18 / 36
other story
いつまでも、君と 1
しおりを挟む
王都から遠く隔たったリマリック領、その城下の街は今日も平穏そのものだ。
数日前まで、トインの城下町ではとある「噂」がそこかしこで語られていた。領主であるセレン王子に恋人ができたらしい、というのがそれだ。が、近頃では語尾の「らしい」がとれて、確定事項となった。相手も判明している。ゆえに若い娘たちのざわめきは大きく、伝搬も瞬く間だった。とまれ、ご領主さまの恋のお相手に関してはおおむね好意的に語られている。トインの城下町では広く顔の知られた「森の魔女」だからだ。
落葉樹の紅く色づいた葉が、ひらひらと風に流される。刻一刻、森は冬へと移っていく。城下街には黄色に染まった街路樹が多い。森の中とは違った秋の色が街を鮮やかに彩っていた。その様子を綺麗だと眺める暇もなく、数日ぶりに街へやってきた森の魔女は、わらわらと集まってきた娘たちに囲まれて、にっちもさっちもいかなくなっていた。
「魔女さん、聞いたわよぉっ」
第一声が、それだった。森の魔女を取り囲む娘たちの目は好奇心に満ち、輝いている。
面喰っている森の魔女のことなどお構いなしで迫り寄ってくる。
若い娘たちにとって他人の恋路の噂話ほど、食指をそそるものはない。好奇と羨望と、少しばかりのやっかみと、それらで娘たちの心は他人事ながらもときめいている。
森の魔女は好奇の的にされるのを半ば覚悟してやってきた。粉屋の娘ノーラに口止めをしていなかったのだ。ひろまるのは、必須だったろう。王子もたぶん、隠したがらない。ただ、一緒に居たリフナレスのことをノーラは話し広めなかったようだ。事情がはっきりしなかったからだろう。そこは配慮してくれたらしい。話の発信源のノーラはこの場に居合わせなかったから、どこまでどのように話を広めたのかを確認はできなかった。
「ねえねえ、魔女さん、ご領主さまと恋仲になったって、ほんとなの?」
その質問に、森の魔女は「まぁ、一応……」と曖昧に応える。さすがに気恥しい。顔が熱ってくるのが自分でもわかった。
昔から女友達の間で交わされる他愛無い恋話につきあうことはあったが、このテの話は実のところ森の魔女は苦手な方だった。
「魔女さんったら。ただの幼馴染だなんて言っておいて」
「玉の輿ってことじゃないの、やるわねぇ、魔女さん」
「でもさ、意外なようで、意外じゃないっていうか」
「まあ、なんだかんだ、お似合いといえなくもないんじゃない? セレン王子って、魔女さんのことは特別扱いっぽかったもんね」
「ああ、そうかも。ってことは、告白はセレン王子から?」
矢継ぎ早に質問を投げかけてくる娘たちに、森の魔女はたじろいでしまう。けれど、安堵感もあった。もっと「王子に貴女は不釣り合いだ」と責められるかと思ったのだ。それを、ぽそりと口にしたら、娘たちはあっけらかんと笑って言った。「そんな風には思わないよ」、と。
たしかに身分やら地位やらでいえば、「ご領主さま」の恋人として、森の魔女ではその身分に「差」がありすぎるだろう。領主で、しかも王子の庶子でもあるセレンだ。身分に釣り合った相手をあてがわれるのが、普通だ。
ところがこんな辺境の小さな領地に、好きこのんでやってくる「ご令嬢」はいないだろうと、町の娘たちは暢気なことを考えていたのだ。貧しい領地ではないが、王都からはあまりに遠い、辺境の地だ。
そもそもセレン王子自身が身分柄に囚われない性質なのは、リマリックの領民ならほとんど誰もが、といっていいほど知っていることだ。
ありていにいえば、町の娘たちは、「あわよくば」と考えていた節がある。本気でそれを思うものは少なかったろうが、儚い期待を口にしたところで咎められることはなかった。領主であるセレンのおおらかで気さくな性格が、そのまま領民の気質として定着したようだった。
だからセレンの恋人が森の魔女であってもいいんじゃないか。セレンらしい恋のお相手なのではと、楽観的に受け入れたようだ。
「それにしても、魔女さんって、いつもすごいなぁと思ってたのよ」
魔女を取り囲んでいる娘たちの中の一人が、感心しきったように言った。
「あのきらっきらした美貌の王子を前にして、よく平静でいられるなぁって。いかにも王子様って雰囲気放ってて、気さくな方なんだけど、さすがに目の前にするとさすがにあたしも緊張しちゃってたもの」
「……う、うん、なんかそれは、慣れ、というか」
