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第八章:因果の国
116.シシエーラ宮殿の魔石
しおりを挟む「わあぁっ! 何だか不思議な感じがする所ですね~」
「そうなのか? シーニャは全く分からないのだ」
「……ふむ」
シシエーラ村の人に案内され、宮殿の中に入った。
中は荘厳な感じでおれたちを迎えてくれると思っていたが、違うようだ。
首を傾げながら内部を眺めていると、
『期待外れで申し訳ございません。シシエーラ村の宮殿は、教会なのです。天に近くなるようにと込められて、外観こそ立派な建物にしておりましたが……中は村の人間が集う教会なのです』
外観は立派な作りで、空を仰げるほど高い建物。
中に入ってみると、そこは村の人にとっての憩いの場のようなものだった。
通常なら、身分の高い人間が一人くらい姿を見せてもおかしくはない。
しかしここで話を聞かせてくれているのは、老齢な村の男性だけだ。
「マスター。あそこに何か祀られているなの……」
「ん?」
奥に目をやると、そこは祭壇のような段差になっている。
フィーサが言うように、何か小さなものが置かれているようだ。
「あれは何です?」
目視で気付けなかったが、よくよく見ると石のようにも見える。
おれがそう言うと、
「……さすが神の使いなるお方。あれは魔石と呼ばれていたものでした。今はただの石ですが……」
「魔石がこの村に?」
「さようでございます。ですが、今この村にいるのは力を持たぬ人間のみ。その石は、かつてここで指導していた司祭さまが儀式の際に使っていたもの。ですが今は……」
司祭の儀式……か。
何か強大な力を呼ぶつもりがあったようだな。
「司祭さまは……?」
「神、神に近い存在を求め、村を飛び出したままでございます。消息など分からず……」
「魔石を使って神を呼ぼうとしていたと?」
「いいえ、その石に宿っていた神の力を引き出そうとしておりました。ですが一向に現さず、違うものと分かり、祀ることもやめてしまった次第にございます」
「宿っていた神の力か……」
「村の者も司祭さまに協力しておりました。連日のように火を起こし、火を灯して魔石を照らし続けていたのですが……」
ガチャで使っているから分かるが、そもそも魔石は魔力の結晶のようなもの。
決して魔石自体がそういう存在じゃない。
司祭が何を求めていたのかは分からないが、使い方を誤ったということのようだ。
ここから祭壇までは、数歩歩けば届く。
そんな僅かな距離なのに、魔石だった石からは特に何も感じない。
しかし、
「マスター? 何も感じないなの?」
「……そうだな」
「それはおかしいなの。わらわは、何かを感じて仕方がないなの! マスターが手に取れば何か分かるかもしれないなの」
「ただの石なのに?」
「近付いて、手にすればそうじゃないかも……なの」
「そ、そこまで言うなら近づくが、危なくは無いよな?」
「イスティさまなら、そんなことにはならないなの!」
神族国に近づいているせいか、いつになくフィーサの押しが強い。
宝剣だからこそ、何か感じるものがあるのかもしれないが。
「ルティとシーニャは、そこで待っているんだぞ?」
「はいっっ! 分かりました!」
「どうするのだ? アック」
「祭壇の石に近づいて確かめる。なぁに、何も起きないと思うぞ」
「分かったのだ! 何かあったらすぐに飛び込むのだ!」
「あぁ、ありがとう」
やはり獣の腕のままだからか、魔力そのものを感じることが出来ない。
村の者に、神の腕と思われているのはいいとして。
だがこのままでは、スキルはおろか精霊魔法もろくに使えなくなる恐れがある。
力と体力の恩恵を受けていることは、すぐに分かった。
しかし魔力を感じられなくなっている。
それに気づいたのは、フィーサが真っ先に気付いた石を言われてからだ。
獣の腕だけが残っても、何も悪いことなど無いと思っていた。
それがまさか、魔力感知が出来なくなっていたとは驚きだ。
とにかく魔石だった石に近づいて、確かめるしかない。
「その石に近づいても?」
「ええ、もちろん構いません。神の腕を持つあなたさまなら、何も問題はありませんから」
お墨付きをもらった以上、石に触れるしかないだろうな。
司祭が諦めた石が、果たしてどうなるのか。
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