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第七章:見えない戦い
76.盗賊剣士の頼みごと
しおりを挟むルティに案内され、食事を取ろうと小屋に移動。
そこにはお頭であるジオラスと、妻らしき女性の姿があった。
こぢんまりとした場所に、おれとルティの分の皿が並べられている。
その時点で、何かを感づかれた気がしてならない。
「アック……だったか。そこに座れ」
「あ、はい」
「シアちゃんも座ってね」
「はいっ!」
どういうつもりか分からないが、おれとルティ、ジオラスと女性で対面する構図だ。
食事をしながら尋問でもする気か。
「そう緊張するな。毒なんか入っていない。それを作ったのは、俺の相方のアクセリナとお前の相方シアによるものだ」
「相方……?」
「何だ、違うのか? 盗賊スキルを……と言っていたからてっきり――」
「あ、あぁ、そういうことなら相方です」
ルティの特製かと思いきや、普通の豆スープと水、獣の干し肉が並べられている。
地下都市だからなのか、それほどいいものを食べているわけではないようだ。
隣に座るルティを見ると、とにかく微笑みまくっている。
何にせよ、落ち着いて食事を取るのは久しぶりだ。
料理は美味しく、ルティの隠し効果も入っていない。
そんな中、ジオラスが目を光らせておれに話を切り出して来た。
「……それで、アック。お前は盗賊ではないだろう? もちろん、荷物持ちでも無い。違うか?」
出会った時からすでにバレていたようだ。
それでも仲間にするということは、ジオラスにも何かの狙いがあったか。
「荷物持ちってのは本当ですよ。元、ですけどね。今は色々やってる冒険者ってところです」
「面白い奴だな。見たところ、お前は魔法が使えるはずだ。そうだろ?」
「……一応は」
「魔法が使えるのなら、この辺の魔物……もちろん、冒険者の相手も出来るよな?」
「強さの度合いにもよりますけどね。何かやりたいことでも?」
「これは俺からの頼みだ。あいつらとは別の仕事になる。お前ならやれるはずだ」
てっきり昼間の冒険者を襲って、直接武器を盗んで来いと言われるかと思っていた。
だが、全然違うようだ。
「それは何です?」
「魔物を狩りつつ、冒険者パーティーにいる剣士を探してもらいたい」
「剣士を?」
「それには危険がつきものだ。お前にはアクセリナをつける。もちろん、そこにいるシアも連れていけ! シアも盗賊というより、回復が出来るドワーフだろ?」
「それはいいですが、剣士と言われても……」
「剣士……元剣士になるが、俺の弟を探して連れて来てくれ。弟の名は、デミリスだ」
「弟ですか。特徴は……?」
ここを通る冒険者パーティーがどれほどいるのか。
魔物の強さも知らないし、楽な仕事では無さそうだ。
「それなんですけど、アック様に似ているみたいです~!」
「ん? 何でそれをシアが……」
「シアちゃんの相方があなたですね? 私は回復士アクセリナ。優しさがあり、それでいてやる時はやる! そんな力の持ち主な所が似ています」
優しいかどうかは何とも言えない。
「回復士……なるほど。あなたも同行するというわけですか?」
「シアちゃんは魔法が苦手のようですし、私がいれば問題は無いかと」
「はぅ~ごめんなさいです」
ルティの回復はどちらかというと、お手製ドリンクだろう。
万人に効くかは不明だが、効きすぎるのが難点か。
今の話を聞く限り、そこそこのレベルのようだ。
まずはふたりの強さを確かめてみるか。
【ジオラス・ルダン 盗賊/剣士 Lv.90】
【アクセリナ・ルダン 回復士 Lv.80】
【ルティシア・テクス 従順なルティ Lv.???】
何故かルティまで見えてしまった。
しかもまた称号が変わっている。
ルティのレベルが変動しまくりなのか、数字は見えないな。
ジオラスとアクセリナは夫婦か、あるいは。
ふたりともその辺の冒険者より実力がありそうだが……。
魔物の強さが気になる所だ。
「アック。どうだ、やってくれるか? 無事に弟を見つけ、ここへ戻した時は盗賊のことを教えてやるぞ」
「弟さんがこちらを敵とみなした場合は?」
「それは問題ない。剣士として未熟な奴だ。魔法でも撃たれたら、どうすることも出来ないだろうな」
「やる分には問題ないですが、同行するのはアクセリナさんだけですか?」
「そうだ。お前も気付いての通り、ここにいる者たちは盗賊とその家族だけだ。お前のように、力を隠している奴はいない。冒険者の武器を盗れても、戦える奴はいないわけだ」
「……なるほど」
盗賊と言うわりにはしょぼい仕事をしているから、そうだと思っていた。
それをおれがやったところで、スキルは覚えられないだろう。
ここでジオラスの頼みを聞いて弟を探せば、借りは作れそうだ。
冒険者パーティーと戦うことになっても、負けることは無いしやってみるか。
「わたしも頑張りますよ~!」
「ん、そうだな。やりますよ、弟さん探し」
「すまんな、俺はここを離れられないのでな。あいつらにも伝えておく。明朝にでもよろしく頼む!」
「分かりました」
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