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第八章:因果の国

119.火の村アグニ・炎の試練 後編

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「一応聞くが、獣の腕を焼失させたのは邪神の腕だったからか?」
「何だ、理解しているではないか。利口になったな!」
「……腕をそのままにしておくと、ここには来られなかった。違うか?」
「ふふん、われのおかげで元に戻ったのだぞ。文句よりも礼を言われたいものだな」

 火の神のおかげで、獣化が解けた。
 さらに言えば、スキルも得ることが出来ている。もっとも、獣化は滅多にするものでもないが。

 それよりもまずは、村に歓迎されるための試練を受けなければならない。
 ここがどこなのかなんて、フィーサの人化で大体分かっている。

 そうだとしても、神々に認められなければならない場所だということだ。

「試練を終えてからそうする。これからどうすればいいんだ?」
「ホゥ、やる気はあるようだな?」
「連れて来られた以上、やるしかないだろ」
「ふむっ! われと戦えとは言わぬ。どうせ敵わぬのだ」
「……どうだかな」

 宮殿で炎の壁に、全く太刀打ち出来なかった。
 精霊魔法の火力程度では、恐らく炎を消すことは出来ないんだろう。

「アック・イスティへの試練は、お前が今見えている炎の壁! 壁を見破り、解除すればいいだけのことだ」
「それだけでいいのか?」
「そうだ。しかし見えているだけでも数か所ある。正しい壁に触れれば壁は消えて解除、間違った壁に触れれば戦いとなる。とてもじゃないが、魔法を専門に使うでもないお前にそこまでの気力と魔力があるとは思えぬ」
「……どんな手を使ってもいいんだな?」
「ふむ。よかろう」

 要は事前に知ることが出来れば、無駄に戦うこともない。
 解除というより、魔法の防壁でそう見せているだけのはず。

「イスティさま、どうするの?」
「まぁ、何とかなるだろ。フィーサは、剣に戻れるのか?」
「ううん、このままの姿だよ。光の所に戻らないと、剣の姿には戻れないかな」
「そうか。それじゃあフィーサは、そこで応援するだけでいい」
「うんっ! イスティさまを一生懸命応援するね!」

 フィーサを始めとして、神にとって特別な場所であることが分かった。
 それなら、遠慮なく歯向かえる。

 まずは前方右手前に見えている炎の壁。
 こんなのは触れるまでも無く、民家を炎で守っているだけのものだ。

「……ここは民家だ」
「ふふん、簡単すぎたかの」
「手前に見える炎の壁は、全て民家だろう?」
「ふむ。良かろう。では、奥に見える壁から本格試練とするぞ」

 ひっかけにもならなかったが、ここは村の外れに位置している。
 ここに並ぶ家は、村の民だけだとすぐ分かった。

 フィーサに起こされた時にも気付いた。
 ここでは村の中心であればあるほど、簡単には見せたくないものがあるはず。

 そこから遠ざけておれたちを連れて来たことくらい、容易に分かってしまう。
 しかし、

「……む。炎の壁が散らばっているのか」
「さて、ここではお前のスキルも上手く働かぬぞ」

 【敵対心をサーチ 範囲自分中心】

 これなら獣の位置が掴めると思うが……。
 敵対心を感じない炎の壁に、触れてみた。

「――うっ? 引き込まれる……だと!? くそ、サーチが効かないのか。うぅっ、くぅ……」
「ふむっ。当たりを引いたようだな! われは戦いを見守りつつ、宝剣との話を楽しむとするぞ」
「イ、イスティさまが、炎の中に!?」
「宝剣フィーサ、われと雑談でもしようぞ」
「えぇっ? でも、イスティさまが戦いを……」
「中にいる者は、炎に強い者。面を喰らう相手かもしれぬが、アックが戦わねば元には戻れぬ」
「え? どんな敵なんです?」
「幻を見せられた赤毛の……」

 炎の壁の中に潜む相手。
 それに対しての敵対心を、察知することが出来なかった。

 おれはまんまと炎の中に引き込まれる。
 そこで待っていたのは、赤毛のルティだった。

 てっきり炎の精霊だとか、神獣だとばかり思っていたのに。
 ルティが相手では、確かにおれに対する敵対心が無い。

 だが、

「ルティ。魔族の宮殿からどうやって来られた? シーニャは一緒じゃないのか?」
「むぅぅ……! またしても獣さんですか!! わたしは一刻も早く、アック様に再会したいんですっ! 邪魔するつもりなら容赦しませんからね!」
「お、おい……何を言っているんだ?」
「こんのぉぉぉ~!!」
「――っと! 落ち着け! おれだ。アックだぞ?」
「そう言って何度も騙そうとしたって、無駄ですからね!!」

 どういうわけかおれが何かの獣に見えているのか、ルティが拳を振り上げて攻撃をして来た。
 魔族の宮殿に取り残されて、何かされたか。

 ルティといえば、確かに火に関係しているが……。
 アグニめ、魔族の動きに乗じてルティを利用したな。

 ルティとはルタットの町で戦ったことがある。
 しかしあの時はスキュラがいて、うやむやにされたまま終わった。

 それがまさか、こんな状態で戦うことになるとは。
 ルティに魔法をぶっ放すのもどうかと思うし、幻の解き方も分からない。

 そうなると、拳をぶつけるしかないのか。
 確かおれの拳とルティの拳は、岩をも粉砕出来るんだったな。

「むぅ……」
「かかって来ないなら、可哀想ですけど粉砕しますからね~! 覚悟~!!」
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