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第二章 帝国と王国
第21話 元凶の神官長
しおりを挟む「……思い出したぞ! あの獣人は、わしが獣人の村で拾ってやろうとした猫族のガキだ」
「それは本当ですか? 俺をク・ベルハに赴任させたのもあの子を保護するために?」
麻痺状態から回復したゾルゲン神官長は、落ち着きを取り戻しカニャンについて話を始めた。
だが、聞こえてくる話はらしからぬ話の連続だった。
「保護? 何を抜かしている? 獣人の奴らはほとんど何らかのスキルを有していた。むろん、あのガキもだ! 村が危険だと感じたわしは帝国にその話を伝え、ガキは途中で捨てただけに過ぎん。獣人なんぞに"教え"など無駄だったのだからな!」
ゾルゲン神官長……。
この男が元凶で、カニャンとアルミドの故郷を帝国に滅ぼさせたのか。
「では、何故神殿騎士に獣人……いえ、猫族の彼女を?」
「何を寝惚けたことを……。神殿騎士にそんなのは――何だと!? あれは猫族ではないか!! どういうことだ、何で獣人が神殿騎士を」
アルミドはヘルムを脱ぎ捨て、真の姿を露わにして隠そうともしない。
そのすぐそばには妹のカニャンがいる。
「神官長なのに、神殿のことを何も見えてはいなかったようですね」
「ちぃっ! 抜かったか……」
「どうされるおつもりですか? 王都に向かっているようでしたし、今は何も聞かずに見逃しますが?」
「ふん、左遷された神官がほざくな! 神官ローブではなく、魔物のローブを着おって! ……まぁいい。お前の言うとおり、王都に入る前に面倒など無用。わしに何もしてこないならば、リナス。何も見なかったことにしてやる。いいな?」
今すぐにでもゾルゲンを尋問にかけてやりたいが、まだ駄目だ。今は我慢するしかない。
「構いませんよ。俺たちも王都に用があって来ているので、お互い様でしょう」
「ほざくな、元S級!」
ゾルゲンはまるで捨てゼリフのように言い捨てながら、従える神殿騎士とともに王都に入って行く。
「にゃう! リナスー!」
王都に入って行くゾルゲンを見届けたところで、カニャンが抱きついてきた。
この子の近くにはアルミドも残っている。
「――っと! 心配かけたね、カニャン」
「わたし、怖かった。でも、お姉ちゃんがいてくれた。お姉ちゃんに会えたから大丈夫だった。リナス、平気?」
「うん。俺は何とも無いよ」
「ん、良かった!」
問題を先送りしただけだが、まずは猫姉妹の再会を祝福するべきだろう。
「ちょっと、あるじ! どういうこと? あるじは……あの醜体、人間を知っているの? あの魔法のこともそう! 早急に説明して欲しいですわ!!」
そうか、問題はこっちにもあったな。
漆黒ローブで誤魔化していたとはいえ、サリルから見れば俺の行動はどう見ても。
「……サリル。俺は人間なんだ。それも、帝国の神殿から来た神官だ。だけど俺は君の敵じゃない」
「敵じゃない? そうは思えないのだけれど、それにそこの猫族! 人間側の鎧を身にまとっていて、どこをどう信じろと?」
「全て話すよ。だから、隠し持っている暗器を放とうとしているのは止めて欲しい」
「冗談じゃありませんわ! やはりあるじはそっち側だったなんて!」
ある程度の疑いを持っていながら、俺についてここまで来てくれたわけか。あの集落にいるよりは外に出たかったということかもしれないけど。
「と、とにかくサリル。それからアルミドも、王都に入ってそれからでいいかな?」
「私はゾルゲンに逆らった身。リナス様、そしてカニャンのおそばにいます」
「はぁ、隙があるうちにやっておけばよかったですわ」
王都に避難したアグリッピナが俺たちを待っているはず。
問題は色々あるが、今は荒立てをせずに過ごさなければならない。
「リナス。わたしも我慢、我慢」
「――! うん、そうだね」
カニャンとアルミド、サリルの共通の敵がゾルゲン神官長だった。
しかしまだその時じゃない。
今はなりゆきを見守る――それが俺の仕事になりそうだ。
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