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第八章:因果の国

100.ドワーフ族のお気に入り?

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 ルシナさんの心遣いを無駄にしないため、家を出た。
 するとフィーサが小走りで、おれを追いかけて来た。

「待って~! イスティさま、わらわも行くなの!」

 目が覚めたのか。
 結構長く眠っていたが、あの様子では完全に回復したとみえる。

「フィーサか。もういいのか?」
「バッチリ! なの~! ギルドに行くのなの?」
「ん? ルシナさんに聞いたのか?」
「聞かなくても聞こえて来たなの。一緒に行くなの!」
「あぁ、いいよ」

 入れ替わりとなっているが、宝剣と人とでは疲労の比べようがない。
 かくいうおれも、ルティの特製ミルクのおかげで全く眠くならないわけだが。

 人化したフィーサと手を繋ぎながら、ドワーフが多くいる小屋に向かう。

「イスティさまは疲れが無いなの?」
「いや、もちろんあるよ。ただ、眠くないからね」
「ふ~ん……。さすが、わらわのマスターなの!」

 何か気になったことがあっただろうか。
 それでもすぐに、褒めて来たが。

 ルティたちと岩石を壊しまくった小屋と違い、紹介された所は人が多く行き交っている。
 町召喚で巻き込まれた冒険者も、ギルドの小屋に出入りしているようだ。

「え~と、確か奥まった所の小屋に……」
「どこに行くなの?」
「”メタルスミス”ギルドかな。金属加工に精通する職人がいるらしくてね」
「もしかして、その錆びた剣を?」
「それだけじゃないけど、知識を得られればと思って」
「わらわ、浮気は許さないなの!」
「はは……おれの剣は、フィーサがメインだよ」

 錆びた片手剣を、いつまでも手元には残せない。
 しかしガチャで出た剣だけに、捨てるわけにもいかないのが現状だ。

『ごめんください。ルシナさんの紹介で――』

 小屋自体は人間が建てる小屋と、何ら変わりはない。
 それでも、ドワーフは全体的に小柄な種族。

 小屋の中へ入る時には、声を大きくする必要がある。
 そうすれば、

『やかましい!! 大声出すな。心配せんでも、わしはここにいる』
 ――といった感じで、姿を見せてくれる。

「すみません、こうした方がいいと思いまして……」
「――で、何を知りたいんだ? そこのミスリルか? それとも錆びた奴か?」
「わ、わらわのことが分かるなの!?」
「どこからどう見てもミスリルだろうが! 錆びた剣と同様に、ミスリルも磨いて無いな?」
「へ? 宝剣を磨く……ですか?」
「愚か者め。宝剣だろうが何だろうが、使い続けるつもりなら磨け。そうでなければ、老朽化が進むぞ」

 宝剣フィーサはすでにレベル900。
 武器屋で売られている物とは、そもそも比較出来ない。

 言葉遣いも見た目も、人間でいうところの少女だ。
 しかし、

「老朽化……って、この子は幼い……」
 
 フィーサは他の人間から見ても、少女姿だ。
 おれに対する言葉遣いも、幼さが残る。

 いや、ずっと存在しているからこそだからかもしれないが。

「フン、見たところあまり使っていないな。武器は使わなければ駄目になる。ミスリルは錆びにくいが、古くなるのは避けられん。言葉遣いが幼いからと油断しているとすぐに駄目になるぞ! 見た目と言葉遣いなぞ、誤魔化しもいいとこだ!」
 
 図星を突かれたのか、フィーサは沈黙している。
 
「ではどうすれば?」
「……だからここに来たんじゃないのか?」
「そ、その通りです」
「それじゃあ、アック・イスティ。小屋に飾っている武器を全て磨け。それが終わったら、報酬として教えてやる」
「小屋の武器を……全部!?」
「それくらい出来るだろ。終わったら声を上げて知らせろ! じゃあな」

 え~……全部って、そりゃ無いだろ。
 大きくない小屋ではあるが、武器だけでも数十本は見える。

 それもほとんどは斧で、磨く面積が広いものばかり。
 岩石を破壊したと思えば、次はひたすら磨くとか。

 これは疲れる……。
 しかし隣でフィーサが呆然としているし、声もかけにくい。
 やるしかないな。

 ◇◇◇

『お、終わりました~……』
『遅かったな。剣の手入れをしないから疲れるんだ』

 声を上げると、おっさんはすぐ姿を見せた。
 そのまま小屋の奥から、加工に使うための樽を手にして来た。

「その樽にミスリルを入れろ」
「は?」
「早くしろ! その樽に入れてる間に、お前には称号スキルを伝えてやる! そうすれば、ここに来る必要が無くなるだろうからな」

 樽の中を覗き込むと、水銀に似た色の液体が満たされている。
 フィーサには錆といったものは無いが……。

「フィーサ、ここに入ってくれるかな……?」
「……」

 思考停止状態に陥っているが、抵抗も無いのでそのまま樽に入れさせた。
 フィーサは、元々軽い布で全身を覆わせているので裸では無い。

 それでも何かの液体に入ってもらうのは、正直戸惑う。

「よし、アック・イスティ。魔石を出せ!」
「魔石を?」
「ミスリルの名前が見える魔石だ」
「あ、あぁ、フィーサの……」

 おっさんは、羊皮紙を魔石に押し当てている。
 そのすぐ後に、握手を求めて来た。

「え~と……? スキルの伝授は?」
「もう済んだ。お前がその魔石に触れることで、ミスリルを磨くことが出来る。磨くことで、ソイツは成長出来るはずだ」
「樽に入れたのは?」
「風呂代わりだ。お前、ロクに洗ってやっていないだろ? ついでに洗ってやれ! 済んだら樽を洗って、ルティシアに返してやれ。じゃあな!」
「え~!?」
「そうそう、アック・イスティ。お前はロキュンテに住むドワーフのお気に入りだ。いつでも技術供与をしてやるぞ」

 ルティの樽とか、使い回しされてんのか。
 お気に入りって、便利屋扱いだろ……。
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