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第一章 辺境
第3話 猫耳少女、才能を見せる
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カニャンの相手をしていて後ろを気をつけていなかった。だが背後から感じられる気配の数は三匹程度にすぎない。
敵意を向けられているのは俺にのみで、カニャンでは無さそうだ。
「リナス……後ろ、上、横……くる」
「――!」
光魔法で明るくしているとはいえ、この子は敵がどこからくるのか見えるのか。
複数同時に襲い掛かってくるのは気配で分かる。
物音を立てずに攻撃してくるということは、人間の賊ではなく獣に違いない。
俺の防御よりも先にカニャンをこの場から逃すのが先決だ。
そう思っていた次の瞬間。
俺の目の前にいたカニャンが、俺が何かするよりも先に敵に向かっていた。
ザザッ。といった音が直後に聞こえたと同時に、俺に迫っていた気配が一斉に消失した。
「リナス、こっち、見ていい」
「へ?」
振り向くと、カニャンの周りには襲ってきた獣人の男たちが全員しりもちをついている。
この子はさっきまで震えていたはずなのに、どうしてこんなことが出来るんだ。
「うぅっ、ちくしょう! またカニャンにしてやられた!」
「全くだぜ……痛くはねえけど力が抜けちまう」
「くそぅ、何で勝てねえのか……」
などなど、獣人たちは悔しさを吐き出している。
「えーと、カニャン? 彼らは?」
獣人たちのそばに立つカニャンは、きょとんとしたままで理解出来ていないようだ。敵意は明らかに俺に向けられていたはず。
「あぁん? 光を放つ樹人族だと思ったから警戒したのに、あんた人間?」
「何だ、人間だったのか」
俺が人間だと知っても驚いてもいないし、敵意を向けてこない。
おそらく廃村を寝床にしている獣人のようだが、カニャンとどういう関係なのか。
「俺はク・ベルハに異動してきた神官、リナス・ジョサイア。君らは獣人だよな? なぜ廃村にいて、その子を襲った?」
俺の言葉に彼らは顔を見合わせ、戸惑いを見せている。
「神官? 人間がいなくなってかなり経つのに、何で今さら……」
どうやら人間たちが村を離れてからもここに住んでいたようだ。
しかも血の気が多い獣でもなく、どちらかといえば自由気ままにしている感じか。
「リナス。彼たち、敵、違う。カニャンのおトモダチ。遊んでくれてる」
「お友達? さっき見せた攻撃は……?」
「ツメ、で転ばせる遊び」
俺を樹人族と勘違いして警戒したうえでカニャンに攻撃。
そんな彼らを転ばせて遊ぶとか、この子は戦闘的な才能があるのか。
「そ、そっか。じゃあ心配しなくてもいいのかな?」
「ん。ここの敵、ホネ、と言葉通じないケモノ」
ゾルゲンは獣だらけとか言ってたが……。
「カニャンの言うとおり、野良の獣が多いぜここは。たまぁに樹人族が出るが、そいつらはオレらが追い出してるってわけだ!」
「アンデッドだけはどうにもならねえから、夜は震えて過ごしてたわけなんだが……、今夜に限ってアンデッドの気配が無くなったから来てみれば――」
「あんたがいたってわけだ! おかげでカニャンと遊べたぜ!」
――なるほど。
カニャンがこの地に捨てられた……かどうかは何とも言えないが、居着いた獣人が彼女を守っていたわけか。
事情を知っていそうな彼らに聞くのが手っ取り早いな。
「カニャン……この子はいつからここに?」
ずっと待っていた、迎えがどうとか言っていたのが気になる。
「いやぁ、分からねぇ。オレらはク・ベルハにまだ人間がいた時からいたが、この子はいなかったぜ? どこからか迷い込んで来たか、追われて来たとしか言えねえな」
そうなるとやはり、神殿騎士アルミドが言っていたことと一致するか。
見習い聖女をしていたのが彼女の故郷だったとすれば、カニャンが生き別れの妹ということになる。
「いや、教えてくれて感謝するよ。君らはどの辺に寝床を?」
廃村ではあるが、ク・ベルハは広大な土地。
隠れるところは至る所にあるはず。
「暗くて見えねえだろうけど、ここから少し行った先の森だぜ。あんた強そうだし、オレらは戻るよ。カニャンと一緒にいてやんな!」
