ブラック神殿から辺境に左遷された元S級神官ですが、捨てられ聖女を拾ったので最強聖女に育てようと思います

遥 かずら

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第二章 帝国と王国

第18話 不穏の遭遇

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 王都へ向かう道中、カニャンは初歩的な攻撃を覚えた。魔物が低級ワームだったことも幸いして、傷を負うこともなくその場を後にする。

「次はもっと動く標的がいい」
「そしたら今度はラビット辺りにしてみようか?」
「うん。それでいい」

 カニャンが手にする神聖剣は、俺が手にする時と違いかなり軽いらしい。つまりカニャンにとっては、剣を振るうこと自体疲れることではないことを意味する。

 神聖剣を使いこなすようになれば、かなりの実力に成長しそうだ。

「リナスさん。もうそろそろ王都ですよー! 覚悟はいいですかー?」
「何の覚悟……?」
「知らない場所に行くのは覚悟が必要って意味ですよー!」
「あぁ、なるほどね」

 少し前にサリルが気になることを言っていたが、そういう意味なら気にすることはないかもしれない。

 サリルは俺たちと歩くことを嫌がって、後方からついて来ている。
 俺をあるじと呼んでもそばにいたいわけじゃ無いようだ。

「リナスのダンナ」
「うん?」

 ここに至るまで、取引以外で話すことは無かったダンテが俺に声をかけてくる。
 一体なんだろうと思っていたら、

「ここから先、ダンテは近づけないっす! 王都は共生国ではあるんすが、ゴブリンは認められてないんでここでお別れっす。んでも、集落とかには行けるんでその時はまたいいお取引をお願いしたいっす!」

 やはりゴブリンはそういう目で見られているか。

 ダンテのように取引するゴブリンがいたとしても、多くのゴブリンは好戦的。道行く者を襲うのもいるし無理もない。

「そっか。それじゃあ、またどこかの集落で会えたらよろしく頼むよ」
「はいっす」

 そう言うと、ダンテは王都を目前にしてどこかへ行ってしまった。

「リナスさん。もうすぐですよー! 衛兵に止められちゃうと思いますけど、気にしないでくださいねー!」
「承知してますよ」

 白の神官ローブなら何も問題無かっただろうけど、今は漆黒のローブ。怪しまれないわけがない。

「リナス。わたしは、平気?」
「カニャンは……」
「カニャンちゃんは問題無いですよ。王都ミケルーアは獣人さんと共生していますから!」
 
 そういえばアグリッピナから聞いたカンヘルさんというギルドマスターは、半竜と聞いた。つまり王都は、人間と獣人とで成り立っているということだ。
 
 しばらくして、数人の衛兵が立っている王都門が見えてきた。
 多くの旅人や冒険者が訪れているようで、入るのにかなり並んでいるのが見える。

「門の前はちょっとした騒ぎだね」
「いつもあんな感じなんですよ。特に初めて訪れる場合はどうしても並んじゃいます!」

 なるほど。
 帝国と違ってそういう賑やかさが日常なわけか。

「ではでは、私たちも並んじゃいましょう!」
「そうしようか。ほら、カニャンも」
「ん。並ぶ。でも……何か来る」
「えっ?」

 カニャン、アグリッピナとともに列に並ぼうとすると、サリルがいる所よりもさらに後方から土煙が上がる。

 どうやら馬車か何かが接近しているようで、その勢いは列に並ぶ者たちなど気にしてもいないように思えた。

「リ、リナスさん。こっちに迫って来てませんか?」
「まさか、突っ込んで来る!?」
「……変な、気配感じる。リナス、避けないと駄目」

 見ると、サリルはすでに街道の端に避けている。
 だが列に並んでいる人たちや、衛兵はまだ気づいていない。

「ピナさん! カニャンと一緒に王都門の近くに行っててもらえますか?」
「え、でもまだ順番が……」
「そのついでに衛兵に声をかけて、一応の待避を! ピナさんは衛兵に知られていますよね?」
「一応知られてますけど、ええと、分かりました。お知らせしてきますー!」

 何者か分からないが、馬の暴走にしても止めようとしていないのは妙だ。
 制御する者がいないのか、あるいは――。

 被害が及んで大変なことになるのは明らかだ。
 そして、 

 アグリッピナたちが衛兵に伝え終わると同時に、衛兵がこちらに気づいてくれた。しかし間近に迫りくる暴走馬車に対し、どうすればいいのか分からずにいるようだ。

「……闇を感じさせる不穏なる気配、この身の魔力を借りて堅牢なる盾を顕現せよ!」

 馭者の姿も無い暴走馬車が王都門に近づく手前で、俺はすぐさま物理防御魔法を展開。目に見えなくて分かりづらい魔法ではあるものの、これで何とかなるはず。

 直後――。
 見た感じ何も無いところで、馬車が突如として急停止。

 衛兵や冒険者、旅人たちは直前になって逃げる構えを見せるも、何も無いところで動きを止めた馬車に対し唖然としているようだ。

 このことを伝えに行ったアグリッピナ、カニャンも手で顔を覆ったまま動かない。
 間一髪だったか。

「フフ、あるじのその魔法、《シールド》ではなくて?」
「目に見えないのによく分かったね」
「そのくらい知っていますわ。それより、馬車の中の気配……気づいていますわよね?」
「……分かってるよ」

 貴族が乗っていそうな箱から感じる気配は、不穏な気配そのものだ。

「なぜ急に止まったのだ? 王都とやらに来てやってみれば、こんな半端な道で止めおって! 神殿騎士どもめ、何をしている? おい!! 誰かいないのか?」 

 だがそこから聞こえて来た声、そして姿を見せた者は意外な人物だった。
 まさかゾルゲン神官長……か?
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