上 下
103 / 577
第八章:因果の国

103.帰る前の戯れ場

しおりを挟む

 幻霧の村ネーヴェルに、少しだけ行くことが出来た。
 ドワーフしか行けないというより、認められた者のみが入れるような感じだった。

 薬師くすしのことについては、有用なことは得られていない。
 ただ一つの収穫として、ルティが薬師の知識を得られたくらいだ。

 何かをされたわけでもなく、何も出来ずに再び眠る。
 そして濃い霧に包まれるように、おれの意識と体はロキュンテに戻されていた。

 ◇◇◇

「ルティシア、そ~っと、そ~っとですよ? 私は彼女たちにも声をかけて来ますから、あなたは彼を」
「はい! 母さま」
「それと、樽は洗っておきましたから存分に」
「ありがとうございます!!」

 何やらルティとルシナさんのやり取りが聞こえる。
 おれの体と意識はまだ目覚めそうにないのだが、何かを企んでいるのだろうか。
 ルティは純粋娘で違いは無いが、母親のルシナさんは先を見通す力が計り知れない。

 どこまで知っているのか気にはなるが……。

 それにしてもさっきから、全身が上がったり下がったりしている。
 ルティによって、こっそり抱きかかえられている感じだ。

「えっほ、えっほ……もうすぐですからね~」

 いつの間にか、装備やら腰袋の重みが消えている。
 まさかと思うが、素っ裸にされたんじゃ……。

 そうだとしたら、ルシナさんの手際が良すぎるぞ。
 ルティと樽……それが聞こえた時点で、何かの予感がありすぎる。

 ◇◇

「ウニャッ! ドワーフ、遅いのだ! 早くするのだ!」
「わらわも入りたいなの。でもでも、傍で見ているだけなの! 人化出来なくなっているなの」
「っしょ、こいしょ~……ではでは、お待たせしました~! ご主人様、お目覚めくださ~い」

 シーニャとフィーサは、すでにおれを待ち構えているか。
 人化出来ない言葉も気になるな。
 あれこれ考えていても何も事は始まらないし、目を覚ましてやるか。

『ぼごぉっ――!?』

 な、何……っ!?
 息が苦しくて何か熱い液体が、体の中に流れ込んで来るぞ。

 まさかまた、幻霧の村にでも運ばれたんじゃないよな。
 くそっ……、実は幻を見せられていて、ルティたちの幻聴だったりするのか。
 
 【アック・イスティ ドワーフのお気に入り 業火耐性強化、刺激耐性】

 まさかの自分スキルが見られるとは。
 業火ってことは、火口のマグマでも飲まされたか? 刺激が何なのかは不明だが。

「あぁぁっ!? お、溺れてますよぉぉぉ!! 引き上げて~!」
「任せるのだ! アック、シーニャに掴まれ~なのだ!」

 幻じゃなく、溺れかけじゃないか。
 シーニャの言う通り、彼女の声がする方に勢いよく飛び込む。

『ぬあっ!!』
『フギャァァ!?』

 視界がぼやける中、掴まれるところに向けてとにかく必死に喰らい付く。
 かなり熱湯を飲み込んでしまっているだけに多少、朦朧もうろうとしているのは避けられない。

 それが収まったのは、静寂な空間が広がった時だ。
 おれの両手は何かにしっかり掴まり、握りしめている。

 目を閉じていても分からないままだ。
 おれは少しずつ、目を開く。

 視界に広がる光景は霧のような、それでいて温かいものから立ち上る水蒸気が、空気中で冷えて白く見える湯気のようにも見える。

『も、もういいのだ? アック、放して欲しいのだ……フニャ』
『うん? そ、そうか。もしかして尻尾を掴んでいたのかな? ごめんな、シーニャ』
『い、いいのだ……シーニャ、アックの女なのだ。いつでも握っていいのだ』

 目をこすり、湯気が薄まっていくのを待った。
 視界が鮮やかになる前に、ルティとフィーサの怒り狂った声が響く。

 二人とも、顔を真っ赤にしている。
 フィーサは剣の姿、ルティは肌着にまでなっているが、

「あぁぁぁぁ……!! アック様! 何でシーニャなんですか~!!」
「わらわも人化していたら、あんなことやこんなことまでしてもらえたなの!!」
「……何のことだ? おれがシーニャに何だって?」
「そんなこと、わたしが言うはずないじゃないですか!! 全く全く、アック様には本当に本当に~」
「おい、ルティ。落ち着け。というより、お前その格好は……」
「もちろん準備万端に決まっていますよ!! うぅぅ~それなのに~」
「何の準備だよ……なぁ、シーニャ――」
『フニャゥ……』

 な、何でシーニャが……!?
 彼女の全身は、獣人らしく毛皮のようなものに覆われている。

 だが今見えている彼女の全身は、獣人のそれじゃない。
 両手で握っていたのは、まさか……。

 しかし何かに抑制されているのか、それ以上の思考には及べない。
 なるほど、刺激耐性がこれか。

 おれはそうでも、シーニャはそうじゃないはずだ。
 そのせいか、彼女は湯に浸かったままびくともしない。
 
 幻霧の村で、幻霧にやられて来たようだ。
 これは本当に気を引き締めなければ……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不死殺しのイドラ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:13

全スキル自動攻撃【オートスキル】で無双 ~自動狩りで楽々レベルアップ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:1,237

ご主人様のオナホール

BL / 連載中 24h.ポイント:220pt お気に入り:460

アイテムボックスだけで異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:837

アレク・プランタン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:398pt お気に入り:51

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:339

ゆとりある生活を異世界で

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:3,809

処理中です...