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第一章 辺境
第6話 地下洞の襲撃者
しおりを挟む「うん、それはカニャンが手にしたから目覚めた剣だよ」
「……んん? じゃあ、はい」
「えっ?」
「剣を持っても使い方、分からないから」
カニャンからすれば無理もない話か。泥だらけの棒が剣に変わってそれが自分の武器だと言われても、使ったことが無ければ持っててもって結論になる。
「ごめんね、俺は神殿の神官だから教義で剣は握れないんだよ」
「――?」
「あとで武器の使い方を教えるから、今はそのまま持っててくれるかな?」
神殿が定めたS級神官は武器を否とされた。
魔法を主とした教えも関係しているが、武器を使うとしても杖といったものに限られてしまう。
カニャンは聖女だが猫族で戦闘が得意そうだし、武器を使って成長出来るはずだ。
「ん、リナスが言うならそうする」
泥かぶりで呪印があった状態でも彼女は軽々と持っていた。おそらくそういうことなのだろう。
「よし、それじゃあこのまま通路の奥に進むよ。いいかい?」
「大丈夫。リナスが、いる」
剣を手にしたままで振ることは出来なくても、何も無いよりは気持ちが違うはず。それにこの子なら、きっとすぐに使えるようになる。
スケルトンがいた部屋を離れ暗闇が続く通路を明るくして進むと、整えられた石壁から、岩がむき出しの地下洞に入った。
どうやらク・ベルハの地下には広範囲に渡って地下洞が続いているようだ。地上部分はすでに廃村になって長いが、地下が綺麗に残っているとすれば――。
「リナス、前、くる!」
やはりカニャンの察知能力は俺より高い。体勢を整えていると、明るく灯した先の方から何かが向かって来ているのが見える。
手には斧のようなものを持っていて振り上げている状態だ。
「獣人めー!! まだ侵略してくるのか!」
女性の声、それも人間?
なぜ地下洞側からこっち側に来たのか不明だが、生き残りあるいは地下で生活をしていたと考える方が正しいか。
「カニャン。少しだけ後ろに下がっててね」
「……ん」
物騒な斧を手にしてくる時点で、傷をつけるつもりで襲い掛かってくる。そうなると俺が出来ることは、敵を行動不能に陥らせることだけだ。
襲撃してくるのが目に見えるとはいえ、攻撃系魔法では解決に繋がらない。それよりは精神的に効果を与える方が有効になるだろう。
「……時の流れをしばし休ませ、休息を恵め――《ホールト》!」
ホールトは興奮状態で向かって来る相手にはかなり有効な停止魔法。相手が敵なのかそうでないかは、動きを止めればはっきりする。
「う、ううう……動けないい――!?」
襲撃しようとしてきた女性の行動は完全に停止。動かせるのは口と表情だけとなった。この隙に女性に近づき、呪いが関係しているかどうかを確かめることに。
カニャンは下がらせたままその場に留め、まずは俺だけで判断する。
「…………地底人じゃなく、俺と同じ地上の人間……か」
「そ、そうそうそう! に、人間人間! だから、この訳の分からない状態を解いて欲しいんだけどー!」
「俺たちを襲って来た理由は?」
「獣人! 獣人が食べ物を奪いに来るの!! 最近は来なかったけど……だから!」
目の前の女性はカニャンをちらりと見て、そう言い放った。カニャンの方を見ると、何度も首をかしげていて全く分からない仕草を見せている。
それもそのはずで、カニャンは地下通路の奥は怖いと言って近づくことも無かった。それに戦ったことが無いカニャンにそんなことが出来るはずが無い。
「ちなみにどんな獣人が?」
「そ、それよりも、全く動けないままだと疲れちゃうから、解いてー!」
「何もしないという約束が出来るなら」
停止魔法が効いてる時点で、脅威となる力は皆無なうえおそらく冒険者。迷って地下洞に留まっていたとすれば話は聞いてやるべきか。
「しますしますー!」
女性は元気よく返事を繰り返す。
「……俺の後ろにいる子に手を出したら――」
危険は無さそうだが俺は念を押すように手を動かして、威力を高めるフリを見せた。
「ひぃえっ!? しませんしません!!」
魔法効果を解除すると、女性はすぐに地面に落ちた斧を奥に向かってぶん投げた。
「いや、そこまでしなくても良かったんだけど……」
「い、いえいえいえ! 私、本当は戦えないんですよー」
「へ?」
かなりおっちょこちょいな気がするけど、危険は無さそうだしカニャンを近づけても大丈夫そうだな。
「カニャン。こっちにおいで」
「ん、分かった」
それほど離れたところにいたわけじゃなく、カニャンはすぐに俺の元に来てくれた。カニャンが剣を手にしているせいか、女性の方が怯えを見せている。
「――な、何だか、とんだご迷惑をおかけしましてー」
「いいえ、気にして無いですよ。俺はク・ベルハに赴任した神官、リナス・ジョサイアと言います。この子はカニャン。あなたは?」
女性は目鼻立ちがくっきりとしていて、綺麗な亜麻色の髪のショートヘア、黒色の瞳をしていて、姿格好は布織で出来たダブレットを着ている。
「は、はい。私はですね、ク・ベルハ調査隊の一人、アグリッピナ・コッタと言います! 気兼ねなくピナでもアグリとでもお呼びください!」
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