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第1話 偶然で確信犯的な再会
しおりを挟む「お疲れっす!」
駅近くの小型食品スーパーのバイトを終え、俺はアパートに向かって歩いている。
いつもと変わらない夕暮れ時の商店街通り。せわしなく行き交う買い物客ばかりが通る道で、俺にとっては見慣れた光景だ。
バイトを終えて家に帰れば、趣味に没頭出来るという至福の時間が待っている。気分を高めながら駅前のコンビニに寄る――それが俺のルーティン。
――のはずだった。
少なくとも、コンビニで買い物を済ませて外に出るまでは。
「さてと、帰るか~」
いつものようにセルフレジで会計を済ませて外に出ると、何やら周りがざわついていることに気づく。
ざわつく視線の中心が俺に向けられている?
自意識過剰なことを思っていると、前方から明らかに生気のない表情でふらつくゾンビが……ではなく、美少女な女性がたわわな胸を揺らしながら俺をめがけて近づいてきていることに気づいた。
ぱっと見だけで判断すれば高校生の自分よりも年は少し上っぽい。すらりとした足と整った顔立ち、そのうえ黒くて清楚そうな長い髪の女性だ。
ゾンビに見えるのはともかく、どう見ても美少女にしか見えない。それだけでも目を引くのに、すれ違う男性の視線を独占しているのはたわわな胸だ。
通行人の男たちはゾンビな姿ではなく、ほぼ胸の辺りに視線を集中させつつもかなり距離を取っていて、女性に近づきもしない。
しかし俺と女性の距離は、ほぼ対面間近。たわわな胸を見たくなくても見てしまう。
不意に見てしまいそうになるも、気にしないまま女性の脇を通り抜けようとすると、
「ああああああああああ……!!亅
女性は俺が通り過ぎようとすると、突然奇声を発し始めた。
やはりゾンビか?
「ああぁ……あぁん? そこの少年んんん」
「へ?」
俺だけに声をかけてくるとか、嘘だろ?
「み~て~た~な~?」
これはもしや胸のことを言っているのか。
このままでは冤罪になりかねないので、そのままスルーして帰るわけにはいかない。そう思って声をかけるが――
「少年って俺のことですか?」
「どう見ても少年じゃん? ……というか、気づいてない?」
あれ?
普通に話せるぞ。ゾンビ風にしてたわけじゃなかったのか。しかも俺に何か気づいてほしそうだ。
「仕方ないな、特別サービスだぞ?」
そう言うと、お姉さんは胸の辺りを……ではなく、前髪をかき分けて気が強そうな目の辺りを強調し始めた。
いつかどこかで記憶した目つきをしている。気の強そうな目つきには覚えがあった。
――だが、
「あー、気のせいだと思うんで俺はこれで」
ここで相手をすれば後戻りは出来ない。ここはスルーするのがベストだ。
「見捨てないでおくれよー!! ひどいじゃないかー! こんなか弱い女子を置き去りにして一人で帰るなんて、そんなに記憶に焼きつけた胸をオカズに持ち帰りたいのかー?」
彼女の声は割と高めのハスキーボイス。そのせいで、注目が集まっている。
これはまずい。
「いやっ、ちょっと!! そんなに見てないって!」
「はい、有罪! ちっとこっち来いよ」
なんてこった。
人目につく通りでこんな手にひっかかるとか、油断しすぎだろ。
確信犯的なお姉さんに手を引かれ、交番にでも連れて行かれるかと思いきや……
「むっつりすばるだろ? お前」
「ど、どうして……どちらさまで?」
いや、俺はむっつりじゃないが。
「この目を見ても知らないふりをするとは、あああぁぁ!! なんて薄情な幼馴染に成長したんだー! 妹が見たら悲しむね、全く」
もちろん目つきを見た段階で分かっていた。そしてこの人に妹がいることも知っている。妹とは今現在かなり近い距離にいて、どこにいるのかも把握済みだ。
妹は俺の同級生で見知った仲でもある。
つまり目の前にいるのは――
「コザカナ……?」
目の前にいる年上女性――それは幼馴染の小桜カナで間違いない。彼女のことは俺流のあだ名で呼んでいた。
「うわ、キモ! まだそうやって呼ぶのかよ!」
「いや、キモくはないでしょ……」
「で、少年はすばる。天近すばる! どうよ?」
二つしか年が違わないのになぜこうも姉御肌な雰囲気があるのか。記憶では、確かカナは夢を追って郊外にある専門学校に行っていたはず。
落ち込んだ感じでふらついてたということは?
「すばるですけど、そもそもコザカナは何でここに? もしかして実家に戻って来たとか?」
「あーはははは……里帰りのような、忘れ物を取りに来た的なー」
強気に振る舞ってはいるが、何かあったっぽいな。
だからといって俺がどうするわけでもないけど。
「そうなんだ。じゃ、俺はそろそろ帰りますよ。気をつけて帰ってね」
「え、マジで言ってる?」
「帰る以外に何がありますかね?」
「……無い、けど」
「自分の家に帰るんでしょ? だから同じですよ」
俺の言葉に納得したのか、不満そうな顔を残しつつ彼女は背中を見せて反対の方に向かって歩き出した。
年上の幼馴染に偶然再会したのは嬉しくもあるけど、俺は一刻も早く帰ってアニメが見たい。
その一心で、彼女を最後まで見送ることなくアパートへ戻ることに。
しかし俺の油断は、偶然に再会した時から始まっていた。
「ただいまー……っと」
俺しか住んでいない部屋とはいえ、クセで言っている言葉。誰もいない部屋からは、もちろん返事なんて返ってくるはずもない――はずが。
「お帰り! って言われたら嬉しいだろー?」
部屋の中からではなく、俺の背後から聞いたことのある声が聞こえてきた。
え、まさか後ろをついて来てた?
「すばるってば、一人暮らしじゃん! 生意気すぎんだけどー! しかも何か物で溢れてね?」
「……いや、あの……何でついて来てるんですか?」
「すばるの家と違う方に歩いて行ったから心配でついて来た! そしたらまさかのアパート一人暮らしとか、それって何だよーってなったからつい」
そりゃあ親の家とは方角が違うけど、この行動は冗談きついな。
まさかストーカーされてたとか笑えない。この状態で無理やりにでも追い返すことが出来たらどんなに楽か。
「……少しだけですよ? コーヒー飲んだら帰ってもらいますんで」
姉御肌な彼女に即座に『帰れ』したところで無駄だな。諦めて軽いもてなしをしておくのが無難だ。
「おけおけ! もちろんすぐに帰るから! あーそれと、敬語やめて」
「やっぱり俺よりも一応年上だし、そういうわけにはいかないですよ」
「あー固い。頭が固すぎだろー。ま、とりあえずお邪魔しとくんで!」
偶然の再会からの部屋への訪問は確信犯?
それとも――
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