「そうするよ。君らも気をつけて、昼間にまた話を聞かせてくれると助かるよ」
「おう! いいぜ!」
カニャンと遊んだ後は朝まで一緒にいるらしい彼ら。
しかし俺がいることに安心したのか、暗闇の奥へと戻って行った。
彼らを見送り、カニャンを気にすると、横に立っていたカニャンはふらふらと体を揺らして眠りかけていた。
俺が着ているローブをかけてやるか。
神官ローブなら、たとえ何かが起きても問題は起きない。
ここが安全とは言い難いものの、廃屋の壁を利用してカニャンを寝かせる。
俺は光魔法の効果を絶やさず、仮眠を取りながら朝に備えることにした。
「……リ、ナス――て。リナス……朝、朝」
「う……んん」
「敵、いない。起きて、大丈夫」
何やら鼻にくすぐったいものが当たっている。
しかも何度もぴくぴくとさせていて、ほんの少しだけ温かい。
うっすらと目を開けると、耳の先端には黒い房毛のようなものが見えている。
「はっ? え? 獣の耳!?」
思わず慌てて起き上がり警戒するが、そこにいたのはカニャンだけだった。
「リナス……?」
何で慌てたのかといった感じでカニャンが俺に対し、首をかしげている。
目の前にちょこんと座る少女はどう見ても、猫耳をさせた獣人にしか見えない。
「ええと、カニャンは獣人……だよね?」
「……ん」
俺の言葉にカニャンは小さく頷いた。
ということは、神殿騎士アルミドも鎧の中身は獣人だったということになる。
だからあの場で姿を見せられなかったのか。
「カニャン。猫族、の村……で、聖女、習った途中」
やはり聖女見習いで間違いない。そうなると領土戦争に巻き込まれて村を追われた可能性が高いし、そのままここへたどり着いたと考えるのが正しいか。
迎えを待っていたのはおそらく、姉のアルミドのことだな。
「リナス、迎え来てくれた。カニャン、ついてく。リナス、どこ行く?」
「え、うーん……うん。まずは、何か食べてからにしようか」
「じゃあ、こっち」
俺が着させてあげたぶかぶかのホワイトローブを引きずりながら、カニャンはどこかに向かって歩きだした。
それにしても、姉は騎士で妹は聖女見習いか。
猫族は戦いの才能がありそうだ。
敵意を向けられているのは俺にのみで、カニャンでは無さそうだ。
「リナス……後ろ、上、横……くる」
「――!」
光魔法で明るくしているとはいえ、この子は敵がどこからくるのか見えるのか。
複数同時に襲い掛かってくるのは気配で分かる。
物音を立てずに攻撃してくるということは、人間の賊ではなく獣に違いない。
俺の防御よりも先にカニャンをこの場から逃すのが先決だ。
そう思っていた次の瞬間。
俺の目の前にいたカニャンが、俺が何かするよりも先に敵に向かっていた。
ザザッ。といった音が直後に聞こえたと同時に、俺に迫っていた気配が一斉に消失した。
「リナス、こっち、見ていい」
「へ?」
振り向くと、カニャンの周りには襲ってきた獣人の男たちが全員しりもちをついている。
この子はさっきまで震えていたはずなのに、どうしてこんなことが出来るんだ。
「うぅっ、ちくしょう! またカニャンにしてやられた!」
「全くだぜ……痛くはねえけど力が抜けちまう」
「くそぅ、何で勝てねえのか……」
などなど、獣人たちは悔しさを吐き出している。
「えーと、カニャン? 彼らは?」
獣人たちのそばに立つカニャンは、きょとんとしたままで理解出来ていないようだ。敵意は明らかに俺に向けられていたはず。
「あぁん? 光を放つ樹人族だと思ったから警戒したのに、あんた人間?」
「何だ、人間だったのか」
俺が人間だと知っても驚いてもいないし、敵意を向けてこない。
おそらく廃村を寝床にしている獣人のようだが、カニャンとどういう関係なのか。
「俺はク・ベルハに異動してきた神官、リナス・ジョサイア。君らは獣人だよな? なぜ廃村にいて、その子を襲った?」
俺の言葉に彼らは顔を見合わせ、戸惑いを見せている。
「神官? 人間がいなくなってかなり経つのに、何で今さら……」
どうやら人間たちが村を離れてからもここに住んでいたようだ。
しかも血の気が多い獣でもなく、どちらかといえば自由気ままにしている感じか。
