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第七章:見えない戦い

91.冒険者砦の攻防戦 5

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「くううう!! バ、バカな……!? どうして……」
「その片手剣は魔法耐性剣……?」
「ち、違う! そうじゃないはずなんだ」

 剣士を名乗るデミリスと、剣を交え始めた。
 ただし、おれの片手剣は錆びているので、相手の”優しさ”に甘えて軽めの魔法も撃っている。

 炎属性を相手の望み通り、剣に向けて発動。

 お互い手にしているのが片手剣だったので、当初は剣同士で戦うつもりだった。
 だがデミリスは自信を持っていた。

 自分の剣に魔法をぶつけて来いと言い放って来たのが、数分前である。

 ◇

「……お前が手にしている剣は錆びている。ジョブなしと言ったが、魔法を得意としているはずだ! その錆びた剣はおまけ程度で持てばいい。その代わり、オレに対し魔法を放って来い!」
「剣では交えないと? それにおれの魔法をあんたに放てば、一瞬で終えるがいいのか?」
「そうじゃない……、オレの片手剣に向けて魔法を放て。悪いけど、オレの片手剣にはお前の魔法は一切効かないぞ! 砦の中から感じていたお前の魔力が尽きた時、勝負はあっさりつくだろう」

 相当な自信を持っているようで、デミリスは剣と剣の戦いから、剣と魔法の勝負を挑んで来た。
 これを断る理由は無い。

 おれは発動予定の水属性魔法をやめ、炎属性魔法を手元から連続的に発動させる。
 デミリスの言うように、魔力は無限でもない。

 そのつもりもあって、威力を最小に抑えた炎属性で相手の剣にぶつけていたが……。

 ◇

「な、何で……そんなはずないのに、魔法に耐えきれないなんて……そんな、そんな」
「どうやらその剣は、魔法剣でも無ければ魔法耐性剣でもないみたいだな。どうする? あんたさえよければ、錆びた剣で相手するが?」
「……分かった。それでいい」

 デミリスが手にしている片手剣からは、特に何も感じられない。
 それでも魔法には耐えていたので、潜在的に何かありそうな剣だ。
 
 剣士らしいがしばらく剣を振っていなかったとすれば、使いこなしていないと思われる。
 果たして剣のスキルはどれくらいだろうか。

 もちろんこれは、おれ自身にも言える。

「錆びた剣だろうと手加減しない! アックだったか。構えろ!」
「……あんたこそな」

 両手剣の宝剣フィーサを扱って、少しは剣を握って来たつもりだ。
 それでも錆びた剣を手にするまでは、拳と魔法だけで戦って来ている。

 剣士とどこまで戦えるのか、これは楽しみだ。
 剣の名前までは分からないが、直線に伸びた長い両刃の刀身をしている。

「ぬぅうあああ!!」

 間合いは広く取ってもらった。
 これは相手が剣士だからに他ならないが、剣の実力は勝てると思わせる作戦だからだ。

「く、うっ……」

 デミリスの剣先が、おれの鼻先を僅かな距離で軽くかすめる。
 本来なら、姿勢を低く屈めて相手の出方を待つのだが、

「シュッ! はぁっ!! どうした? 剣士相手では手も足も出ないのか?」
「……片手剣は使い勝手がまだ掴めないんでね」
「どうせその錆びた剣は、冒険者を殺して得たものなんだろ? 剣を使う気が無いなら、大人しくするべきだ!」
「使う気はあるが……」
「悪いが剣でも実力でも差がありすぎる。殺しはしないが、決着をつけさせてもらう」
「……」

 錆びた剣を言い訳にしても仕方がない。
 ソードスキルを使わせてもらう。

 両手、片手に関係なく、スキル発動と同時に相手の喉元に剣先が届く。
 デミリスの言う通り、おれも殺しはしない。

 剣士相手にムキになるわけではない。
 だが、圧倒的実力の差を示して大人しくさせる必要がある。

 デミリスは、剣先をおれに見せながら腰を低く落とす。
 対するおれは剣を両手剣のように構え、顔の前で構えを見せる。

「――終わりだ、アック・イスティ!」

 すり寄るデミリスの間合いを感じながら、口中に溜めていた息を大きく吐く。
 ほんの一瞬、両眼をつむって大きく目を見開き、相手の喉元を目がけて突っ込む。

 そう思っていた次の瞬間だ。

『駄目なのっ! イスティさま!!』

 うっ……この声は。
 声と同時に目に飛び込んで来たのは、宝剣フィーサが間に割って入って来た姿だった。

「えっ、フィーサちゃん?」
「フィーサ……!? どうしてここにいるんだ?」

 何だ、知っているのか。
 ここにフィーサがいるということは……。

『フニャァァ~!! アック、アックがいるのだ~!』
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