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第五章:魔石の導き
61.ルティシアの約束された気持ち
しおりを挟む嫌な予感はルタットの町で感じていた。
確証は持てない。
だがバヴァルが投げた魔石によるものが関係しているとすれば、猶予は無いだろう。
そうなると、見習い騎士にいてもらう訳には行かない。
「リエンス。おれは神殿に行くことになるが、あんたは手前で待っていてもらう」
「ど、どうしてですか? 僕は王女に会うために……」
「神殿にいるのは高レベルの魔物と……厄介な相手だ。戦いが終われば、王女はあんたに会うはずだ」
「そんな……それほどまでの相手が神殿に……わ、分かりました。ルティシアさんの傍で待つことにします。どうかお気を付けて!」
「大丈夫だ。シーフェル王女は、きっと……」
「ええ、信じます」
スキュラと聖女エドラか。
どちらも弱体魔法を得意としているな。
スキュラの精神を乗っ取っているとすれば、使える魔法を多用する恐れがある。
『ルティ、待たせた! 予定通り、リエンスを護衛して――』
そう思っていたが、予想通り騒がしくなっていた。
「いい気になってちゃ駄目なんですからね? わたしが一番なんです! 一番初めはわたしなんですから!」
「……下らないなの。たまたまガチャを引いて、小娘が最初に呼ばれただけに過ぎないなの! 優先も何も関係ないもん!!」
「いいえ!! わたしはアック様の全てをお任せされている身! 剣なら剣らしく、お役に立つべきですよ!」
「別に剣だけが妾の全てじゃないもん!!」
――やはりこうなったか。
つくづくルティとフィーサは、相性が悪いらしい。
「アック! シーニャ、どうする? シーニャ、止めるのだ?」
「いや、シーニャは何もしなくていい。すぐ終わる」
「ウニャ」
最近はルティと行動することが少なくなっていた。
だからといって避けているわけじゃなく、役割分担を布いていただけだ。
とにかく今はふたりを抑えなければ。
『ルティシア! フィーサブロス! そろそろ先に進むぞ』
「「『は、はいっっっ!!』」」
おれがルティシア、フィーサブロスと呼ぶ時は、大抵意味がある時だけ。
それが分かったのか、ふたりとも素直に引き下がった。
ルティは慌ててリエンスのいる後ろの方に、駆けて行こうとしている。
「ルティ。頼むな!」
「お任せ下さいませ! あっ! アック様」
「ん?」
「お手をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「手を? 何かまた作ったのか?」
「ではではっ、恐れながら右手をお借りしますっ!」
「……うん?」
いつもは特製ドリンクやら何やらを、ルティは強引に渡すのだが……。
今回はそうではなく、おれの右手を掴んでいる。
「ルティ? おれの右手に何か――ぬぉわっ!? な、何をしている……」
「アック様、わたしのご主人様の心はわたしがお守りします。たとえこの先、揺らぐことがあったとしても、ルティはあなた様をお慕いし続けます」
幸か不幸か、ルティがした行為は他の誰にも見えていない。
さり気ない行為を時々して来るが、今回は……。
「ル、ルティ……」
「え、えへへ。ど、どうでしょうか? 今はわたしがお手をお借りしているだけなのですが、アック様さえよければ、ぜひぜひご自分の意思で撫で回しても……」
「い、いやいや、そ……それはまた今度にする。と、とにかく、後方は任せたからな!」
「はいっ、それはもう!」
唐突なことで驚いた。
今の今まで、ルティなりに寂しさは感じていたのかもしれない。
それがまさか、募り募って自分の胸に手を引き寄せるなんて。
彼女の場合は、最初から好意があった。
隠れ口づけも以前あったが、今回の行為は約束された気持ちなのだろうか。
彼女の胸の上に触れた右手は、どういうわけか力がみなぎり始めた。
スキュラと聖女エドラのことは、ルティには話していない。
もしかしたら案じての行動だとしたら、やはり回復魔道士は伊達じゃないかも。
「イスティさま。ドワーフ小娘が何かしたのなの?」
「い、いやっ、何でもないぞ。そろそろ進もう」
「……? はいなの!」
「アック、たくさん出た物、着けない? 着けないのだ?」
「そ、そうだな。装備しとかないとな」
変に意識させられそうになったが、今は神殿に進むことを考えねば。
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