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第七章:見えない戦い
90.冒険者砦の攻防戦 4
しおりを挟む「ひぃえっ!? アック様、矢が~剣が~!!」
「分かってる! ルティはそのままセリナを守ってくれ! おれは突っ込んで連中を何とかする」
「は、はいい~」
予想はしていた。
遠目から見ただけでは分からなかった砦周辺。
辺りが薄暗くなっていたことも関係しているが、冒険者同士の争いが起こっていた。
連中が好き好んで砦に召集されたのかは、不明だ。
冒険者が砦に来るということは、戦うことを目的として来ている。
そうなると気に入らない奴同士で揉め事が起きても、何ら不思議はない。
気配を探った感じでは、支援系ジョブはほとんどいないようだ。
攻撃魔法を使う者も見当たらない。
それならおれが出来る戦法は、魔法による弱体攻撃。
流れ矢が飛んで来ているということは、離れた所にもいるということだ。
夜になると魔物が出没するらしいが、砦周辺には見当たらない。
それなら遠慮なく、魔法を使わせてもらう。
「低ランクが来てんじゃねえ、邪魔だ!!」
「うるせえ! 脳筋だけで来るな、暑苦しいんだよてめえら!」
……などなど、言い争いの方がメインのようだ。
――とはいえ、こちらには余裕が無い。
『悪いが、その砦に用がある。そこを空けてくれ』
さすがに自分ひとりだけだと、すぐに目を付けられるほど目立つ。
殺すつもりも無いので、無詠唱で発動させてもらう。
「はぁぁ? 何だてめえは! ソロで来てる奴が生意気――へっ? か、体に力が……」
「な、何……だ、これ……は」
「くそぅ、まだ何もしてないの……に……ぐぅぅ」
冒険者の中には、剣同士、拳同士を交えている連中も見える。
しかし面倒なことに変わりはない。
手っ取り早く片付けさせてもらう。
――ということで、砦周辺の連中全てに麻痺と睡眠の魔法を同時にかけた。
元々ここに集まって来た連中に魔法耐性が無いのか、あっさり終えてしまった。
地面には、剣や弓が無造作に散らかっている。
砦が目の前にあるし、魔物に襲われることは無いはずだ。
目を覚ました後の目的を失くさせるためにも、砦を沈めておくか。
ルティとアクセリナには、一定の距離を取ってもらっている。
広範囲魔法でも、彼女たちに被害が及ぶことは無い。
「よし、やるか」
◇
「ウゥゥ……! 外に何かいるのだ!! 何か危険な魔力を感じるのだ!」
「妾も感じるなの! たくさん感じた気配が一瞬で消えたのに、感じるのは膨大な魔力なの……!」
「外に? 砦の中じゃなくて? そ、それならオレが止めて来るよ。キミたちはここで待ってて欲しい!」
「お前大丈夫なのか? デミリスは、そんなに強くないのだ。強い魔力を持つ何かに、どうやって挑むのだ?」
「……大丈夫。こう見えて、オレの剣は魔法に耐えられるんだ。相手が魔法を連発して来ても、この剣ならきっと……」
「ウニャ、分かったのだ。強くないお前を、シーニャが守るのだ!」
「妾もシーニャと一緒に助けてあげるなの!」
「よし、それじゃあ行くよ!」
砦の中にいたシーニャたちを下がらせ、謎の剣士デミリスは砦の外に向かった。
◇
「範囲は砦のみでいいか。【水属性魔法 タイダルウェーブ】を砦の――むっ!?」
片手剣の軌跡のようなものが、一瞬見えた。
どうやらおれめがけて、垂直に剣を振り下ろそうとしているようだ。
見えるということは、手練れの剣士。
錆びた片手剣しか無いが、戦ってみるか。
「ま、待てっ! 砦を沈めようとしているのはお前か?」
「……あんたは?」
「オレは砦の中にいた者だ。何の確認もせずに、砦を魔法で沈めるお前を許すわけにはいかない!」
「――ということは、あんたは別の目的で来た冒険者?」
何やら緊張で全身震わせているみたいだが、もしや悪人扱いされてるのか。
話せば分かってくれそうだが、剣で戦おうとしているしどうしよう。
「そ、そうだ! ここに倒れている冒険者たちも、お前がやったんだな? 何てことだ……」
「やってはいないんだが……何やら興奮しているみたいだし、戦いますか」
「望むところだ! オレは剣士デミリス。お前は何者だ?」
「……デミリス? 何か聞いたことあるな。おれはアック・イスティ、ジョブなしだ」
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