18 / 25
第二章 帝国と王国
第18話 不穏の遭遇
しおりを挟む
王都へ向かう道中、カニャンは初歩的な攻撃を覚えた。魔物が低級ワームだったことも幸いして、傷を負うこともなくその場を後にする。
「次はもっと動く標的がいい」
「そしたら今度はラビット辺りにしてみようか?」
「うん。それでいい」
カニャンが手にする神聖剣は、俺が手にする時と違いかなり軽いらしい。つまりカニャンにとっては、剣を振るうこと自体疲れることではないことを意味する。
神聖剣を使いこなすようになれば、かなりの実力に成長しそうだ。
「リナスさん。もうそろそろ王都ですよー! 覚悟はいいですかー?」
「何の覚悟……?」
「知らない場所に行くのは覚悟が必要って意味ですよー!」
「あぁ、なるほどね」
少し前にサリルが気になることを言っていたが、そういう意味なら気にすることはないかもしれない。
サリルは俺たちと歩くことを嫌がって、後方からついて来ている。
俺をあるじと呼んでもそばにいたいわけじゃ無いようだ。
「リナスのダンナ」
「うん?」
ここに至るまで、取引以外で話すことは無かったダンテが俺に声をかけてくる。
一体なんだろうと思っていたら、
「ここから先、ダンテは近づけないっす! 王都は共生国ではあるんすが、ゴブリンは認められてないんでここでお別れっす。んでも、集落とかには行けるんでその時はまたいいお取引をお願いしたいっす!」
やはりゴブリンはそういう目で見られているか。
ダンテのように取引するゴブリンがいたとしても、多くのゴブリンは好戦的。道行く者を襲うのもいるし無理もない。
「そっか。それじゃあ、またどこかの集落で会えたらよろしく頼むよ」
「はいっす」
そう言うと、ダンテは王都を目前にしてどこかへ行ってしまった。
「リナスさん。もうすぐですよー! 衛兵に止められちゃうと思いますけど、気にしないでくださいねー!」
「承知してますよ」
白の神官ローブなら何も問題無かっただろうけど、今は漆黒のローブ。怪しまれないわけがない。
「リナス。わたしは、平気?」
「カニャンは……」
「カニャンちゃんは問題無いですよ。王都ミケルーアは獣人さんと共生していますから!」
そういえばアグリッピナから聞いたカンヘルさんというギルドマスターは、半竜と聞いた。つまり王都は、人間と獣人とで成り立っているということだ。
しばらくして、数人の衛兵が立っている王都門が見えてきた。
多くの旅人や冒険者が訪れているようで、入るのにかなり並んでいるのが見える。
「門の前はちょっとした騒ぎだね」
「いつもあんな感じなんですよ。特に初めて訪れる場合はどうしても並んじゃいます!」
なるほど。
帝国と違ってそういう賑やかさが日常なわけか。
「ではでは、私たちも並んじゃいましょう!」
「そうしようか。ほら、カニャンも」
「ん。並ぶ。でも……何か来る」
「えっ?」
カニャン、アグリッピナとともに列に並ぼうとすると、サリルがいる所よりもさらに後方から土煙が上がる。
どうやら馬車か何かが接近しているようで、その勢いは列に並ぶ者たちなど気にしてもいないように思えた。
「リ、リナスさん。こっちに迫って来てませんか?」
「まさか、突っ込んで来る!?」
「……変な、気配感じる。リナス、避けないと駄目」
見ると、サリルはすでに街道の端に避けている。
だが列に並んでいる人たちや、衛兵はまだ気づいていない。
「ピナさん! カニャンと一緒に王都門の近くに行っててもらえますか?」
「え、でもまだ順番が……」
「そのついでに衛兵に声をかけて、一応の待避を! ピナさんは衛兵に知られていますよね?」
「一応知られてますけど、ええと、分かりました。お知らせしてきますー!」
何者か分からないが、馬の暴走にしても止めようとしていないのは妙だ。
制御する者がいないのか、あるいは――。
被害が及んで大変なことになるのは明らかだ。
そして、
アグリッピナたちが衛兵に伝え終わると同時に、衛兵がこちらに気づいてくれた。しかし間近に迫りくる暴走馬車に対し、どうすればいいのか分からずにいるようだ。
「……闇を感じさせる不穏なる気配、この身の魔力を借りて堅牢なる盾を顕現せよ!」
馭者の姿も無い暴走馬車が王都門に近づく手前で、俺はすぐさま物理防御魔法を展開。目に見えなくて分かりづらい魔法ではあるものの、これで何とかなるはず。
直後――。
見た感じ何も無いところで、馬車が突如として急停止。
衛兵や冒険者、旅人たちは直前になって逃げる構えを見せるも、何も無いところで動きを止めた馬車に対し唖然としているようだ。
