12 / 25
第一章 辺境
第12話 ダレイン橋上の先で
しおりを挟む
「リナスさん。私、お先に進みますのでしっかりとついて来てくださいよー! もちろん、カニャンちゃんをきちんと見ながらですよ!」
「大丈夫ですよ。ピナさんも迷わずに進んでくださいよ」
俺たちは旧跡ク・レセル村を出て、街道を目指すことにした。しかし周辺を知るのがアグリッピナだけということで、彼女を先に行かせながらゆっくりと歩いている。
ゆっくりと歩く理由は、疲れたカニャンをおんぶして歩いているからだ。
カニャンはク・レセル村の小さな丘で抵抗の記憶で俺を襲い、自分を取り戻した。姉である神殿騎士アルミド・クレセールのことも思い出した後、村で起きた出来事について少しだけ話してくれた。
カニャンによると、姉は村が大変なことになった時に離され、生き別れとなった。そしてその原因を作ったのはどこからか来た人間だったようだ。
「……リナス、わたし、重くない? 怪我は大丈夫?」
「すでに治癒してるよ。それと、カニャンは軽いから心配いらないよ」
「にゃう! リナス、優しい。だからク・レセル村の魔法も受け入れた……んぅぅ」
「眠いみたいだね。いいよ、今はゆっくり休んでいいからね」
カニャンは俺に寄りかかりそのまま眠ってしまった。
眠ってしまったが、カニャンの話によれば断崖をくりぬいて作ったク・レセル村は、元々世俗からかけ離れた場所で修行して暮らす種族の集落だったらしい。
村には戦士、騎士、狩人、村の為だけに使える魔術師……といった力を持つ者がいたが、神聖の力を持つ者はいなく病気や怪我には頭を悩ませていた。
そこで大人たちは分断していた大きな川に橋をかけ、遠く離れた人間を受け入れることを決める。
その時、まだ幼かったカニャンに聖女の知識を学ばせ、村の活性化を図ろうとした。だが村に来た人間の目的は違うものだった。
人間の過ちで獣人たちは行方知れずになり、そして……。
そいつが何者かは知らないが、神官としていずれ罰を下してやりたい。
「にゃぅ……リナス、今どの辺り?」
「んー、まだ先が見えないかな。ピナさんが案内してくれてるし、大丈夫のはずだよ」
「……ん」
カニャンはク・ベルハで出会った野良の獣人たちと過ごしながら、廃村でひたすら誰かが迎えに来るのを待ち続けていた。
そこに俺が赴いて来て、カニャンに出会えたということになる。
「リナスさーん! こっちに来てくださーい」
アグリッピナの姿が見えなくなったと思っていたら、かなり先の方まで進んでいたようで、巨大な橋上で彼女が大きく手を振っているのが見える。
おそらくここがク・レセル村がつないだ橋に違いない。
「着いた?」
「まだだけど、大きい橋の上を歩くことになりそうだね」
「大きい橋……たぶん、ダレイン橋だと思う。わたし、歩きたい」
そういうと、カニャンは俺の背中から降りて地面に足を着地させた。
「もう平気かな? 眠気は?」
「村から離れたから大丈夫。眠くなったのは昔の魔法の力、まだ残っていたから」
アグリッピナがぶん投げた土の影響ではなく、どうやらク・レセル村に残っていた古い魔法が関係していたらしい。
魔法効果が村の中だけ有効だったとすれば、かなり強力だったんだろう。
「この橋の先にピナ、いる?」
「渡りきったところで待っているんじゃないかな」
「……」
アグリッピナの声だけ確実に聞こえて来たとはいえ、先の方で俺たちを待っているのはどうなんだ。
そう思いながら橋上を進むと、
「待ってましたよー! リナスさん、カニャンちゃん~」
予想通り、アグリッピナは街道手前の橋上で待っていた。
しかしそこで待っていたのは彼女だけでは無かった。
「リナス。ピナの隣に立っているのは魔物……?」
「そう見えるね。魔物、それもゴブリンのようだけど……それにしては」
「ん。ピナが気付いてないとかじゃなくて、何の警戒も持たれずに立ってる。リナス、どうする? 戦う?」
「うーん……」
ゴブリンの中には、人間相手に商売をするのがいると聞いたことがある。
交渉次第では傭兵にもなるという。
「ピナはここでゴブリンに出会った? それとも……」
「襲うタイプじゃなさそうだけど、どうだろうね」
アグリッピナは隣にいるゴブリンを怖がっているでも無く、ゴブリンもアグリッピナと一緒になって、俺たちに手を振っている。
「とにかく間近に行かないと何とも言えないから、カニャンは大人しくしててくれるかい?」
「ん、そうする」
「何かあったとしても何も心配いらないからね」
「リナスが言うならそうだと思う」
俺とカニャンは、ゆっくりとアグリッピナの元へと近づくことにした。
「大丈夫ですよ。ピナさんも迷わずに進んでくださいよ」
俺たちは旧跡ク・レセル村を出て、街道を目指すことにした。しかし周辺を知るのがアグリッピナだけということで、彼女を先に行かせながらゆっくりと歩いている。
