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第七章:見えない戦い

89.冒険者砦の攻防戦 3

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「……なるほど、ああやって作っていたのか」
「アックさん、何がですか?」
「いえ、ルティが作る特製の飲み物のことですよ」
「ルティちゃん、錬金術も使えるんですね。ドワーフ族って聞いてましたから、納得です」

 捕らえた戦士たちを眠らせるため、ルティは特製ミルクを作っている。
 その作り方を今まで見たことが無かっただけに、妙に感心してしまう。

 ルティは今まで、どこに行くにもデカい樽を持参していた。
 しかし収納スキルを持たない彼女が、樽をずっと運ぶわけにもいかない。

 それだけにお手製の飲み物やら食べ物を、どう作るのか興味があった。
 ルティはドワーフの娘で、錬金術が使える。

 その答えは、手元にあった。
 素材となる獣の皮や、水、防具に至るまで、分解をして作り出せるらしい。
 
「アック様っ! 出来ました!! 特製ミルクですっ」
「お、おぉ……」
「たくさん魔物を倒しておいて正解でした~!」
「……それで、効果は睡眠か?」
「ふっふっふっ~それは、戦士さんたちに飲ませてみれば分かりますっ!」
「それならいいが……」

 少し離れた所で動きを封じられていた戦士たち。
 アクセリナが上手く麻痺をさせていたようで、彼らはその場から動くことが無かった。

「「「なっ、何を飲ませるつもりだ!?」」」

 木のコップを手にしたルティが、男たちの元に近づく。
 恐らくミルクであろう飲み物を、勢い任せに飲ませ始めた。

「さぁ、どうぞどうぞ! これを飲めばばっちりです!」

 何がばっちりかは分からないが、抵抗することなく彼らは飲み干したようだ。
 その直後、その場で横になりすぐに寝息を立てていた。

「あ、あっさりでしたね。さすがルティちゃん」
「ルティのお手製の効き目は相当なものがありますよ。それは間違いないので、ここに寝かせておきますか」
「そうですね。凍結させた木々も、じきに融けるでしょうから」

 おれがかけた魔法の効果は永久でも無く、時間が経てば元に戻る。
 それでも眠っている者がいれば、凍傷か凍死の恐れは避けられない。

 ルティの特製ミルクの効果にもよるが、どんなものか。
 彼らの様子を確かめたルティが、おれたちの所に戻って来た。

「アック様! 戦士のみなさんをこのままにしますか~?」
「一応聞くが、ミルクの効果は睡眠だけか?」
「それがですね、ポカポカと温まりながら目覚めた時には、何と! 体力が回復するんですよ~! ですので、アック様のかけた凍結魔法でおかしくなることはありませんっ!」
「そ、それならいいか」
「はいっっ!」

 睡眠効果に体力回復か。
 何かを加えるとは思っていた。

 手元を光らせていたあの流れの中で、どう作っていたのだろう。
 気にはなるが、戦士たちを眠らせることが出来ただけで良しとする。

「ルティ、アクセリナ」
「はいっ! アック様」
「はい」
「砦に突入する。おれが先に行くから、ふたりはついて来てくれ!」
「ええっ!? だ、大胆に行ってしまうのですか?」
「アックさん、様子を見ながら行くべきでは……?」
「砦が見えている状況で時間をかけてしまえば、厄介なことが増える。中にいるのが冒険者なら、大した強さの奴はいないはずだ! ルティはセリナから離れるなよ?」
「アックさん、回復は……」
「おれは平気です。ルティの傍にいてやってください」
「分かりました」

 ルティを負傷させた奴らの強さがSSランクだとすれば、大した強さじゃない。
 砦も沈めてしまうのが簡単だが、冒険者を敵に回すのは避けねば。

「よし、じゃあ――」
「その前にアック様、これをグイグイと!」
「……睡眠ミルクは飲まないぞ?」
「アック様なら睡眠耐性がありますから飲んでも大丈夫……って、そうじゃなくてっ! アック様特製ミルクなのです。さぁさぁさぁ!」
「うっ……ぐっ、んっ……んぐっ――」

 ミルクかと思っていたが、樹液なのか。
 甘すぎる……が、これはどういうのが含まれているんだ。

「効果は何だ?」
「それはですね~砦で戦いが生じた時に気付けるはずですっ!」
「……何だそりゃ」
「アックさん、何ともないんです?」
「特には……」
「私が感じているのは、回復士に似た気配を感じますけど……ルティちゃんって、錬金術と盗賊スキルだけじゃないんですか?」

 そういえばルティは、自称回復魔道士だった気が。
 回復に特化した何かが、体内に潜在したのかもしれないな。

「わたし、一応回復魔道士なんですよ~! セリナさんと同じでして。えへへ」
「え? そうだったの!? 魔法を使えないのに、錬金術で作り出せるなんて……」

 ルティの場合は、魔法でどうこうするタイプじゃない。
 回復の才能が、錬金術で開花しただけのことだろう。

 とにかく、何の効果が発揮されるかは別として。
 どんな敵が出て来るかも分からないが、砦に突入して先に進まねば。
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