このことを伝えに行ったアグリッピナ、カニャンも手で顔を覆ったまま動かない。
間一髪だったか。
「フフ、あるじのその魔法、《シールド》ではなくて?」
「目に見えないのによく分かったね」
「そのくらい知っていますわ。それより、馬車の中の気配……気づいていますわよね?」
「……分かってるよ」
貴族が乗っていそうな箱から感じる気配は、不穏な気配そのものだ。
「なぜ急に止まったのだ? 王都とやらに来てやってみれば、こんな半端な道で止めおって! 神殿騎士どもめ、何をしている? おい!! 誰かいないのか?」
だがそこから聞こえて来た声、そして姿を見せた者は意外な人物だった。
まさかゾルゲン神官長……か?
「次はもっと動く標的がいい」
「そしたら今度はラビット辺りにしてみようか?」
「うん。それでいい」
カニャンが手にする神聖剣は、俺が手にする時と違いかなり軽いらしい。つまりカニャンにとっては、剣を振るうこと自体疲れることではないことを意味する。
神聖剣を使いこなすようになれば、かなりの実力に成長しそうだ。
「リナスさん。もうそろそろ王都ですよー! 覚悟はいいですかー?」
「何の覚悟……?」
「知らない場所に行くのは覚悟が必要って意味ですよー!」
「あぁ、なるほどね」
少し前にサリルが気になることを言っていたが、そういう意味なら気にすることはないかもしれない。
サリルは俺たちと歩くことを嫌がって、後方からついて来ている。
俺をあるじと呼んでもそばにいたいわけじゃ無いようだ。
「リナスのダンナ」
「うん?」
ここに至るまで、取引以外で話すことは無かったダンテが俺に声をかけてくる。
一体なんだろうと思っていたら、
「ここから先、ダンテは近づけないっす! 王都は共生国ではあるんすが、ゴブリンは認められてないんでここでお別れっす。んでも、集落とかには行けるんでその時はまたいいお取引をお願いしたいっす!」
やはりゴブリンはそういう目で見られているか。
ダンテのように取引するゴブリンがいたとしても、多くのゴブリンは好戦的。道行く者を襲うのもいるし無理もない。
「そっか。それじゃあ、またどこかの集落で会えたらよろしく頼むよ」
「はいっす」
そう言うと、ダンテは王都を目前にしてどこかへ行ってしまった。
「リナスさん。もうすぐですよー! 衛兵に止められちゃうと思いますけど、気にしないでくださいねー!」
「承知してますよ」
白の神官ローブなら何も問題無かっただろうけど、今は漆黒のローブ。怪しまれないわけがない。
「リナス。わたしは、平気?」
「カニャンは……」
「カニャンちゃんは問題無いですよ。王都ミケルーアは獣人さんと共生していますから!」
そういえばアグリッピナから聞いたカンヘルさんというギルドマスターは、半竜と聞いた。つまり王都は、人間と獣人とで成り立っているということだ。
しばらくして、数人の衛兵が立っている王都門が見えてきた。
多くの旅人や冒険者が訪れているようで、入るのにかなり並んでいるのが見える。
「門の前はちょっとした騒ぎだね」
「いつもあんな感じなんですよ。特に初めて訪れる場合はどうしても並んじゃいます!」
なるほど。
帝国と違ってそういう賑やかさが日常なわけか。
「ではでは、私たちも並んじゃいましょう!」
「そうしようか。ほら、カニャンも」
「ん。並ぶ。でも……何か来る」
「えっ?」
カニャン、アグリッピナとともに列に並ぼうとすると、サリルがいる所よりもさらに後方から土煙が上がる。
どうやら馬車か何かが接近しているようで、その勢いは列に並ぶ者たちなど気にしてもいないように思えた。
「リ、リナスさん。こっちに迫って来てませんか?」
「まさか、突っ込んで来る!?」
「……変な、気配感じる。リナス、避けないと駄目」
見ると、サリルはすでに街道の端に避けている。
だが列に並んでいる人たちや、衛兵はまだ気づいていない。
「ピナさん! カニャンと一緒に王都門の近くに行っててもらえますか?」
「え、でもまだ順番が……」
「そのついでに衛兵に声をかけて、一応の待避を! ピナさんは衛兵に知られていますよね?」
「一応知られてますけど、ええと、分かりました。お知らせしてきますー!」
何者か分からないが、馬の暴走にしても止めようとしていないのは妙だ。
制御する者がいないのか、あるいは――。
被害が及んで大変なことになるのは明らかだ。
そして、
アグリッピナたちが衛兵に伝え終わると同時に、衛兵がこちらに気づいてくれた。しかし間近に迫りくる暴走馬車に対し、どうすればいいのか分からずにいるようだ。
「……闇を感じさせる不穏なる気配、この身の魔力を借りて堅牢なる盾を顕現せよ!」