ゆっくりと歩く理由は、疲れたカニャンをおんぶして歩いているからだ。
カニャンはク・レセル村の小さな丘で抵抗の記憶で俺を襲い、自分を取り戻した。姉である神殿騎士アルミド・クレセールのことも思い出した後、村で起きた出来事について少しだけ話してくれた。
カニャンによると、姉は村が大変なことになった時に離され、生き別れとなった。そしてその原因を作ったのはどこからか来た人間だったようだ。
「……リナス、わたし、重くない? 怪我は大丈夫?」
「すでに治癒してるよ。それと、カニャンは軽いから心配いらないよ」
「にゃう! リナス、優しい。だからク・レセル村の魔法も受け入れた……んぅぅ」
「眠いみたいだね。いいよ、今はゆっくり休んでいいからね」
カニャンは俺に寄りかかりそのまま眠ってしまった。
眠ってしまったが、カニャンの話によれば断崖をくりぬいて作ったク・レセル村は、元々世俗からかけ離れた場所で修行して暮らす種族の集落だったらしい。
村には戦士、騎士、狩人、村の為だけに使える魔術師……といった力を持つ者がいたが、神聖の力を持つ者はいなく病気や怪我には頭を悩ませていた。
そこで大人たちは分断していた大きな川に橋をかけ、遠く離れた人間を受け入れることを決める。
その時、まだ幼かったカニャンに聖女の知識を学ばせ、村の活性化を図ろうとした。だが村に来た人間の目的は違うものだった。
人間の過ちで獣人たちは行方知れずになり、そして……。
そいつが何者かは知らないが、神官としていずれ罰を下してやりたい。
「にゃぅ……リナス、今どの辺り?」
「んー、まだ先が見えないかな。ピナさんが案内してくれてるし、大丈夫のはずだよ」
「……ん」
カニャンはク・ベルハで出会った野良の獣人たちと過ごしながら、廃村でひたすら誰かが迎えに来るのを待ち続けていた。
そこに俺が赴いて来て、カニャンに出会えたということになる。
「リナスさーん! こっちに来てくださーい」
アグリッピナの姿が見えなくなったと思っていたら、かなり先の方まで進んでいたようで、巨大な橋上で彼女が大きく手を振っているのが見える。
おそらくここがク・レセル村がつないだ橋に違いない。
「着いた?」
「まだだけど、大きい橋の上を歩くことになりそうだね」
「大きい橋……たぶん、ダレイン橋だと思う。わたし、歩きたい」
そういうと、カニャンは俺の背中から降りて地面に足を着地させた。
「もう平気かな? 眠気は?」
「村から離れたから大丈夫。眠くなったのは昔の魔法の力、まだ残っていたから」
アグリッピナがぶん投げた土の影響ではなく、どうやらク・レセル村に残っていた古い魔法が関係していたらしい。
魔法効果が村の中だけ有効だったとすれば、かなり強力だったんだろう。
「この橋の先にピナ、いる?」
「渡りきったところで待っているんじゃないかな」
「……」
アグリッピナの声だけ確実に聞こえて来たとはいえ、先の方で俺たちを待っているのはどうなんだ。
そう思いながら橋上を進むと、
「待ってましたよー! リナスさん、カニャンちゃん~」
予想通り、アグリッピナは街道手前の橋上で待っていた。
しかしそこで待っていたのは彼女だけでは無かった。
「リナス。ピナの隣に立っているのは魔物……?」
「そう見えるね。魔物、それもゴブリンのようだけど……それにしては」
「ん。ピナが気付いてないとかじゃなくて、何の警戒も持たれずに立ってる。リナス、どうする? 戦う?」
「うーん……」
ゴブリンの中には、人間相手に商売をするのがいると聞いたことがある。
交渉次第では傭兵にもなるという。
「ピナはここでゴブリンに出会った? それとも……」
「襲うタイプじゃなさそうだけど、どうだろうね」
アグリッピナは隣にいるゴブリンを怖がっているでも無く、ゴブリンもアグリッピナと一緒になって、俺たちに手を振っている。
「とにかく間近に行かないと何とも言えないから、カニャンは大人しくしててくれるかい?」
「ん、そうする」
「何かあったとしても何も心配いらないからね」
「リナスが言うならそうだと思う」
俺とカニャンは、ゆっくりとアグリッピナの元へと近づくことにした。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説

10年前の婚約破棄を取り消すことはできますか?
岡暁舟
恋愛
「フラン。私はあれから大人になった。あの時はまだ若かったから……君のことを一番に考えていなかった。もう一度やり直さないか?」
10年前、婚約破棄を突きつけて辺境送りにさせた張本人が訪ねてきました。私の答えは……そんなの初めから決まっていますね。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる