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第一章 辺境

第4話 ク・ベルハ・ギルド遺構

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 白い神官ローブの裾が泥だらけになったところで、カニャンが立ち止まる。彼女の後ろをついて歩いてて気づけずにいたが、気づけば森の奥深くに入っていた。

 廃村を見た限りでは何も残っていないと思っていたのに、どうやらその認識を改める必要があるらしい。

「リナス。ここ」

 立ち止まったカニャンが指した場所を見ると、かつて存在していた巨大な建築物が地中に埋没しているのが見える。

「……これは――!」

 何本かの柱穴ちゅうけつ、地下に続く段差――ここにあったのはもしかしたら。

「リナス、リナス。ここ、下りられる」
「その前に、そのローブを脱いでおこうか」
「……ん」

 汚れるのはともかく、どこかに引っかかってつまずいたら大変だ。
 カニャンからローブを返され、再び着なおした。

「じゃあ、行く」

 そう言うと、カニャンは慣れた足取りで地下へ向かって下りていく。
 彼女に続いて俺もゆっくりとついて行くことに。

 地上部分で残っていた柱穴を除けば、建物の区画はしっかりと残っているようで、崩れるといった心配は無いように思える。

 初めのうちは階段と呼べない段差だったものの、地下に下りるにつれてちゃんとした階段になっていくのが見て取れた。

 そうして地下深くまで位置するところに到着すると、照明らしき灯りが外に漏れているのが確認出来る。

「カニャン。ここってまさか……」
「リナスが迎えにくる前、ここで食べてた。人間の本、読み終えて外、出た。人間の机、椅子……全部そのまま」

 そこにはかつて賑わっていたと思われるギルドカウンターと、食堂らしき部屋が残されていた。

 地上の建物は無くなっていたのに、こうも地下の造りは強いものなのだろうか。

「んん? 人間の本ってどういう本かな?」

 見た感じ書物棚らしきものは残っていない。
 しかし俺の言葉に、カニャンは床板を剥がして隠していた本を取り出した。

「これ。聖女に、なるための本。少し、覚えた」
「……ちょっと見せてもらうよ」
「ん」

 カニャンから渡された書物を開くと、その中身は聖典といったものではなく、戦いから学べる聖女への道といった教典のようなものだった。

 つまり、教典を少しでも理解出来ていたからこその攻撃だったことになる。
 しかしこれは聖女見習いに読ませるものではないな。

「ふむ……」
「違う? 違った?」
「そうじゃないよ。でも、うーん。この本を教えてくれたのは誰なのか、憶えてるかい?」

 聖女に育てるつもりなら、こんな戦闘に特化した教典は教えないはず。なぜこんな幼い少女に学ばせようとしたのか。

「……村、にいた、変……な、人間」
「村というのはク・ベルハ?」
「違う。ここじゃない、村」
「そこは誰かと暮らしていた村なのかな?」
「……よく、覚えてない」

 故郷の村のことを言っている気がする。

 しかしカニャンは、姉であるアルミドはもちろん、自分がどこからク・ベルハに来たのかさえも覚えてないみたいだ。

「リナス、魚。食べて」
「あっ……えぇ? どこから魚が……」
「奥、流れてる。そこにたくさん、泳いでる。お肉ない、だから魚」

 カニャンに案内された奥に続く通路に行くと、そこには小さな川が流れている。
 見ると魚や甲殻類が水中で動いていた。

 驚いたな。ただでさ地下深いところにギルドがあったことにも驚いたのに、まさか川まであるなんて。

「この奥はどこに繋がってるのかな?」
「……こわいとこ。行きたくないとこ」

 奥を気にすると、カニャンは途端に震えだした。

 確かに暗くてよく見えない奥の通路から、微かながら良くない気を感じ取れるが、それが場所なのか何かの存在なのかはまだ分からない。

 まずは魚を頂いて、それからどうするべきか決めることにする。
 怖がらせないように少しだけ焼き目をつけてあげるか。

「《バーン》……と。こんなものかな」
「? リナス?」
「生魚よりもきっと美味しいと思うから、気をつけて口にしてみてごらん?」

 さすがに火力調節はしてあるし、いくら猫舌でも問題無く食べられるはず。

「――!! ハフゥゥ……」
「美味しいかい?」
「ンニ!」
「それは良かった。食べ終わったらこの部屋を隅々まで見てもいいかな?」
「……ん」

 通路の奥はまだ保留にしておくとしても、もしどこか危険な場所に繋がっているとすれば、危険が迫ることが無いようにしておく必要がある。

 ク・ベルハからアルミドの故郷は近いとも聞いていた。

 もしかすれば、地下通路からその場所に行ける可能性がある。カニャンが怯えてしまったことに関係があるなら放置するべきじゃない。
 
 落ち着かないことにはこの場所を利用することは出来ないだろうな。 

「リナス。食べた。部屋、見る?」
「もう少ししたら食べ終わるから、そしたら色々教えてもらおうかな」
「ん。教える」

 最悪何かと戦うことになるかもしれないが、この子は必ず守ってあげなければ。
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