森の魔女と訳あり王子の恋物語

るうあ

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光の標

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「惚れ薬を作って欲しい」
 艶然とした微笑とともにそれを言われ、森の魔女は口元をひくつかせた。
 依頼者は、美貌の青年だ。
 この青年に「惚れ薬を飲ませたい」と冗談まじりに言う娘たちは多い。甘やかな雰囲気をまとった美貌の青年は、森の魔女の住む地、リマリック領の領主である。さらにいえば、「王子様」なのだ。現国王の庶子であることはほとんどの領民が知る事実だ。貴公子然としたこの青年は娘たちの憧憬の的だ。その「王子様」に、いったいどうした惚れ薬など必要なのか。
 魔法薬作りの名人である森の魔女はあからさまな不機嫌顔をつくってみせた。
 美貌の「王子様」は動ずる様子もなく、にこにこと微笑んで森の魔女を見つめている。王子の亜麻色の瞳に見つめられると、なんだか落ち着かない。
 本当は、何が目的なんだろう。……からかっているだけとも思えない。
 何かしら笑顔と言葉の裏に隠している気がした。

 森の魔女の住む館に、王子は足繁く通ってくる。王子……名は、セレンというが、森の魔女はその名をほとんど口にしない。そしてまた、自分も名を明かしていない。これは「魔女の習い」だからセレンだけではなく魔女の名を知るものは今では眷属しかいない。
 森の魔女はセレンを「王子」と呼び、セレンは「森の魔女殿」と呼ぶ。傍から見ればひどく他人行儀に感じるだろう。が、二人の間柄は気安いものだ。
「お早う、魔女殿。今日も、好い天気だね」
「……おはようございます」
 また来たんですか。と、わざとつれない態度を森の魔女はとってみる。が、セレンは堪えない。むしろ愉しげですらある。
 表情にまだ幼さを残している二代目の森の魔女は、むくれるとさらに子供っぽくなる。背丈も低いし華奢な体つきだから、初対面の人には十二、三歳に見られることすらあるくらいだ。現在十八歳なのだが、その年齢を知っているのはセレンと、魔女の眷属くらいだろう。
 セレンの来訪に、慌てて身支度を整えることもなく、森の魔女は畑仕事を続けている。セレンも別段それを咎めなかったし、森の魔女が仕事に勤しむ姿を感心したように眺めていた。
 畑の手入れは、森の魔女の朝の日課のひとつだ。森の館の玄関の右手に畑はある。開放的な畑といってよく、森の館を訪れる者は必ずその畑を目にするだろう。
 さほど大きくはない畑には、様々な野菜や薬草が植わっている。何箇所かに分別はされていて、野菜よりは薬草の種類の方が多い。低い柵が畑をぐるりと囲っていて、その内側には井戸もある。館に近い場所には一本の大きな樹木がそびえ、木陰をつくっていた。薬草畑は、先代の森の魔女が開墾したものだ。それを二代目が引き継いで、日々、手入れを怠らない。
「魔女殿」と声をかけられて、森の魔女はやれやれと肩を竦めてみせる。無視し続けるわけにもいかない。森の魔女は衣服についた土埃を払って、王子の方へと足を向けた。
「髪にも、草がついているよ」
「え、そうですか?」
 豊かに長い髪は後頭部でひとつの結っているのだが、馬の尻尾よりも長い毛に、いくつか雑草がくっついていた。長いと、こういう時は不便なものだ。
「とってあげるから、こちらへ来て、魔女殿」
「…………」
 断ろうと思ったが、それはそれで面倒くさい気もしたので、森の魔女は黙ってセレンの言葉に従った。畑から出て、セレンの傍により、後ろを向いた。たったそれだけのことだが、森の魔女は妙に落ち着かない心持ちになっていた。
 ややあってから、セレンから取れたよと合図がかかった。森の魔女はほっと息をつく。
 ありがとうございます、と一応は礼を述べる。なんだか、ぎこちない。森の魔女は自分の態度がひどく不自然なことに気づいた。緊張とはね少し違う。
「それにしても王子、今日はまたずいぶんと早いおこしですね?」
 早朝、といっていい時間だった。あたりは明るいが、まだ朝露が残っている。
「今日は、午後から出かける用事があるからね」
「なら、無理して来なくても……」
 小声でつぶやいたのだが、セレンが森の魔女の声を拾わないはずがない。
「朝駆けもしたかったからね。遠乗りにも出かけたいのだけれど、さすがに時間がなくてね」
 セレンは乗馬が趣味だ。実益も兼ねている。リマリックは馬の産地として名を知られるようになっていたし、調教師の育成に関しても評価を得ている。セレンの代になって発展した「産業」だ。
 馬や牛の飼葉の調合も、森の魔女は手伝うことがあった。セレンが馬を主とした畜産を領内で拡げるにあたって、森の魔女も馬用の餌や薬について調べるようになったのだ。セレンの手助けをしたいと考えているのは、今も昔も変わらない。……といって、「惚れ薬」をつくるなど、「手助け」の範疇外だ。こればかりは手伝えない。
「どうあっても、君の顔だけは見たかったから。朝一番なら、なんとか時間をつくれる」
「……無理しないで下さいよ、王子」
 わたしの顔なんて、見に来なくてもいいのに。
 森の魔女はぽつりと言う。迷惑なんかじゃないけれど、王子が無理をするのは、あまり喜べない。
 セレンは、以前からそうなのだ。
 いつだって、森の奥で独居している森の魔女のことを気にかけて、様子を見に、わざわざ自らやってきてくれるのだ。自分だって忙しい身なのに、そんな自分を顧みない。

