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第二章:魔石の秘密
26.寝不足者の破壊力?
しおりを挟む貴族酒場をスキュラ1人に任せ、宿に戻ろう。
そう思って店を出たが、足元がおぼつかない。
「……な、何だ? 急に視界が……」
まるでめまいを起こしたかのように、周囲の景色が回転し始めた。
そういえばずっと起きている気がする。
町を転移させた魔力消費も今になって、一気に疲れが回ったか。
『そこのあんた、大丈夫か?』
何やら親切そうなオッサンが声をかけて来たが、そこで暗転。
◇
その後、目を覚ますまでは、何が起きたのかさえ覚えていなかった。
どういうわけか宿に戻っていて、ベッドで眠っていたようだ。
しかし……、
「マスターイスティさま……あのぅ」
「うん? もしかしてフィーサがベッドに?」
「ううん、ここへは小娘が連れて来たの。そ、そうじゃないの……そうじゃなくて」
フィーサが小娘という相手はもちろん、ルティのことだ。
肝心のルティは部屋にはおらず、スキュラの姿も無い。
そしてさっきから、フィーサが顔を真っ赤にしながらもじもじしている。
宝剣としてではなく、人間の女の子の姿でつきっきりで寝ていたか?
全身銀色に輝くフィーサは、紛れもなくミスリルの宝剣だと再認識。
それはいいのだが、何か言いづらそうにしているのは何なのか。
「フィーサ? 何かあった?」
「マスターのお力が強くて離さなくて……ずっとずっと……」
「――ん?」
「あんな強引に掴まえられては、妾では太刀打ちできないの。だから……今度からは、妾の方からマスターに近づくの」
「あっ――? フィーサ、どこに?」
よくは分からないが、フィーサは顔を赤くしながら部屋を出て行ってしまう。
おれは自分の姿を見た。
「はっ!? 裸……!? え、何でっ……いつ脱いだんだ」
まさか親切そうに声をかけて来た男か?
身ぐるみはがされて、強引に宿に帰って来たとかじゃないよな。
『戻りました~! あっ! アックさん、おはようございます! って……あわわわわわ――』
ルティの顔が一気に赤くなる。
それもそのはずだ。
自分の姿に、今しがた気付いたばかり。
「こ、こここ……ここにアックさんのお洋服がありますからっ! み、見てませんよ!!」
「あ、ああ、すぐに着替える」
おれの服は荷物持ちの時から変わっていない。
どうやらルティが洗ってくれたようで、かなり真っ白になっている。
「……ふぅ」
「アックさん~……昨日は、ごめんなさいっっ!!」
「……何が?」
「そ、そのその……」
ルティもか。
おれが裸であったことが大いに関係しているようだが……。
「あ、ちなみに魔石は無事ですっ!」
「そ、そういえば。ありがとう、ルティ。それで、ごめんって?」
「アックさんのお力は、今ではとてつもないものとなっていまして……すでにわたしよりもですね~」
「ふむ?」
「ごめんなさい、ごめんなさいっっ!!」
「のわっ!? な、何?」
要点が分からないまま、ルティは勢いよく頭を下げまくりだす。
上下に振る頭で風を起こすとか、恐ろしい。
「昨日のことを、どこまで覚えていらっしゃいますか?」
「昨日……スキュラの護衛として酒場に行って、そこから1人で外に出て……」
「あふぅぅ……」
今にも泣き出しそうなルティだったが、まずは落ち着かせた。
そしてようやく真相が判明する。
「すっごく寝不足なアックさんは、暴れていまして……それはもう、手配書に書かれそうな勢いで街の壁を破壊していました。それを止めたのがわたしなんです~」
「は、破壊!? 寝不足なだけで?」
「はいい~……きっと疲れが溜まっていたのに加えて、酒場で何かあったんじゃないかなぁと」
「あ~……うん」
「ここまで破壊音が聞こえて来まして、わたしがアックさんを止めたんです……」
「一応聞くけど、どうやって?」
「全力の拳で!」
まぁ、そうだろうな。
今になって全身に痛みを感じているが、回復水を浴びた気もしている。
そうなるとフィーサは一体なぜあんなことに……。
「フィーサのアレは?」
「そ、そのその……アックさんに裸のまま、抱きしめられていまして~……」
「あ~……」
900歳のフィーサではあるが、見た目があれだけに可哀想なことをしたな。
何もしてなければいいが。
「ちなみに裸になったのは何故?」
「全力攻撃で止めたら、息の根を……じゃなくて、大変危険になりましたので、急いで回復水をかけちゃったのです!」
危うくルティにとどめを刺されそうだったのか。
元々自分の衣服を、ずっと変えていなかったわけで。
スキュラの護衛役でも、ボロボロの衣服のままだった。
暴れて止められて、死にかけに回復水か。
「ま、まぁ、キミのおかげで宿に戻れたし、眠れたから気にしなくていい」
永遠に眠りそうだったかもしれないが、そこは言わないでおく。
力はルティより上でも、防御力は相当低そうだ。
「スキュラは?」
「帰って来なかったですよ。酒場で何かしていたんじゃないでしょうか」
彼女のことだから心配なことは起きていないと思うが……。
果たしてあの貴族の男とは、交渉がまとまったのだろうか。
「アックさん、あの~……」
「どうした?」
「フィーサだけでなくて~と、とにかく、アックさんにはいずれ、わたしも……で、ではでは! パンを焼いてきますねっ!!」
何だ? ルティには何もしていないはずだが……。
暴れて止められて……とにかく、今度からきちんと寝よう。
ふと、気になって魔石を見てみるとそこには、
【Uレア 鉄壁のルティ Lv.300】
【SSSレア 忠実のフィーサ Lv.900】
ルティ、強くなりすぎだろ。
いや、おれが無駄に強かったのか……。
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