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第一章 辺境

第16話 クロウ族、武器を捧げる

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 俺はクロウ族であるサリルとの対決を終えた。

 その結果、サリル以外のクロウ族には正式にあるじとして認められ、集落でのあきないごとには一切ゴルドを求められることがなくなった。

 これはあるじ特権らしく、ゴブリンのバンテとアグリッピナには認められなかったようだ。
 しかしサリルはというと、

「あるじが魔法をいやらしく使うのは理解しましたわ」
「い、いやらしく……って」
「ですが、それだけでは足りませんわ! あるじたるもの、攻撃を示す武器を手にしてもらわなければ納得がいきませんもの!」
「そう言われても……」

 神官の教義で剣はもちろん、痛めつけることを有効とした武器は持てない。
 持てるとすればせいぜい変哲の無い棍棒か、聖杖……。

 いや、今は漆黒――魔物側の存在である以上、神官に関係する武器は無理だ。

「そこの猫が小生意気にも剣を携えているというのに、あるじは手ぶら……何か理由がありますの?」

 理由を言うと素性を明らかにするのと同じになる。
 どうするべきか。

「リナス。困ってる?」

 アグリッピナとダンテが交渉する中、カニャンは俺のそばにいる。 
 しかしサリルはカニャンを見下す態度を見せて、敵対心が強いままだ。

 そのこともあって、カニャンに頼るのはまずいことになる――そう思っていたが。

「ええとね……」
「……ん、分かった」

 カニャンは俺とサリルを交互に見て、何かを察した表情を見せる。
 すると、

「リナスの武器をここで見つければいいと思う。その人、武器を使うのが得意そうだからその方がいい」

 意外にもカニャンから歩み寄ってみせた。

「猫に言われるまでも無いこと! あるじにはわたくしが見繕みつくろうつもりでしたわ!」
「え、でも、ここの武器は基本的にクロウ族に適した武器なんじゃ?」
「見くびられても困りますわ。いいですわ、わたくしがあるじに見合う武器を探して差し上げますわ!」

 カニャンに言われるまではそのつもりが無かったように見えたのに、猫族への対抗心がそうさせたのだろうか。

「それではあるじ。わたくしについて来てくださいませ」
「そうするよ」

 サリルを上手く動かしたカニャンは、得意満面な顔を見せている。
 大人しくしているようで案外強いのかもしれないな。

 クロウ族の集落であるジェメリン集落は、主に魔物相手と商売する物を置いている場所だ。

 ほとんど暗器類のようだが、アグリッピナが使った特殊効果入りの土なども売っているらしい。

「これなどどうかしら?」
「それは針? どういう使い方をするのかな?」
「麻酔針や睡眠針、毒針なんかは手っ取り早く効果を生じさせるお手頃な暗器ですわ。あるじのような漆黒のお召し物であれば、敵に気づかれることなく一思いに……」

 何という物騒な。
 漆黒に染まったローブから出して使うなんて、恐ろしすぎる。

「敵というのはもちろん――」
「人間ですわ! もしくは気に入らない獣、魔物……本来、そこの猫も気に入りませんけれど、あるじが好んで従えている獣には手出しするわけにはいきませんわね」

 今でも幼い彼女が、さらに幼かった頃に襲われそうになった人間か。
 相当根深い問題になりそうだな。

「……人間といっても、全てじゃないんだよね?」
「もちろん第一はここを襲った人間ですわ。ですが、理由も無く攻撃をして来るようであれば全ての人間が敵となり得ますわ!」
「なるほど。肝に銘じておくよ」
「あるじとは無縁の話。今はそんなことよりも、暗器……いえ武器ですわ!」

 思いきり人間で、しかも神官とばれたら今度は本気で戦うことになりそうだ。
 とはいえ、今は真剣に俺の武器を探してくれている。

 サリルが見つける武器はなるべく使うようにしなければ。

「リナス、これはどう?」
「うん? それは両手棍だね。これは何とも言えないなあ」
「どうしても駄目なの? それもキョウギのせい?」
「まぁそうだね」

 神殿から出たと言っても、しがらみが消えるわけじゃない。

 それを打ち消さない限りは闇属性魔法はもちろん、攻撃性の武器は持てないだろうな。あるいは神官長か神殿長を――。

「あるじ!! 見つけましたわ! お早くこちらへ」

 また危なそうな武器を見つけてくれたのだろうか。
 そう思っていたら、

「――! これは……杖?」

 全体的に細長いもので、ワイバーンの爪を切っ先にしつつも、尖りを無くした武器にも見える。

「杖は杖でも疑似杖ですわ。クロウ族の子に外で持たせてやるものですけれど、ワイバーンの爪で作る杖を似せただけに過ぎませんわ。それでも見た目だけなら、畏怖を与えることが出来ますの。武器を使わないあるじにはお似合いなのではないかしら?」

 確かにこれなら何のダメージも与えられないし、実戦で使ったとしても意味を持たない代物だ。これならカニャンにも攻撃の仕方を教えられる。

「ありがとう、サリル! これで十分だよ」
「礼には及ばないことですわ。正式な武器ではありませんけれど、わたくしの捧げをあるじに与えたことに変わりありませんもの」

 俺にも敵対心がありながら一応の礼儀は尽くしてくれたわけか。

「武器を手に入れたから、もう行く?」
「ん? あぁ、王都に向かうよ。もちろん途中で魔物がいたらカニャンに倒してもらうけどね」
「じゃあピナを呼んでくる。リナスはここで待ってて」
「うん、頼むよ」

 思わぬ寄り道でサリルを仲間とした。
 しかし、このまま味方となるかは何とも言えそうにない。

「王都? 何のために王都へ?」

 何気なく口に出してしまったが、サリルはついて来るのだろうか。
 
「向こうにいるアグリッピナ……彼女を送り届けるためにだよ」
「あの人間の……。いいですわ、王都に着いたらわたくしの実力を思い知らせてやりますわ!」
「――え」

 王都に何があるのか聞いて無いけど、どういう意味だろう。
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