 先代の森の魔女が天に召されて、早二年。
 あれから、セレンは二代目となった森の魔女の様子をこまめに見に来るようになった。
 有難くは思うが、同時に申し訳なくも思っていた。
 セレンは、領主という重大な役目を背負っている身だ。いくら幼馴染といっても、一領民……しかも森の奥で蟄居しているに等しい森の魔女のために時間を割くなど、あってよいことではない。そう、森の魔女も分かっている。なのに、セレンを突き放せないのだ。
「それにしても」と、セレンは改めて森の魔女の居る畑地を見やった。
「薬草畑の手入れは大変そうだね。眷属の……リフレナスは?」
 いつも森の魔女の傍にいる眷属の姿が見えない。
 規模の小さな畑とはいえ、森の魔女が耕殖した薬草や野菜の種類は多い。雑草をとったり剪定したり実や葉を採取したり、慣れた様子ではあるが、一人で作業するには時間がかかりそうだ。
「リプは、別のところで、別の作業してます」
 ネズミ姿の眷属は、いかに手先が器用といっても、身体の大きさ的に農作業には向かない。時には手伝うこともあるようだが、適材適所、というもので、今は館の中で薬草の選別をしているとのことだ。
「こういう時、魔法は使わないの? 耕耘もだけど、水遣りなんかも、魔法ならぱっとできてしまいそうだけど」
 セレンの質問に、森の魔女はちょっとだけバツの悪そうな顔をした。
 森の魔女は、「魔力」を持っている。魔法を使うことのできる魔女なのだ。だが、森の魔女が魔法の呪文を唱えて箒やバケツを動かすところを、セレンは見たことがない。そもそもセレンは、森の魔女が魔法を使うところをほとんど見たことがないのだ。魔法らしい魔法は、そういってみれば見たことがない。
「……わたし、物質に働きかける魔法って、苦手なんです。お師匠様は魔法で掃除とかしてましたけど」
 箒やバケツを動かす魔法を、森の魔女もやろうと思えばできるのだが、大抵は失敗するのだという。
「お師匠様は、すっごく上手だったんです。なんだかコツがあるみたいで……教えてはもらったんですけど、制御が上手くできないというか」
「師匠殿と君では、魔力の属性が違うと言っていたね?」
 森の魔女は頷いた。
 先代の森の魔女の魔力の属性は「風」だ。魔力の属性は特性と言い換えることもできる。属性には風以外に水や土、火、といったものがあり、稀少なものとしては光と闇がある。光と闇は、秘された旧い系統の魔力だ。旧さゆえに精霊の力そのものだとも言われるが、実際のところはよく分かっていない。強いて言うならば、光と闇の魔力は精神に影響を及ぼす……らしい。
「闇は安寧、光は標。……だったね、力の特性は」
「お師匠様が言うには、ですけど」
 そして二代目の森の魔女は、「光」の属性だ。先代がそのように判じ、眷属のリフレナスもそのように見た。リフレナスは元精霊だ。魔力そのものの存在と言っていい。魔力の気配、属性を感じ取れる。
「……標、か」
 セレンは微笑み、森の魔女を見やって呟いた。
 セレンにとって森の魔女の存在はまさしく「標」であり、「光」なのだ。その光に導かれて、今、ここにこうして居るのだ。
「な、なんですか?」
 いつの頃からだろうか。
 王子は何か言いたげに、今のようにじっと見つめてくる時がある。なんですかと訊いても、だいたいはぐらかされてしまう。ひどく甘くて優しいまなざしを向けられ、どうしていいのか分からなくなる。
「森の魔女殿は、本当に光だな、と思って」
「え? なんですか、それ?」
 はぐらかされずに答えてくれたかと思えば、言ってる意味がよく分からない。
 魔力の属性のことですかと問い返せば、セレンは意味深に笑う。
「魔力のことは私には分からないけれど。君の魔力の属性を聞いた時にね、とても納得がいったんだよ」
「自分ではよく分からないんですけど」
