ブラック神殿から辺境に左遷された元S級神官ですが、捨てられ聖女を拾ったので最強聖女に育てようと思います

遥 かずら

文字の大きさ
上 下
25 / 25
第二章 帝国と王国

第25話 獣人マスターたちの頼みごと

しおりを挟む

「わしがカンヘルだ! あんたが帝国神殿のS級神官か?」
「……元ですよ。今は左遷された身ですので、S級神官とは名乗れません」
「んでも、実力はS級なわけだろ? じゃあどっちでもいいじゃねーか! なぁ、みんな!」

 半竜カンヘルの声に、俺を囲む獣人たちが一斉に頷く。

 ほぼ獣人たちに囲まれている今の状況は、一つ間違えば袋のネズミ状態。しかし実際は、彼らの切なる願いによる囲みに過ぎない。

 さかのぼることほんの数分前。

 物置のように散らばしていた部屋を綺麗に片付けたアグリッピナが言うには、今からカンヘルという半竜と他の獣人たちが来るという話だった。

「――ですから、カンヘルさんと一緒にこの街のギルドマスターさんたちがあいさつに来るんですよー!」

 地下の部屋はいくつかあり、隣の部屋にはカニャンとアルミドがいる。
 そして雑貨屋のすぐ地下にある物置部屋に、誰かを迎えるらしい。

「ギルドマスターって、単なるあいさつなんかじゃないよね?」
「その辺は聞いて無いですー!」

 まさか逃げ場の無い地下室でギルドの加入を求められるのか――と思っていたのに、秘密の地下通路から現れた彼らの話は全く別物だった。

「アグリッピナから聞いてるよ。あんた、強いんだってな?」
「いえ、そんなことは」
「いいや、分かるぞ。内に秘めたその魔力はただ者じゃねえ! おっと、わしはカンヘル。錬金術ギルドのマスターだ。以後よろしく頼む!」

 最初にあいさつされたのは、話に聞いていた半竜のカンヘルというおっさんだ。その他に見えるのは、獣の耳や尻尾を揺らす獣人たち。

 見た目的に恐ろしさは感じられず、どことなく威厳のようなものが感じられる。

「……それで、俺に何をしろと言うんです?」
「近いうちに王国主催で、ギルド代表腕試し大会が開かれる」
「ギルドの……?」
「帝国から来た奴は時々招待されては大会を観覧するんだが、奴はわしら獣人が人間の冒険者に容赦なく叩きのめされるのを楽しみにしている奴だ」

 何となく読めてきた。
 だからゾルゲンと神殿騎士が王都に来たわけか。

「なるほど。俺が代表して出ればそいつを見返せると?」

 獣人マスターたちは一斉にこうべを垂れた。

「あんたに頼むのはお門違いだと思っている。すまん。だが、今回の大会の結果次第で、帝国は攻勢を強めてくるというウワサだ。獣人が弱いと知れば容赦なく来るだろうな……」

 ゾルゲンは帝国の使者のようなものか。
 しかし奴の目の前で冒険者を倒すとか、なかなか無いことだよな。
 
「どうです? リナスさん。大会で勝てそうですか?」
「ピナも戦えるんじゃないの?」
「いえいえいえいえ!! 私はそんな、戦えませんよー!」

 クロウ族の集落で危険人物扱いされてたのに。

「まだ何とも言えませんが、その大会は勝てばいいんですか? 武器もしくは何でも使っていいんですよね?」
「そのとおりだ。別に相手を死なせるレベルではなく、降参させればいいだけのことだからな。もっとも、わしら獣人相手だと冒険者は容赦ないが」

 こんなに一斉に頼まれることになるなんて予想外だ。
 しかし、

「もし俺が勝ったら見返りは頂けるんですか?」
「王都ミケルーアのギルド全てのスキルを授けてやる! もしくは、商品や武器もろもろを全て無料で提供すると約束する。どうだ? 引き受けてくれるか?」
「……分かりました」
「おお!」

 武器での戦いはともかく、魔法でなら問題無い。

「それで、大会はいつです?」
「数日後だ。それまで市街地観光を楽しむといい!」

 見返りは魅力的だし、戦うだけなら何も問題は無い。しかし問題は観覧するゾルゲンだ。

 奴は俺がここにいることが分かっている。
 そして出来れば、帝国に大会での出来事を持ち帰って欲しくない。

 そうなると大会を使って、ゾルゲンをどうにかすることを考えなければならなくなるが――。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

遥かなる物語

うなぎ太郎
ファンタジー
スラーレン帝国の首都、エラルトはこの世界最大の都市。この街に貴族の令息や令嬢達が通う学園、スラーレン中央学園があった。 この学園にある一人の男子生徒がいた。彼の名は、シャルル・ベルタン。ノア・ベルタン伯爵の息子だ。 彼と友人達はこの学園で、様々なことを学び、成長していく。 だが彼が帝国の歴史を変える英雄になろうとは、誰も想像もしていなかったのであった…彼は日々動き続ける世界で何を失い、何を手に入れるのか? ーーーーーーーー 序盤はほのぼのとした学園小説にしようと思います。中盤以降は戦闘や魔法、政争がメインで異世界ファンタジー的要素も強いです。 ※作者独自の世界観です。 ※甘々ご都合主義では無いですが、一応ハッピーエンドです。

10年前の婚約破棄を取り消すことはできますか?

岡暁舟
恋愛
「フラン。私はあれから大人になった。あの時はまだ若かったから……君のことを一番に考えていなかった。もう一度やり直さないか?」 10年前、婚約破棄を突きつけて辺境送りにさせた張本人が訪ねてきました。私の答えは……そんなの初めから決まっていますね。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

公爵令嬢の一度きりの魔法

夜桜
恋愛
 領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。  騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。  一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

蓮華

釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...