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第三章:スキルの覚醒

31.剣士アック、貴族騎士を全て倒す?

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『わぁ~! アック様~! その調子ですよ~!!』

 観客席から聞こえて来る甲高いルティの声援は、他の誰よりも目立つ。
 それもそのはずで、ここには一般客の姿が無い。
 
 ノーブルナイト貴族騎士レギオンと呼ばれる剣闘場。
 ここは基本的に騎士団所属の、高レベル高ランク者のみで行なう戦いの場らしい。

 そこにジョブなしで、寄り道冒険者のおれが参加出来たのには理由がある。
 ルティに対する無礼への責任。

 そして取引を成功させた、スキュラの思惑が成功したからに他ならない。

 この剣闘場に集った騎士は全部で30名弱。
 その中には、副団長と名乗ったキニエス・ベッツがいる。

 スキュラと取引をしたアルビン・ベッツは、参加していない。
 彼女によれば、剣闘場での勝者にとある依頼をする思惑があるのだとか。

 それを聞いたおれとしては、まずはキニエスという男だけに集中することにした。
 宝剣フィーサはおれの手に収まっている。

 ガチャで引いたソードスキルを得たおれだったが、
「イスティさま。妾が手助けするのは、今回だけなの! 今度からは、きちんとスキル上げをすること! い~い?」

 そんなことを言われ、ソードスキルに加えてフィーサの力の一部を借りている。 
 おかげで、名のある騎士以外はあっさり倒すことが出来た。

 このレギオンは、騎士団という1つのまとまりで行われている。
 つまり個々ではなく、バトルロイヤル形式によるものだ。

 弱い騎士はすぐに退くので、戦いが長引かなくて助かっている。
 そして、

『――ちっ、ジョブなしのガキが生き残りだと? 揃いも揃って情けない奴等め!』

 大柄の男キニエスは、他の騎士同様に盾と片手剣を手にしている。
 対するおれは、宝剣フィーサのみの両手剣。

 防御に関しては敵わない。
 ただし防御を捨てたとしても、力と身のこなしは他を圧倒している。
 
 それを理解しているかによって、勝負は決まるはずだ。
 装備一式全てを鋼鉄製に固めたキニエスは、動きは鈍いが一撃が重いタイプ。

 現状、おれの装備は炎属性の防具でまとまっている。
 だからといって、相手の武器を焦がすといった付加要素は無い。

『いつでもどうぞ、副団長さん』
『ふん、バトルロイヤルならまぐれ勝ちといったところか』

 キニエスは身を低く屈め、中段からの突進攻撃をするようだ。
 盾を前面に構え、威力のあるアイアンソードを突き刺す。

 ソードスキルを得られたおれが取れる手段は、相手のガードを無視したガード無視攻撃。
 フィーサの攻撃力は、本気を出せば大岩も簡単に砕けられるのだとか。

 しかし今回はあくまで敵に勝つ為だけのスキルであって、力業じゃない。
 敵の突進力を利用して交わし、気が抜けた所で軽く急所に当てるだけ。

 それをしないと、騎士でさえも簡単に破壊ころしてしまう。
 細かい剣の基本動作は、今回に関しては全て自分の中に無いものだ。

『なめるな!! ぬおおおおおお!!』
 予想通り、中段構えのままで突っ込んで来る。

 おれはそれをかわさずに、キニエスの鋼鉄の盾に剣を向けた。
 宝剣フィーサの力は逆らわずに、そのままキニエスに向かって振り下ろされていく。

『――ちぃっ! ジョブなしの素人めが!』

 両手で思いきり振り下ろされる宝剣は、迷うことなくキニエスに重い一撃を与える。
 
 おれが感じることの出来た感触は、相手を斬ったものではなく、直前に防がれたアイアンソードとのつばぜり合いによるものだった。

『……続けます?』
『ふん、所詮祭りごとだ。素人相手に本気など、くだらん』
『ドワーフのあの娘のことは引いてもらえます?』
『そんなもんは最初はなからどうでもいいことだ。好きにしとけ!』

 ソードスキルとフィーサのおかげで、勝負はあっさりと着いた。

 全然剣を振れた感じは得られていないのでその辺は微妙だったものの、ルティの件をうやむやにさせずに済んだのでよしとする。

 騎士キニエスとの勝負? が終わると大歓声に包まれる……ことはなく、あっさりと人が引けた。
 いまいち盛り上がりに欠けた気がするが、レギオンの戦いだとそんなものかもしれない。

「はぁ~……イスティさまの実力を上げるのは大変そう」
「ま、まぁ、今回は実力じゃなかったわけだから、今度からはきちんとやるよ」
「うんっ! イスティさまのスキルを上げるのには、妾が助けてあげなきゃなの! それでね、あのね――」

『アック様~!! すごかったですよ~~! さすがわたしのご主人様ですね~えへへ』

 今回に関してはルティに降りかかる火の粉を……というのが目的だった。
 本人は気付いていないように思えるが、ルティは嬉しそうにおれに抱きついて来た。

「ちょっと、ルティ!? 近い、近い……」
「駄目ですよ~! これは盛大にお祝いをしないとなのです! アック様、ぜひぜひわたしの~……」
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