馭者の姿も無い暴走馬車が王都門に近づく手前で、俺はすぐさま物理防御魔法を展開。目に見えなくて分かりづらい魔法ではあるものの、これで何とかなるはず。
直後――。
見た感じ何も無いところで、馬車が突如として急停止。
衛兵や冒険者、旅人たちは直前になって逃げる構えを見せるも、何も無いところで動きを止めた馬車に対し唖然としているようだ。
このことを伝えに行ったアグリッピナ、カニャンも手で顔を覆ったまま動かない。
間一髪だったか。
「フフ、あるじのその魔法、《シールド》ではなくて?」
「目に見えないのによく分かったね」
「そのくらい知っていますわ。それより、馬車の中の気配……気づいていますわよね?」
「……分かってるよ」
貴族が乗っていそうな箱から感じる気配は、不穏な気配そのものだ。
「なぜ急に止まったのだ? 王都とやらに来てやってみれば、こんな半端な道で止めおって! 神殿騎士どもめ、何をしている? おい!! 誰かいないのか?」
だがそこから聞こえて来た声、そして姿を見せた者は意外な人物だった。
まさかゾルゲン神官長……か?
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
遥かなる物語
うなぎ太郎
ファンタジー
スラーレン帝国の首都、エラルトはこの世界最大の都市。この街に貴族の令息や令嬢達が通う学園、スラーレン中央学園があった。
この学園にある一人の男子生徒がいた。彼の名は、シャルル・ベルタン。ノア・ベルタン伯爵の息子だ。
彼と友人達はこの学園で、様々なことを学び、成長していく。
だが彼が帝国の歴史を変える英雄になろうとは、誰も想像もしていなかったのであった…彼は日々動き続ける世界で何を失い、何を手に入れるのか?
ーーーーーーーー
序盤はほのぼのとした学園小説にしようと思います。中盤以降は戦闘や魔法、政争がメインで異世界ファンタジー的要素も強いです。
※作者独自の世界観です。
※甘々ご都合主義では無いですが、一応ハッピーエンドです。
寝て起きたらスライムになってました
お団子
ファンタジー
寝て起きたら生い茂った雑草の中
しかもスライム
ゲームの世界?ファンタジー?
転生したにしてもなんで人間じゃなくて
よりによってスライムなんだー!!!
って最初は困惑したけど
ほのぼのやって逝こうと思いますマル
※投稿していたのを間違えて消してしまった為
少し手直しして再度投稿する事にしました
せっかくお気に入りに入れてくれた方々申し訳ございません泣


転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜
アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。
だが、そんな彼は…?
Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み…
パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。
その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。
テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。
いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。
そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや?
ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。
そんなテルパの受け持つ生徒達だが…?
サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。
態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。
テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか?
【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】
今回もHOTランキングは、最高6位でした。
皆様、有り難う御座います。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる