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第八章:因果の国

110.狩るもの、狩られるもの 前編

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 ルティとフィーサのふたりには、ひとまずここから離れてもらった。
 彼女たちは戦力として申し分ない。

 だが連中が狙いを定めているのは、間違いなくおれとシーニャだけだ。
 獣狩りの連中がどこまでやれるのかと、獣化した自分がどれほどのものか試させてもらう。

 戦闘態勢を取るシーニャを嘲笑いながら、連中が近づいて来る。
 強い気配は3つほどだが、支援系と荷物持ちを含めて8人ほど来ているようだ。

『おい、見ろよ! こんな雑魚な地に、ワータイガーがいやがるぜ?』
『そんなわけないじゃない!! こんなラクルに近い平地なんかに――!』

 真っ先に近付いて来たのは、攻撃特化の魔術師と短剣使いだ。
 さすがにこの体ではサーチが使えないが、目に見えて分かった。

 後方に控えているのは強化者ブースターが一人と、回復士が数人。
 際立って強いのは、この二人のようだ。

「ウウゥ……ッ! 何なのだ、お前たち!」

 シーニャの視線はすでに、短剣使いの女に集中している。

「へぇ? 獣人かよ! そりゃあいいな、おい! 狩り甲斐がありやがる。獣人はオレがやる! ヘルガはそっちの獣……狼をやれよ!」
「はぁ? 何でヴィレムが勝手に決めるわけ? よりにもよって狼……って、フェンリル!?」
「ソイツはフェンリルの爪を付けてるだけの、ただの雑魚狼だ。爪でビビってんじゃねえよ!」
「うるさい!!」

 勝手に決められても困る上に、シーニャ相手に魔術師の男は分が悪すぎる。
 身のこなしが俊敏な彼女には、短剣使いの女が適しているが……。

ガガガウ、ガウガ?お前らが獣狩りか?

 ああ、くそ……通じそうにないか。
 少人数で狩るやり方ということは、こいつらが噂の連中に違いないな。

 ラクルの連中の話では、目立つことなくあっさりと片付けると聞いた。
 後ろに控えさせている強化者もそれなりの力がありそうだが、回復士はおまけ程度のはずだ。

「――何だって? おい、獣人! そこの狼は何て言いやがったんだ?」
「獣狩りパーティは、お前らなのかと聞いているのだ!」
「獣なんかに知れ渡ってるとか、最悪じゃない? 早く片付けなよ、強化が切れる前にさ!」
「……そんなもん、簡単に切れるかよ! おっと、言葉が分かる獣人には一応礼儀として名乗っておくが、オレの名はヴィレム・バロシュだ。Sランクの魔術師……まぁ、分かりっこねえか!」
「それくらい分かるのだ!! 人間の女、お前は何なのだ?」
「狼には通じないだろうけど、あたしは短剣使いダガーキャスター。Sランク」
「名前を教えてやれよ、ヘルガ! 可哀想だろ?」
「ヘルガ・コティラ……、狼に礼儀も何も必要無いと思うけど? どうせすぐぶっ殺されるんだし……」

 なるほど、奴らなりの礼儀……いや、勝利宣言のようなものか。
 シーニャのように言葉の理解が出来る獣人ならそれもいいが、獣に聞かせる辺り趣味が悪い。

 しかもSランクだとはな。
 ランクを聞いたところで、今さらな感じを受ける。

 しかしシーニャには魔法攻撃を相手にするのは厳しいだろうし、おれの力も未知数だ。
 おれは攻撃を受けても多分、弾くが……。

『シーニャ! 魔法攻撃がきつくなったら、おれに全てを委ねてくれ!』
『分かったのだ! アックの望む通りに動くのだ! ウニャッ!』

 ――とはいえ、魔法の連続攻撃でもされたらシーニャでは防ぎきれない。
 早い内に、ガチャで出したスキルを使うしか無さそうだ。

 おれの方もせっかく出た獣化専用の爪を、レベルアップさせておかなければ。
 Sランクの獣狩りだろうと、人間相手に苦戦することはない。

 そういう連中にやるべきことは、植え付けだ。
 殺す獣相手に名乗るほど調子に乗っている連中には、恐怖に相当する力を見せつけてやる。

 上手く行けば、他の罪なき獣を狙うことは無くなるはず。
 
「はぁ~、面倒くさい。そういうわけだから、そこの狼! とっとと死んじゃいな!!」
「――!?」

 先制攻撃という名の不意打ちか。
 
「アハハハハッ!! その耳、腕、足……その全てを、あたしの短剣で切り刻んでやる!!」

 魔術師の男よりも危ない女だったか。
 コイツは、相当数の獣を切り刻んで来たようだ。

 まずは棒立ち状態で、好きなだけ刻ませてやる。
 疲れた時を見計らって、こちらもレベル上げをさせてもらう。

 シーニャの戦いを気にしたいところだが、単発の魔法詠唱程度なら心配無用か。
 問題は、強化者の存在だ。

 姿を見せない強化者が絶えず強化を放ち続けられるとすれば、形勢はすぐに崩れてしまう。
 とにかく今は、短剣使いの女の気分を良くさせておこう。
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