「でもあれって慣れるレベル? 身分柄上品なのはあるにしても、あの美貌ってちょっと桁はずれって感じなんだけど。なんていうのか……明けの明星みたいな美しさじゃない?」
「うん……」
これにも森の魔女は頷いた。
明けの明星とは、なんとぴったりの比喩だろうと感心もしている。
セレンの美貌は母親譲りだが、儚げというよりは、たしかに綺羅星のような輝かしさがある。若さという生気もあいまって、セレンには凛とした美しさがある。しかも匂い立つような艶やかさもあって、娘たちの胸をときめかせるには十分すぎる容貌なのだ。
セレンの美しさを森の魔女は知っているつもりでいたが、表面的なところだけを捕えていたのかもしれないと、最近ではそんな風に思ったりもする。
セレンの微笑みの甘やかさにくらくらしてしまうことも、増えてきた。
「慣れたつもりではいたけど、……最近は、なんだか慣れなくなってきた、かも」
森の魔女の素直な答えに、周りの娘たちは微笑みを交わしあった。やっと恋話らしい雰囲気になってきた、といわんばかりだ。森の魔女の返答がどれも曖昧で、惚気る気配もなく、ちょっとだけおもしろくなかったのだ。もっと惚気てくれてもいいのよ、と娘たちに迫られ、森の魔女はたじろいでしまう。惚気ろと言われても、はてしてどうすればいいのか分からない。
とまどう森の魔女をよそに、娘たちは好奇心のくすぐるままに話題を転じた。
「そういえば魔女さん、シグに言い寄られてたんじゃなかった? あいつ、しつこかったでしょ? どうなったの?」
「あ、なんでも、手を引いたらしいよ? 何があったかは知らないけど」
「恋敵がセレン王子じゃ勝てっこないって思ったんじゃない?」
「あの自信家のシグがそのくらいで引き下がるとも思えないけど」
「ま、あいつのことだから、次のターゲットを探してるんじゃない? とっくに切り替えてそう」
実のところ、森の魔女も詳しいことは知らないのだ。セレンが何かしらシグに言ったようだが、何を言ったのかは、結局教えてはもらえなかった。あれからシグと顔を合わせることもなくなった。
「それにしてもまぁ、魔女さんもご領主さまも、収まるところに収まったって感じね」
それが娘たちの総意であるらしい。皆一様に頷いている。
「でも、あの……なんて言ったっけ、セレン王子のとこの執事さん。あちこちに人をやって、王子に相応しいご令嬢を探してるって聞いたけど」
「らしいねぇ。そこんとこどうなの、魔女さん? 執事さん、けっこう厳しそうな人だけど?」
恋人として認めてもらえたのか、という問いに、森の魔女はまたしても曖昧に答えるしかなかった。
「たぶんもう、反対はされていないと思う」
希望的な観測ではあるけれど。
王子に会いに居城に赴いた時も、渋い顔はされなかった。――王子に招かれて居城に赴いたあの日。王子から「惚れ薬」の顛末を知らされたあの日にはすでに、ハディスからは険しい雰囲気は感じられなかった。
おそらく反対はされていた。
初めてハディスが森の館を訪れた日のことを、森の魔女は思いだす。あの時の、あのハディスの態度、視線……それらは到底「容認」を示すものではなかった。主人たるセレンの想い人が、まさか「森の魔女」とは、到底理解できないものだったのだろう。ある種の侮りが、ハディスの沈着な瞳の奥に潜んでいた。もしかしたら魔法か何かでセレンを誑かしているのでは、という疑念すらあったに違いない。そしてそれを確かめるために、「森の魔女」の顔を見に来たのだろう。
森の魔女は、ため息を零した。
惚気はともかく、暢気に喜びを表せない理由が、ここにある。
ため息をつく森の魔女の肩の上に、金褐色の毛並みのネズミがいて、同時にため息をついていた。騒々しい娘たちに見つからぬよう、主の黒髪の中に身を隠していた。さすがに今日は人間の姿になれと主は命じなかった。こうして囲まれることを予想してのことだったのだろう。
「――いいかげん、とっとと抜け出せ」
リフレナスは主にそっと耳打ちをした。すっかりうんざりしきっている。
「そんなこと言ったって……」
森の魔女は情けない声で応じる。去り時を逃したのは失敗だった。娘たちは森の魔女に構うことなくお喋りに話を咲かせている。
適当にお茶を濁して娘たちの輪の中から離脱する……というのは、世慣れない森の魔女には難題だ。王子なら、適当にあしらったり強引にごまかしたりするが得意だから、うまくこの場を切り抜けられるんだろうな……そんなことを考えたが、実際この場に王子にいたら娘たちは余計に色めき立つだろうし、王子は照れもせず甘い台詞を言ってのけるに違いない。
