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第一章 辺境

第7話 属性鉱石の行方

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 地下洞で襲撃してきた時はどうなるかと思っていた。しかし調査で来ているだけで、戦う力のない人間なことが分かった。

 手にしていた斧もハッタリのようなもので、彼女自身も通じるかどうか不安だったらしい。

 アグリッピナに案内され、俺とカニャンは奥に続く地下洞を進んでいる。カニャンが怯えを見せていたのは地下洞側だったが。

「今は怖く、ない」
「そうなんだ? それじゃあ平気かな」

 しばらく進むと食事や寝泊まりをする場所に着いた。所々の土や岩の壁が削れていて、岩の壁には日数を示す印が刻まれている。

 生活空間が感じられるが、洞窟は奥の方まで続いているようだ。
 地下洞自体に魔物の気配は無く、危険性は無いようにも思える。

「どうぞどうぞ! 何も無いですけど、段差に座ることは出来ますよ」

 彼女が言うようにただ座るだけの段差くらいしかなく、お世辞にも快適な空間とは言えない。

 地面を見るとあちこちに石が転がっていて、散らばっている印象を受けた。
 
「無理。リナスだけ座っていい」
「じゃあ、俺だけ座るからね」
「……ん」

 カニャンはそこに座りたくないのか、立ったままでいるようだ。
 片や呑気そうなアグリッピナは、話したそうにして俺の反応を待っている。

「ところでアグリッピナさんは調査隊と言ってましたが、他の人は?」

 さすがにいきなり愛称で呼ぶのはまずいと思って呼ばなかったが、彼女は少し残念そうな顔をしている。カニャンに対するのはともかく、今は神官として対応しておく。

「はい! それがですね、私だけなんですよ!」
「……」
「リナス……この人、大丈夫?」
「そ、そうだね」

 誰かが隠れているでも無く、妙にひっそりとしているとは思っていたが。

「そうすると単独の調査隊ですか?」
「そうなんですよー!」

 何で嬉しそうにしてるのか。単独でこんな暗闇の地下洞になんて。今は光を灯しているから明るいとはいえ、心細くなりそうなものなのに。

「ちなみに何を調査しに?」

 転がっている石や削られている壁を見れば予想はつくが。

「属性鉱石を掘り……探しに来ました! 貴重な鉱石がこの地下洞内に埋まっているみたいですので、ミケルーア王都の錬金術ギルドを代表して来たというわけなんです」
「錬金術?」
「はいー。ご存じありませんか?」

 神殿と周辺の村や町しか知らないうえ、帝国以外のことはほとんど知識として入ってこなかった。それだけに聞くもの全てが初耳だ。

 しかも王都からとなればなおさらのこと。

「アグリッピナさんは、そのミケルーアからここに?」
「ですです! 今日で二年目になりまして、あぁっ! しかも多分今日が十九歳の誕生日ですよ!」

 二年前からここにいたのか。
 獣人がどうとか言ってたし、長くいたのは間違いないけど。

「ええと、おめでとうございます。ということは、ここへはこの奥の洞窟からここに来たってことですよね?」
「ありがとうございます! この奥から来たってこと、よく分かりましたね!!」
「まぁ……」

 彼女は少し抜けている部分があるな。
 カニャンが彼女のことを心配するのも無理は無いか。

 それにしても王国代表ということは、実は優秀な錬金術師だったりして。

「リナス、この石、変」

 世間話をしていると、カニャンが近くの石を拾って首をかしげている。

 カニャンには何らかを察知する能力があるが、石に触れただけで何かを感じ取ったのだろうか。
 
「変って、どういう感じで?」
「よく、分からない。でもリナスがくれた剣が教えてくれた……土、水、風……近くからたくさん感じるって」

 地下洞という性質上、湿気があるし行き止まりじゃないから風の流れもある。土はすぐ目の前の壁にあるし、それらを肌で感じてもおかしくない。

 しかしカニャンは神聖剣からそれらを感じている。
 
 神聖剣が意思を疎通させるなんて思ってもみないことだが、剣はカニャンをあるじと認めた。俺には一切聞こえて来ないが、剣を手にした効果が表れ始めたということかもしれない。

 それに属性は攻撃魔法の時、敵次第で脅威的な威力となる。もし神聖剣に属性を付与することが叶えば――と言っても、まずは戦い方を教えるのが先だけど。

「アグリッピナさん。属性鉱石というのは、属性が含まれた鉱石のことですよね? この子が分かるみたいなんですが、あなたはそれを探していたのでは?」
「おほおぉ……!」
 
 アグリッピナは、俺はもちろんカニャンを見ながら何やら興奮している。

 この辺りの壁を削ってかなりの石を転がしているところを見れば、見つけるのに相当苦労していたっぽいが。

「こ、これで帰れますよ!! カニャンちゃんのおかげで私の二年間が報われましたよ~。はぁぁ、どこに属性鉱石が埋まっているか分かるなんて。私なんて二年もここにいて何も見つけられずにいたというのに~……はぁぁ」

 アグリッピナは何やらショックを受けている。

「リナス。カニャンちゃんってカニャンのこと?」
「そうだね」

 属性鉱石が埋まってるのはいいとして、属性鉱石を掘るのを手伝うことになりそうだな。

「石、拾っていい?」
「それは……とりあえず彼女に聞いてからにしようか」
「ん、分かった」

 錬金術師らしき彼女をこのまま一人で帰すのは心配になる。この先のことが気になるし、王都まで付き添うことになるだろうか。
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