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第二章 帝国と王国
第19話 神官、魔物扱いされる
しおりを挟むカニャンとサリルは、馬車から良くない気配を感じると言っていた。
かくいう俺も闇に似た気配を感じていたが、まさかゾルゲン神官長のことだったとは驚きだ。
「ああっ、くそおっ! わしをこんな辺鄙な場所で独りにしおって! だから魔法馬車は信用ならんのだ! ……ぬ?」
さすがに目の前にいる俺に気づいたか?
「何故わしの目の前に魔物が二匹もいる! いつからいた? 馬車を止めたのもお前らか?」
まさか俺のことが分からないうえ、魔物と見られている?
顔をまともに見せているのにどうして――。
「フ、フフッ……まさかここで仇の人間と遭うとは!」
何故なのかと思えば、サリルが憤りながら俺の前に出ている。
サリルも含めての言葉だったのか。
「サリル? 仇って、もしかして幼少期の……」
「確証は無くともわたくしには分かりますわ! この塊はここで始末を――」
「待った! まだ駄目だ。目の前に王都があるし、ここでは控えないと!」
「いかにあるじの命じといえども、これはわたくしの問題。止めるつもりならば、あるじもろとも……」
そもそも帝国の神殿から出たことが無いゾルゲンが、何故ここにいるのかを知る必要がある。
それまでは大人しくしてもらわねば。
「サリル。ここが誰の目にも晒されない辺境なら始末に至っても構わないが、今は駄目だ。どうしてもというなら……」
あまり使いたくないが、魔物相手には有効な神罰魔法を放つしかない。
「……っ! 分かりましたわ。あるじの意思がそうなら今は従いますわ」
サリルを抑えたのはいいとして、ゾルゲン神官長をどうするべきか。
そう思っているとさらに後方から土煙が上がる。
「ゾルゲン様ー! 遅れまして申し訳ございません。ご無事ですか?」
「神殿騎士隊はここに!」
などなど、馬にまたがった神殿騎士が数人ほど現れた。
あの中にカニャンの姉であるアルミドも含まれていたりするのだろうか。
「グズどもめ!! とっととわしの目の前にいる黒い魔物どもを始末しろ!」
やはり俺のことは見えてないし、完全に魔物扱いだな。漆黒ローブのせいとはいえ、俺のことはもういないものと思っていそうだ。
「ハ、ハッ……今すぐに!」
さすがに神殿騎士は命令通りに動くか。
そうだとしても、すぐ近くに王都の兵や旅人がいる中で抜剣するのは。
「あるじ。あるじが止めても、人間の方は止めるつもりは無さそうですけれど?」
「……分かってるよ」
両手剣を手にする神殿騎士が数人いるとなれば、対抗するには目くらましの光魔法でその場をしのぐしか。
「黒き魔物。魔物を無用に倒すなど本来の役目では無いが、ゾルゲン様に刃を向けたとすればただではおかぬ。今ここで我らに倒されよ!」
神殿騎士はフルプレートアーマ揃いで、相変わらず顔が見えない状態。
この状況で最善なのは魔法で防ぐことだが……。
「あるじ! どうするつもりが?」
「……君は避けてしのいで! 俺は光の魔法で何とかする」
神殿騎士に任せて、そそくさとこの場から離れて行くゾルゲンの姿が見える。
しかし王都門前で誰かに絡み始めたようにも。
あれはまさか――。
「サリル! この場は君に任せる! 俺は奴のところに向かう!」
「わ、分かりましたわ」
神殿騎士に気を取られていたとはいえ、まさかカニャンに絡むとは。
しかもカニャン以外の者たちはすでに退避済みなのか、姿が見えない。
「リナスー! リナス!! 助けて!」
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