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第7話 超常連カナさま、現わる

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「いらっしゃいま……えっ?」
「むふふ……み~つ~け~た~よ~」
「な、なぜここが……」
「さぁさぁ、機械のごとくレジをやっておくれ!」

 まさかと思った。

 実家に帰ると言ったはずのカナが、まさかバイト先のスーパーにまで現れるなんて予想だにしていなかった。

 それもカゴいっぱいに詰め込む大量買いのお得意様だったなんて。

 なぜお得意様と判明したかというと、

「いつもご贔屓にありがとうございます! 小桜さま。セール品をお安くしておりますので、どうぞご利用くださいませ~」

 といった声が、店長直々に聞こえてきたからだ。ポイントカード利用をしていても、基本的に客の名前を呼ぶことはない。

 それなのに名前を呼ばれているということは、かなりの常連かつお得意様だと言っていいレベル。

 カナは次に会ったときはレベルアップをするとか言ってたが、これのことなのか?

「お客様、カゴを台までお運びします」
「うむ!」

 偉そうにしてるけど、これは何も文句は言えない。

 ――というか、金欠じゃなかったのか?

 袋詰めしたカナは、そのまま特に何も言わずに外へ出て行くように思えたが、去り際にコソッと耳打ちしてきた。

「君を待っているぜ、勤労少年」
「……ありがとうございました~」

 バイトの時間が終わるまで三十分くらいあるけと、あの人はどこで待つつもりなんだ。

 しばらくして外に出ると、買い物袋を両手いっぱいに握りしめたカナの姿があった。

 まさかの外で待機とか、根性ありすぎだろ。そのまま待ってるなんて。

「おおう、待ってたぜ~趣味に生きてる少年!」
「マジで?」
「そろそろ片手の感覚が麻痺するところだったぜ~! なので、お願いするぜ!」

 これは持ってやらねばダメなやつだ。

「両方持ちますよ」
「おお、心優しき少年じゃないか。だが断る!! あたしはそんなにやわじゃないんだぜ?」
「いや、お得意様に無理はさせられないでしょ」
「ノンノン! 外に出たすばるくんはすでにあたしのお得意様ではないのだよ。お分かりかね?」

 ちょっと意味が分からんけど、頑固だし言うことを聞いておこう。

「それで、これからどこへ? 実家に運ぶ感じです?」
「何のことだい? 実家になんて帰りませんが?」

 あれ?

 帰るって言ってたよな。じゃあカナはどこに帰ったんだ。

「ネットカフェとかって話じゃないですよね?」
「おバカさんにも程があるぞ、すばるくん! あたしはちゃんと家に帰ったぞ~」
「……えっと、カナさんが住んでるマンションって話ですか?」
「当然ですが? 他に行けるところは少年の趣味部屋しかありませんが?」

 嘘だろ?
 妹と連絡したって聞いたからてっきり。

「甘い! 甘いぞ、少年。実家に帰るなんて一言も言ってないのだよ」

 ――つまり、俺の早とちりなわけか。

「ってことは……俺が住んでるアパートへ行こうとしてますか?」
「急げ、少年! そして喜べ! あたしの手料理の時間が迫ってるぞ! 走れ~走るのだ」

 まさかそのための食材だったとは。こんなに食べることにはならないと思うが、カナの手料理か。

 食べたことはもちろん無いけど、一人暮らしをしてるカナの料理は興味がある。いつもなら部屋に迎え入れないけど、今回は仕方ないな。

「今回だけですよ?」
「さぁさぁ! 少年を満たしてやるぜ! 話はそれからだ」

 言い訳の話だろうけど、今はとりあえずいいことにしとくしかないか。超常連客だし、お得意様みたいだし無下には出来ない。

 ――そしてアパートに着いてしまう。

「あ~け~て~」
「はいはい」

 今回は本当に仕方ないな。
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