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第五章:魔石の導き
57.出迎え騎士の護衛依頼
しおりを挟むレザンスから乗った船は、以前と変わりなく予定通りに着いた。
船に初めて乗ったシーニャは、同じ景色すぎて酔ってしまう。
ラクルに着いた頃にはぐったりしていたので、今は休ませることにした。
逆に元気なのは、ルティとフィーサだ。
フィーサは、ラクルでガチャをして引いて出た宝剣。
彼女にとっては故郷みたいなものかもしれない。
「またしてもアック様の町に来られるなんて、凄く嬉しいですっ!!」
「これからだって来ようと思えば来られるぞ」
「い~えっ! そんなことは無いはずですよ! アック様にとっていい思い出が無いのであれば、ここへは自然と避けると思うんです」
「まぁ……」
倉庫の町に思い出も何も無いが。
強いて言えば、勇者たちのせいでクビにされて荷物持ちになったくらいか。
「これだから小娘は足りないですの!」
「何がですか~!?」
「イスティさまは、そんな器量の小さすぎる御方ではないですの! たとえここでちっぽけな出来事に遭遇していても、ここは町であってイスティさまの思い出の地ではないなの! 少しは学んで欲しいなの!!」
「うぅぅむむむむ……」
そういえばルティとフィーサは、ここからすでに仲が悪かったな。
なぜそうなったのかまでは聞かないことにする。
彼女たちはともかく、人目のつかない倉庫の壁に休ませているシーニャを看てやらないと。
だがそこに、
『キミ、大丈夫かい? 参ったな、女の子ひとりしか見えないな……』
「……ウゥゥ」
全身硬そうな装備……ではなく、地味な色のマントだけを付けた男の姿が見える。
しきりにシーニャに声をかけているようだが、こちらには気付かない。
ルティたちの口喧嘩は置いといて、シーニャの元に駆け寄った。
一見すると騎士のようだが、誰かとはぐれたのか挙動不審だ。
『悪いが、その子はおれの連れだ』
『――! 良かった、仲間がいたみたいだね』
どこか抜けている男に思えるが、何故ここにいるのか。
シーニャから離れ、男はおれの正面に立ち、何かを窺っている。
「……何か? それに何故こんな場所に?」
「す、すまない! 僕は人を探しているんだ。ギルドで依頼をと思っていたけど、この町のギルドは人助けをしないって言うし……途方に暮れていたんだ。だから船が着くたびに冒険者を……」
「人探し……確かにラクルのギルドは、それを受けないだろうな。それで、冒険者は?」
「まだ見つからないんだ。いや、こことレザンスだけでは見つからないかもしれない。新しい航路を開設させたいけど、僕だけの力では……」
この男の言う通り、ラクルで冒険者をいくら探しても無駄だろうな。
それこそあのSランクパーティーが来たのも、レアだった。
新しい航路といえば、ラクルから一か所だけ申請していると聞いたことがある。
ただそこは、王族が支配する港だから実現出来ていない。
「あなたの連れは? 見たところ騎士のようだけど?」
「あぁ、僕は騎士。だけど見習い騎士なんだ。だから見た目だけでもと思って、ビロードを織り交ぜたマントを……」
どうりで黒っぽいマントにしては、光っているなと思っていた。
マント以外は町にいる人間が着る安めのクローク、それにやせ細りの体つき。
金色の髪は人目を惹くが、強そうには見えない。
「連れがいるなら、その人と動くべきでは?」
「いないんだ。いや、正確にはいたんだけど、気付いたらいなくなっていて……」
「それは女性?」
「そ、そうなんだ! とにかく綺麗な人で傍にいて護衛をしていたはずなのに、気付けば僕は港に一人だけ立っていて……」
レザンスでスキュラを見失ったルティに似ているな。
この騎士もルティも、幻惑魔法で惑わされたか。
「なるほど……それは大変でしたね」
「キ、キミ! もしかして手練れの冒険者では? 僕はリエンス・クラーセンと言います。よ、良かったら、僕から依頼を受けてくれないかな?」
「おれがですか? どういう依頼を……」
「もちろん、王女の捜索! それから、僕の護衛を!!」
「――はい?」
この男がスキャンで見えていた男か。
雇われ騎士と見えていたが、そういう意味だった。
レベルも弱いし、マントだけの見習い騎士を護衛って……。
スキュラを追わなければならないのに、ここで依頼とか。
「そこにいる獣人の子はキミの連れだと言ったよね?」
「はぁ、まぁ」
「獣人をテイムしているってことは、キミはテイマーで強いはず!」
「そうじゃないですが。落ち着いて、話を整理しませんか?」
「す、すまない。僕がキミに――」
「おれはアック・イスティ。ただの冒険者ですよ」
「よろしく、アック! アックに依頼したいのは、シーフェル王女の行方とそこに同行する僕の護衛を頼みたい!」
シーフェル王女……これもどこかで聞いたことがあるな。
一緒にいたのがスキュラだとすれば、王女と見間違っていても不思議はない。
怪物ではあるが、人間から見ればかなり美形の女性だ。
船に乗り込んだ時に、王女として振る舞っていたか。
「リエンスさん。あなたを護衛するのは難しいな。おれたちはこれから、海底神殿に向かうんですよ。そこにいる魔物のレベルはそれなりに高い。何より、剣も持たないあなたでは……」
「それでも僕は、はぐれた王女を探して王国に連れ戻したいんだ。お願いします! 冒険者アック」
王女に見えたスキュラか、それとも……。
護衛はともかく、依頼を受けたらやるしかないな。
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