「リナス。彼たち、敵、違う。カニャンのおトモダチ。遊んでくれてる」
「お友達? さっき見せた攻撃は……?」
「ツメ、で転ばせる遊び」
俺を樹人族と勘違いして警戒したうえでカニャンに攻撃。
そんな彼らを転ばせて遊ぶとか、この子は戦闘的な才能があるのか。
「そ、そっか。じゃあ心配しなくてもいいのかな?」
「ん。ここの敵、ホネ、と言葉通じないケモノ」
ゾルゲンは獣だらけとか言ってたが……。
「カニャンの言うとおり、野良の獣が多いぜここは。たまぁに樹人族が出るが、そいつらはオレらが追い出してるってわけだ!」
「アンデッドだけはどうにもならねえから、夜は震えて過ごしてたわけなんだが……、今夜に限ってアンデッドの気配が無くなったから来てみれば――」
「あんたがいたってわけだ! おかげでカニャンと遊べたぜ!」
――なるほど。
カニャンがこの地に捨てられた……かどうかは何とも言えないが、居着いた獣人が彼女を守っていたわけか。
事情を知っていそうな彼らに聞くのが手っ取り早いな。
「カニャン……この子はいつからここに?」
ずっと待っていた、迎えがどうとか言っていたのが気になる。
「いやぁ、分からねぇ。オレらはク・ベルハにまだ人間がいた時からいたが、この子はいなかったぜ? どこからか迷い込んで来たか、追われて来たとしか言えねえな」
そうなるとやはり、神殿騎士アルミドが言っていたことと一致するか。
見習い聖女をしていたのが彼女の故郷だったとすれば、カニャンが生き別れの妹ということになる。
「いや、教えてくれて感謝するよ。君らはどの辺に寝床を?」
廃村ではあるが、ク・ベルハは広大な土地。
隠れるところは至る所にあるはず。
「暗くて見えねえだろうけど、ここから少し行った先の森だぜ。あんた強そうだし、オレらは戻るよ。カニャンと一緒にいてやんな!」
「そうするよ。君らも気をつけて、昼間にまた話を聞かせてくれると助かるよ」
「おう! いいぜ!」
カニャンと遊んだ後は朝まで一緒にいるらしい彼ら。
しかし俺がいることに安心したのか、暗闇の奥へと戻って行った。
彼らを見送り、カニャンを気にすると、横に立っていたカニャンはふらふらと体を揺らして眠りかけていた。
俺が着ているローブをかけてやるか。
神官ローブなら、たとえ何かが起きても問題は起きない。
ここが安全とは言い難いものの、廃屋の壁を利用してカニャンを寝かせる。
俺は光魔法の効果を絶やさず、仮眠を取りながら朝に備えることにした。
「……リ、ナス――て。リナス……朝、朝」
「う……んん」
「敵、いない。起きて、大丈夫」
何やら鼻にくすぐったいものが当たっている。
しかも何度もぴくぴくとさせていて、ほんの少しだけ温かい。
うっすらと目を開けると、耳の先端には黒い房毛のようなものが見えている。
「はっ? え? 獣の耳!?」
思わず慌てて起き上がり警戒するが、そこにいたのはカニャンだけだった。
「リナス……?」
何で慌てたのかといった感じでカニャンが俺に対し、首をかしげている。
目の前にちょこんと座る少女はどう見ても、猫耳をさせた獣人にしか見えない。
「ええと、カニャンは獣人……だよね?」
「……ん」
俺の言葉にカニャンは小さく頷いた。
ということは、神殿騎士アルミドも鎧の中身は獣人だったということになる。
だからあの場で姿を見せられなかったのか。
「カニャン。猫族、の村……で、聖女、習った途中」
やはり聖女見習いで間違いない。そうなると領土戦争に巻き込まれて村を追われた可能性が高いし、そのままここへたどり着いたと考えるのが正しいか。
迎えを待っていたのはおそらく、姉のアルミドのことだな。
「リナス、迎え来てくれた。カニャン、ついてく。リナス、どこ行く?」
「え、うーん……うん。まずは、何か食べてからにしようか」
「じゃあ、こっち」
俺が着させてあげたぶかぶかのホワイトローブを引きずりながら、カニャンはどこかに向かって歩きだした。
それにしても、姉は騎士で妹は聖女見習いか。
猫族は戦いの才能がありそうだ。
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