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第六章:新たな地へ
70.漂着のレイウルム半島
しおりを挟む気付いたら船室にいて、外に出たらタコに襲われ……今はどこかの島。
船に残されたみんなが心配だが、今は目の前にいるこの娘を気遣わねば。
「はぁぁぁぁ~……っくしょん!!」
「ずぶ濡れのままだとまずいだろうから、乾かすぞ」
「それってまさか、アック様がしてくださるのですか?」
「まぁな。だから、ルティ。目をつむれ」
「め、目を……!? こ、これは期待していいやつですね! 思いっきりつむらせていただきます!!」
おれもルティもずぶ濡れではあるが、メイド服エプロンのルティを乾かす方が先決だ。
目をつむってもらえば、事故になる心配はない。
炎と風ですぐに乾かすことが出来るはずだ。
「よし、まずは――」
火力を弱めにして、炎魔法を発動。
ルティの全身を炎で包む。
姿勢よくしゃがんでいるルティは、一時的に熱を感じていることだろう。
「あ、あれぇ? アック様、まだわたしを包んでくれない……はぅっ! こ、この暖かさ、熱さはまさにアック様の愛! 心なしか大量の汗がにじんで来ましたけど、まだ何かされるんですね!?」
「次に期待だ」
「分かりましたっ!」
このまま服を乾かしたところで、風を発動。
風属性はあまり使っていないだけに、調整が難しい。
「し、しまっ――!?」
「ふわわわわわ~っ!? な、何やら大胆な持ち上げなのですね! わたしをどこまで抱きあげてくれるおつもりが……ひぃえっ!? う、浮いてる……もしかしなくても、わたし浮かされているんですか!?」
「落ち着け。すぐに降ろすから、そのままの姿勢でジッとしてろよ?」
「はひ~」
風魔法で一気に乾燥させるつもりが、勢いあまってつむじ風を起こしてしまった。
これを少しずつ弱めながら、ルティを手元まで降ろさなければ。
「……っと。何とかなったか。ルティ、大丈夫か?」
「はわわわぁっ」
「手荒いやり方になってしまったが、乾いたようだな」
「こ、これがアック様なりの……そうなると、わたしも気合いを入れなければ!」
「下に降ろすぞ。とにかく周りを見ながら、状況を確かめないとな」
「アック様! アック様はお寒くありませんか? よ、よろしければ~……」
「薄着だったからすぐ乾いた。大丈夫だぞ」
「で、ですよねぇ~でしたら、わたしは何か食べられるものを探して来ますっ!」
「待った! ここがどんな場所かも分からないのに、単独で動くのは危険だ。おれと行こう」
「はいっっ!」
ルティの全身はすっかり乾き、いつもの動きを見せている。
しかしどういうわけか、ルティの顔や肌が真っ赤に変化しているが、本人は元気そうだ。
船からはぐれてしまったが、ここから王国に向かえるだろうか。
海に面した半島のようで、スキャンで見えたのは、レイウルムという名前だけだ。
乾燥した大地なのか、土の地面よりも砂が入り混じっている。
ラクル周辺と比べると、広大な陸地が延々と続き海は目の前に見えるここだけだ。
ラクルは冒険者が好む場所で森も山もあったが、ここでは見当たらない。
陸地同士は石で出来た橋で繋がれている。
橋を渡るごとに、エリアの境界が異なるような場所のようだ。
大地のほとんどは砂のようだが、草地が所々にあるようなので、植物が生きられない環境では無い。
「まずは、歩くか。人の気配も魔物の気配も感じられないし、ここにいてもな」
「何だか久しぶりですねっ!」
「うん?」
「アック様とふたりだけで動くことがです」
「そういえばそうだな」
「わたしは嬉しいです! アック様も嬉しいですか?」
「おれも嬉しいかな、多分」
あらたまって聞かれると答えに困るが、ルティに助けられなければ今のおれは無い。
それも含めれば、ルティとふたりだけで動くのは久しぶりかつ、嬉しいと思える。
「どこかに、村か人のいるところがあるといいですね~」
「おれもスキャンしながら歩いているが、まだこれといって見当たらないな」
「わたしを頼りにしてくださいね、アック様!」
「ん? そうだな。頼むぞ、ルティ」
「えへへ……」
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