「あら、噂をすれば」
想像をめぐらせていた森の魔女の鼓動を跳ねさせることを、娘の一人が口にした。
森の魔女はぎょっとして娘の一人が視線を流した方へ、顔を向けた。
「これは、皆さま、おそろいで」
大勢の娘達の視線と賑やかしい声に足を止め、穏やかな笑みを見せたのは美貌の青年ではなく、初老の男性だった。
「森の魔女様にも、ここでお目にかかれてよかった」
慇懃に会釈をしたのは、セレンの執事を勤めるハディスだった。
数日前まで、トインの城下町ではとある「噂」がそこかしこで語られていた。領主であるセレン王子に恋人ができたらしい、というのがそれだ。が、近頃では語尾の「らしい」がとれて、確定事項となった。相手も判明している。ゆえに若い娘たちのざわめきは大きく、伝搬も瞬く間だった。とまれ、ご領主さまの恋のお相手に関してはおおむね好意的に語られている。トインの城下町では広く顔の知られた「森の魔女」だからだ。
落葉樹の紅く色づいた葉が、ひらひらと風に流される。刻一刻、森は冬へと移っていく。城下街には黄色に染まった街路樹が多い。森の中とは違った秋の色が街を鮮やかに彩っていた。その様子を綺麗だと眺める暇もなく、数日ぶりに街へやってきた森の魔女は、わらわらと集まってきた娘たちに囲まれて、にっちもさっちもいかなくなっていた。
「魔女さん、聞いたわよぉっ」
第一声が、それだった。森の魔女を取り囲む娘たちの目は好奇心に満ち、輝いている。
面喰っている森の魔女のことなどお構いなしで迫り寄ってくる。
若い娘たちにとって他人の恋路の噂話ほど、食指をそそるものはない。好奇と羨望と、少しばかりのやっかみと、それらで娘たちの心は他人事ながらもときめいている。
森の魔女は好奇の的にされるのを半ば覚悟してやってきた。粉屋の娘ノーラに口止めをしていなかったのだ。ひろまるのは、必須だったろう。王子もたぶん、隠したがらない。ただ、一緒に居たリフナレスのことをノーラは話し広めなかったようだ。事情がはっきりしなかったからだろう。そこは配慮してくれたらしい。話の発信源のノーラはこの場に居合わせなかったから、どこまでどのように話を広めたのかを確認はできなかった。
「ねえねえ、魔女さん、ご領主さまと恋仲になったって、ほんとなの?」
その質問に、森の魔女は「まぁ、一応……」と曖昧に応える。さすがに気恥しい。顔が熱ってくるのが自分でもわかった。
昔から女友達の間で交わされる他愛無い恋話につきあうことはあったが、このテの話は実のところ森の魔女は苦手な方だった。
「魔女さんったら。ただの幼馴染だなんて言っておいて」
「玉の輿ってことじゃないの、やるわねぇ、魔女さん」
「でもさ、意外なようで、意外じゃないっていうか」
「まあ、なんだかんだ、お似合いといえなくもないんじゃない? セレン王子って、魔女さんのことは特別扱いっぽかったもんね」
「ああ、そうかも。ってことは、告白はセレン王子から?」
矢継ぎ早に質問を投げかけてくる娘たちに、森の魔女はたじろいでしまう。けれど、安堵感もあった。もっと「王子に貴女は不釣り合いだ」と責められるかと思ったのだ。それを、ぽそりと口にしたら、娘たちはあっけらかんと笑って言った。「そんな風には思わないよ」、と。
たしかに身分やら地位やらでいえば、「ご領主さま」の恋人として、森の魔女ではその身分に「差」がありすぎるだろう。領主で、しかも王子の庶子でもあるセレンだ。身分に釣り合った相手をあてがわれるのが、普通だ。
ところがこんな辺境の小さな領地に、好きこのんでやってくる「ご令嬢」はいないだろうと、町の娘たちは暢気なことを考えていたのだ。貧しい領地ではないが、王都からはあまりに遠い、辺境の地だ。
そもそもセレン王子自身が身分柄に囚われない性質なのは、リマリックの領民ならほとんど誰もが、といっていいほど知っていることだ。
ありていにいえば、町の娘たちは、「あわよくば」と考えていた節がある。本気でそれを思うものは少なかったろうが、儚い期待を口にしたところで咎められることはなかった。領主であるセレンのおおらかで気さくな性格が、そのまま領民の気質として定着したようだった。
だからセレンの恋人が森の魔女であってもいいんじゃないか。セレンらしい恋のお相手なのではと、楽観的に受け入れたようだ。
「それにしても、魔女さんって、いつもすごいなぁと思ってたのよ」
