細かい動きを一切して来ず、おれをめがけて直線的に突っ込んで来るだけだ。

 この動きの彼女に同じように突っ込み、正面で受け止めることにする。
 もちろん、攻撃をする前にアレをするだけだ。

『よし、ルティ。このまま逃げても埒が明かない。おれが何に見えているのかも、どうでもいい。お前の拳をこの身で受けてやろう! 思いきり真正面に突っ込んで来い! 怖くなければな』

 複雑な動きを、いきなりして来るとも思えない。
 それでも念には念を入れて、ルティに挑発をした。

 これなら大口を開けながら、気合を入れて懐に突っ込んで来るはずだ。

『ようやく観念しましたね! 分かりましたっ! わたしの拳で邪悪な狼さんを粉砕しますよ!!』
『……来い! ルティ』
『行きますよぉぉ~!! とぉぉぉぉりゃあああ~!』

 下らないが、今だ。
 猪突猛進すぎるルティに対し、おれは彼女の口に意識を集中させる。

『ルティシア!!』
『――えっ!? なっ、あっ……んむむっ!?』
『……』

 おれから彼女にすること自体、初めての行為になる。
 気合いを入れまくるルティの口を塞ぎ、口づけという手段を取った。

 これはこれで何とも言えない展開になりそうだが、止むを得ない。

「ほへぇ~……」
「大丈夫か? ルティ」
「あれぇ? アック様じゃないですか~? どうして目の前にいるんですか~」

 よし、成功だ。しかも恐らく覚えていない。
 間近なルティを見つめているという構図ではあるが、せいぜい肩に手を置いているだけ。

 怪しむことも無いだろう。
 正気に戻ったようだし、精神も異常は無さそうだ。

「お前、ここで目を回していたんだぞ? 体は何ともないよな?」
「はい~それはもう。でも何だか疲れちゃってるんですよ~。どうしてでしょう?」
「急激に体を動かしすぎたからだな。最近体もなまっていただろうし、その疲れだろう」
「なるほど~!」

 ルティは何とかなったな。
 シーニャの行方と精神的な状態が気にはなるが、ルティを治せて良かった。

「ルティ、ここを出るぞ。もちろん、少し休んでからでいいが、行けるか?」
「はいっっ!」
「よし、それじゃあ――」
「アック様っ!」
「むっ!?」

 何かされるかと身構えてしまったが、ルティはおれの顔をジッと見つめているだけだ。
 それも満面の笑顔で。

「わたし、ものすごくパワーアップしました!! 頑張りますよ~!」
「お、お~」
「アック様。わたしがもっと素早くなったら、反撃カウンターをします~」
「……ん?」
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