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第八章:因果の国

96.薬師の村へのススメ

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 ガチャで引いた町召喚で、火山渓谷ロキュンテを呼び出した。
 砂地が広がる広大な場所だったので、問題は無かった。

 ただ砦を含めた一帯に町を呼んだので、何かしら影響はありそうだ。
 シーニャとフィーサが静かに眠る中、ルティが思い切りはしゃいでいる。

「アック様、アック様~! 何度来ても故郷の空気は美味しいものですよね~」
「どんな味なんだ?」
「も~う!! そうじゃなくてですね~!」
「……冗談だ」
「そういえば、アック様の故郷はラクルでしたっけ?」
「いや違う。あそこは倉庫しかないからな。故郷みたいな場所であって、そうじゃない」
「どこなんですか~?」
「まぁ、そのうちな」
「はいっ! 楽しみです~!」

 楽しみにされてもおれの故郷に行けるかどうか、だな。

『あ~!? またですか、アックさん!!』
 呑気にルティと話をしていたら、早くもルシナさんに見つけられてしまった。

 ルティの母ではあるが、会うたびに見惚れそうになる。
 転送士のことを助言されていたが、上手く行かなかったので素直に謝ろう。

「心配しなくても、もう呼べませんよ。寄り道と言いますか、そんな程度で……」
「そんな程度なんかじゃないんです!!」

 何か不味ったか、相当お怒りのようだ。

「いいですか! 人はともかく、町を動かすと負担が大きくて色々大変なことが起こるんです! ルティシアと一緒にいるからって、お気楽に考えられても困ります!」
「いや、その……何かすみません」
「母さま、アック様はわたしの為にですね~」
「ルティシアは黙っていなさい!」
「はぅ~」

 町召喚は色んな意味で危険だな。
 もう呼ぶことは無いだろうが、説教されるとは思わなかった。

 ひたすら頭を下げていると、聞き覚えのある声が聞こえて来る。

「これを工房に運べばいいんすか?」
「早くしてくれ」
「へ、へい」

 顔を上げてみると、ルティのミルクで眠らせた戦士の男が、何かを運んでいた。
 よくよく見ると、見慣れない冒険者がドワーフに従ってるように見える。

「気付きましたね、アックさん」
「もしかして、巻き添えの……?」
「そういうことです。分かりましたか? 町だけを呼び出したつもりでも、そこに巻き込まれる人だっているんです。もっとも、あの冒険者たちは居着いてしまいましたけど……」
「本当、次から気を付けます」
「――とまぁ、厳しいことを言いましたけど、アックさんにまた会えて嬉しいです!」

 ルシナさんに怒られてしまった。
 でもだからこそ、信用出来る人なわけだが。

「ルシナさん。薬師くすしについて何か知りませんか?」
「薬師ですか? もちろん存じてますけど、何か困りごとでも?」
「えっと、実は……」
「その前に、背中の女の子と剣の女の子を、きちんと休ませましょうか」
「あ、そうですね」

 気遣いはさすがだ。
 ルティも将来、しっかりしてくれるんだろうか。

「ルティシア、あなたはギルドにお手伝いに行きなさい」
「はい、母さま!」
「後でアックさんも行かせるから、いい子にしてなさいね」
「はいっっ!」

 何て素直なのだろう。
 当然といえば当然だろうが、しつけは完璧だ。

 ◇

「ルティシアのお部屋ですけれど、女の子たちをそこのベッドに。そうすればきっと……」
「何か気付いたのですか?」
「獣人の子は、途中で回復系の魔力を覚醒させたはずです。少なからず、魔力消耗の影響がありますよ」
「――そこまで分かるんですね」
「ミスリルの子は魔石の影響を受けています。そして同じく何かの力を使ったのではないかと」

 ルシナさんは占術士だと聞いている。
 先のことが見えるのだとしても、そこまで分かるものなのか。

「何かの力……ですか。なるほど」
「さて、アックさん。薬師のことについて、何をお知りになりたいのですか?」

 かいつまんでだが、ルシナさんに砦で出会った薬師イルジナのことを話した。
 
「黒い気配を持つ者ですか……それは妙なことです」
「……妙なこと?」
「薬師は魔法よりも、調合に長けたスキルを備えています。回復魔道士よりも、回復に長けているとも言われています。それだけに、薬師が悪い流れに乗るのは考えられないのです」
「そうなると、薬師以外のスキルが……」
「恐らく、黒い気配の方がメインだと思われます」

 砦で出会ったイルジナのことを、そこまで掘り下げるつもりは無い。
 だが地下洞での顛末は気になる。

 レイウルムを狙っているのも、気配で気付いた。
 盗賊たちの地下都市に、何事も無ければいいのだが。

「なるほど。何となく分かったかもです」
「それは何よりです! それでも薬師のことが知りたいのでしたら、薬師の村に行かれてはいかがでしょうか?」
「そんな村が……?」
「ええ、割と近くに。でもドワーフじゃないと行けないんですけどね~」
「……え」
「ルティシアがいれば、多分行けると思いますよ。用事が済んだら、行ってみるのもいいかもしれませんね」

 ルシナさんは思わせぶりすぎるな。

「そういうことなら。ところで、ルティはギルドに?」
「あ! アックさんは魔石が必要ですよね?」
「まぁ、必要というか何というか……」
「薬師の村の前に、ぜひぜひ鉱石ギルドの依頼を受けてください~」
「魔石と関係が?」
「はい、それはもう~! 今ならルティシアもいますから。きっとお役に立てますよ」
「……そういうことなら」

 なまじ町を呼んで悪影響を及ぼしているだけに、逆らえないな。
 ルティの母だけあって、押しが強すぎる。

 薬師の村の前に、久しぶりのギルド依頼でも受けて来るか。
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