 師匠と眷属からそう認定されて、自覚はないままに受け入れたが、他の「魔女」を師匠以外に知らないからひき比べて見ることもできない。師匠と眷属の判定なのだから間違いはなかろうが、他を知らないせいもあって、いまひとつピンとこない、というのが正直なところなのだ。魔法の使い方だけをみれば、たしかに先代の森の魔女とは別種の属性なんだな、と理解できるのだが。
 ただ、精霊の気を感じることはできる。フィンコリーの森は風と水の精霊が圧倒的に多い。それを察知できる程度には魔力の感知能力はある。そもそもフィンコリーの森は精霊の気に満ちた森なのだ。いわば「魔性の森」で、ともあれそのおかげで精霊の存在はいつでも感じられる。それでもやはり光の精霊の気を感じたことはない。闇属性も同様だ。光と闇の精霊は、神代の存在であり、今では希有な魔力なのだ。少ないが、消えたわけではないよと、先代の森の魔女は言っていた。
「わたしってば、髪も目も、黒いじゃないですか。だから光というより、闇の方がしっくりくると思うんですよね」
「私は、そうは思わないけれど。君は光の方が似合うよ」
 そうでしょうか、と森の魔女は首を傾げる。
「うん。……春の、というより、そうだね、冬の陽射しのような、そんな光だ」
「それってば、光が弱々しいって意味ですか? それとも、冷たい?」
 森の魔女は複雑そうな……不服ではなさそうだが、どう受け取ってよいやら分からぬ、といった表情でセレンを見つめ返す。
 紅葉した木々の隙間を縫ってそよぐ風に、セレンの亜麻色の髪がかすかになびいた。セレンはわずかに乱れた前髪を指で梳きあげる。何気ないその仕草が、ひどく艶然としている。
 優美な仕草の似合う、美貌の「王子様」だ。佇んでいるだけでも絵になる。美の女神の寵愛を一身に受けたかのような、美しく端正な肢体だ。しなやかな身体を包んでいる衣服は落ち着いた色合いで、装飾も少ないものだが、それがかえってセレンの容姿の端麗さを際立たせている。
 森の魔女はちょっと目を眇めた。
 セレンときたら、何故こんなにも煌煌しいのか。
 眩しくて、胸が苦しくなる。どうして苦しくなるのかよく分からなくて、そのわからなさに森の魔女は戸惑ってしまうのだ。
「小春日和のようだな、と。可愛らしい、というのかな。冬の木漏れ日のように、見ていると和むような、心が休まるような、そういう温かさを感じる光、だね」
 セレンはやわらかく微笑んで森の魔女を見つめ返して言った。些かの照れもなく。
「なっ、何言ってるんですか、王子ってば!」
「思ったことを、そのまま述べただけだが」
「もうっ、おだてたって何も出ませんからっ!」
「そのような意図はないけれど」
「それを言うならですねっ」
 森の魔女は頬に朱を走らせている。照れくささを隠そうとするものの、うまくはいかないようだ。
「王子の方こそ、光なんですっ」
「私が? 魔力など、持っていないが」
「そうじゃなくて! 王子の方こそがまぶしい光、太陽みたいな存在なんです! 眩しくって、綺麗で!」
「…………」
 森の魔女の勢いに少しばかり呑まれたようになって、セレンは目を瞬かせた。
 森の魔女は真面目くさった顔つきになって先を続けた。
「わたしだけじゃなくって、領民のみんなもそう思ってます。この領地に住むわたし達にとって、王子はそういう存在なんです。明るく笑っていられる日常や、領地に豊かさをもたらしてくれる、そういう太陽みたいな大切なご領主様なんです」
 言い終えてから、森の魔女はぷいっと顔を背けた。
「……女の子たちにとっては、別の意味で、ですけど」
 そして、少し拗ねたような口調で、森の魔女はぽつりと言い足した。
 聞こえるか聞こえないかの小声だったが、セレンは聞き逃さなかった。もしかして聞えよがしの「小声」だったのかもしれない。セレンは嬉しさに目元を和ませた。
