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第七章:見えない戦い
84.宝剣フィーサ、隠しスキルを解放する
しおりを挟む「い、行くのだ! ウゥゥ~ニャァアアッ……!!」
『ギァグゥゥゥゥ――!』
シーニャがぶん投げた宝剣フィーサは、見事魔物の背に突き刺さる。
「ち、違う違う! 剣は投げるものじゃなくて、自分の手と力で振り回すんだよ」
「ウニャ? でも当たったのだ! 魔物も一撃で倒せたのだ。それでも正解じゃないのだ?」
フィーサは剣の姿に戻り、眠りに入っている。
それをいいことに、シーニャは自分のやりやすいように剣を使っていた。
そんな光景を目の当たりにしたデミリスは、教えなければという思いが膨らむ。
その結果、剣を握るつもりが無かった彼も、積極的に前に出るしかなくなってしまった。
「ええと、何て言えばいいのかな。オレが手にしているのは片手剣と言って、どちらかの手で持つことが出来る」
「片手だけだと弱そうなのだ」
「はは……。まぁ、本当は盾も持つべきなんだろうけど。ええと、シーニャの持つ宝剣は両手剣。だから使い方も異なるんだけど……剣は投げて使う武器じゃないんだよ」
「むむ? 投げても強かったのだ! 手に持ったらもっと強くなるのだ?」
「ほ、本来は手にすることで強さを発揮出来るものだからね。どんな敵に対しても、振り回して倒すべきだと思うよ。ほら、投げられた剣だけが寂しい思いをしているよ?」
「フィーサは眠っているのだ。寂しいことは無いのだ」
「ここで待ってるから、取りに行っておいで」
「仕方ないのだ」
デミリスは、過去に起きた出来事で船上以降、まともに剣を握っていない。
しかしシーニャへ教えているうちに、くすぶっていたものが晴れて行く予感を感じ始めた。
考えの違うSランクパーティーを抜け、剣をも捨てようとした彼も思うところがあるようだ。
◇
「――うう~ん……さっきから体が痛いなの」
『グルルルゥゥ……』
「ひゃぅぅ!? 虎娘に預けたはずなのに、どうして獣にかじられているなの!?」
シーニャに投げられたフィーサは、何故か自分が牙のある獣にかじられている状態で目が覚めた。
理解の出来ない状況の中、獣はフィーサを噛み砕こうとしているようだ。
「獣ごときに砕かれる妾ではないなの! でも気持ちが悪いなの……」
鋭い牙を持つ獣だったが、牙ではどうにも出来ないことを悟る。
そして、
「嫌なの嫌なの~……ヌメヌメした液体に侵されるのは、やめて欲しいなの!!」
獣は胃液のようなものでフィーサを包み、溶かそうとしている。
『グルゥゥ……』
「頭に来たなの! こうなったら、スキルを解放してやっつけてやるなの!!」
嫌な目に遭わされているフィーサは、剣の姿から人化。
勢いのまま自身の腕を剣に変え、そのまま獣の口を裂いてしまった。
「ふんっ!! 妾を怒らせたらひどい目に遭うなの! ざまぁみろ~なの!!」
「ウニャニャッ!? フィーサが分裂しているのだ!! どうなっているのだ?」
「虎娘! 遅いなの!! もう少しで獣の胃袋の中に入る所だったなの」
「その腕の剣みたいなものは何なのだ?」
「……これも妾なの。でもでもイスティさまにも、まだお見せしていないなの!」
「ふんふん?」
「妾自身も、スキルくらい持っているなの。それを使えば、虎娘に使われずに済むなの! もう投げられたくない!!」
シーニャに違う使われ方をされた挙句、フィーサは獣に喰われそうになった。
それが嫌すぎたフィーサは、スキルを初めて解放する。
人化しても攻撃をすることが無かった彼女。
ここに来て隠していたスキルを使い、自分の意思で獣を退治することに成功したのだった。
「もう投げないのだ! シーニャ、デミリスに聞いて分かったのだ」
「ふぅん? それならいいなの」
「ウニャッ!」
使いたくなかったスキルを解放したフィーサは、再び剣に戻りシーニャの手に収まった。
宝剣を手にしたシーニャがデミリスの元に戻ると、
「……よく見えなかったけど、仲直り出来たかい?」
「ウニャ! もう投げないのだ!!」
「うん、それがいいよ。それと、ここから先はオレが全て相手をするよ。キミはオレの後ろに」
「そういうことなら、任せるのだ!」
「そうしないと進めないんだ……オレは」
剣の使い方を覚えたシーニャと、剣を握ることを決めたデミリス。
彼と彼女たちの目的地は、もうすぐ近づく。
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