 そういうあざとさが、森の魔女にはある。無自覚なのがまた森の魔女らしい。
「領民たちにそのように思われているのなら、光栄だね。領主としてこれ以上の賛辞はないよ。ありがとう、森の魔女殿」
 セレンはおっとりと笑って応えた。模範的とすら言える答えだ。だが本心からの言葉でもあった。
 森の魔女はといえば、ほんのちょっと拍子抜けしたような顔をしてセレンを見やる。何かが心に引っかかったままだ。
「……どういたしまして」
 にこりと微笑みを返してから、セレンはふと空を仰いだ。やわらかな青が、木々の枝の向こうに広がっていた。
「……ああ、残念だけど、そろそろ城に戻らなくては」
 セレンは名残惜しげに言って、ため息を吐く。
「もっとゆっくりしていけたら良いのだけど。近頃忙しくて、……敵わないな」
 セレンの望まぬ「雑用」のせいなのだ。茶会や晩餐に招かれる頻度が、あからさまに増えた。執事のハディスがそれらを采配しているせいもあって、断りきれない。事前に察知できればうまく他に用事をつくって逃れることもできるのだが、ハディスの方が一枚上手だ。かわせぬことの方が多い。
 しかたのないことではあるけれど、とセレンは苦々しくため息を吐く。
 そのため息をどう受け取ったものか、森の魔女は何か思いついたようで、「ちょっと待っててください」とセレンを引き止めた。
 森の魔女は勢いよく駆けだして森の館に入り、さほどの時間もかけずに戻ってきた。
「これ、よかったら」
 そう言って森の魔女はセレンに小瓶を手渡した。中には琥珀の欠片のようなものが幾つか入っていた。
「もしかしてこれは、惚れ薬、なのかな?」
 悪戯っぽく笑ってセレンは問う。もちろん答えは知っている。
「違いますってば!」
 もうっ、と森の魔女は眉をしかめるが、いつもの他愛無い軽口だと分かっているから、それで機嫌を損ねたりはしない。
「疲労回復の飴です。お疲れの時に、一粒舐めて見てください。森の魔女秘伝のレシピですから」
 きっと効きますよ、と森の魔女は笑ってみせる。屈託のない明朗な笑顔に、セレンはそっと溜息をこぼした。無垢すぎて、これではまだ「惚れ薬」の効果は出そうもない。
「早速いただこうかな」
 セレンは瓶の蓋をあけて、一粒取り出して口に含む。瞬間、甘酸っぱさが口内に広がった。
「これは……蜂蜜と檸檬、かな?」
「あたりです。他にも何種類かハーブを入れてるんですよ。最後にちょっと苦味が出てくるかもですけど、残さず舐めきってくださいね」
 とても美味しいよと感想を言えば、森の魔女は自慢げな笑みを浮かべる。魔法薬の出来を褒められるのが、森の魔女には何よりも嬉しいことのようだ。
「また来るよ。惚れ薬の完成を、楽しみにしているからね、光の魔女殿」
 言って、セレンは森の魔女に微笑みかける。艶麗な微笑を向けられて、森の魔女は思わず固まってしまった。
 飴の礼を述べて、セレンは馬上の人となった。
 赤面して硬直している森の魔女を一瞥し、満足げな様子で去って行った。

 セレンの姿が見えなくなってもなお、森の魔女はその場にたたずんで、熱くなった頬を両手で挟んでいた。セレンの美しい微笑みが頭から離れない。そのせいなのかどうか。胸がどきどきして、ひどく落ち着かない。
 森の魔女は両手で顔を覆って俯き、ひとりごちた。
「王子に惚れ薬なんて、絶対絶対っ! 必要ないよっ!!」
 惚れ薬以上の効果があるもの、あの微笑には。


 ――まだ、気付かない。
 森の魔女の心に灯った、魔力とは違う光の名。
 やがてその名を、セレンは告げる。
 森の魔女の秘された名を知る、その時に。

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