魔女を取り囲んでいる娘たちの中の一人が、感心しきったように言った。
「あのきらっきらした美貌の王子を前にして、よく平静でいられるなぁって。いかにも王子様って雰囲気放ってて、気さくな方なんだけど、さすがに目の前にするとさすがにあたしも緊張しちゃってたもの」
「……う、うん、なんかそれは、慣れ、というか」
「でもあれって慣れるレベル? 身分柄上品なのはあるにしても、あの美貌ってちょっと桁はずれって感じなんだけど。なんていうのか……明けの明星みたいな美しさじゃない?」
「うん……」
これにも森の魔女は頷いた。
明けの明星とは、なんとぴったりの比喩だろうと感心もしている。
セレンの美貌は母親譲りだが、儚げというよりは、たしかに綺羅星のような輝かしさがある。若さという生気もあいまって、セレンには凛とした美しさがある。しかも匂い立つような艶やかさもあって、娘たちの胸をときめかせるには十分すぎる容貌なのだ。
セレンの美しさを森の魔女は知っているつもりでいたが、表面的なところだけを捕えていたのかもしれないと、最近ではそんな風に思ったりもする。
セレンの微笑みの甘やかさにくらくらしてしまうことも、増えてきた。
「慣れたつもりではいたけど、……最近は、なんだか慣れなくなってきた、かも」
森の魔女の素直な答えに、周りの娘たちは微笑みを交わしあった。やっと恋話らしい雰囲気になってきた、といわんばかりだ。森の魔女の返答がどれも曖昧で、惚気る気配もなく、ちょっとだけおもしろくなかったのだ。もっと惚気てくれてもいいのよ、と娘たちに迫られ、森の魔女はたじろいでしまう。惚気ろと言われても、はてしてどうすればいいのか分からない。
とまどう森の魔女をよそに、娘たちは好奇心のくすぐるままに話題を転じた。
「そういえば魔女さん、シグに言い寄られてたんじゃなかった? あいつ、しつこかったでしょ? どうなったの?」
「あ、なんでも、手を引いたらしいよ? 何があったかは知らないけど」
「恋敵がセレン王子じゃ勝てっこないって思ったんじゃない?」
「あの自信家のシグがそのくらいで引き下がるとも思えないけど」
「ま、あいつのことだから、次のターゲットを探してるんじゃない? とっくに切り替えてそう」
実のところ、森の魔女も詳しいことは知らないのだ。セレンが何かしらシグに言ったようだが、何を言ったのかは、結局教えてはもらえなかった。あれからシグと顔を合わせることもなくなった。
「それにしてもまぁ、魔女さんもご領主さまも、収まるところに収まったって感じね」
それが娘たちの総意であるらしい。皆一様に頷いている。
「でも、あの……なんて言ったっけ、セレン王子のとこの執事さん。あちこちに人をやって、王子に相応しいご令嬢を探してるって聞いたけど」
「らしいねぇ。そこんとこどうなの、魔女さん? 執事さん、けっこう厳しそうな人だけど?」
恋人として認めてもらえたのか、という問いに、森の魔女はまたしても曖昧に答えるしかなかった。
「たぶんもう、反対はされていないと思う」
希望的な観測ではあるけれど。
王子に会いに居城に赴いた時も、渋い顔はされなかった。――王子に招かれて居城に赴いたあの日。王子から「惚れ薬」の顛末を知らされたあの日にはすでに、ハディスからは険しい雰囲気は感じられなかった。
おそらく反対はされていた。
初めてハディスが森の館を訪れた日のことを、森の魔女は思いだす。あの時の、あのハディスの態度、視線……それらは到底「容認」を示すものではなかった。主人たるセレンの想い人が、まさか「森の魔女」とは、到底理解できないものだったのだろう。ある種の侮りが、ハディスの沈着な瞳の奥に潜んでいた。もしかしたら魔法か何かでセレンを誑かしているのでは、という疑念すらあったに違いない。そしてそれを確かめるために、「森の魔女」の顔を見に来たのだろう。
森の魔女は、ため息を零した。
惚気はともかく、暢気に喜びを表せない理由が、ここにある。
ため息をつく森の魔女の肩の上に、金褐色の毛並みのネズミがいて、同時にため息をついていた。騒々しい娘たちに見つからぬよう、主の黒髪の中に身を隠していた。さすがに今日は人間の姿になれと主は命じなかった。こうして囲まれることを予想してのことだったのだろう。
「――いいかげん、とっとと抜け出せ」
リフレナスは主にそっと耳打ちをした。すっかりうんざりしきっている。
「そんなこと言ったって……」
森の魔女は情けない声で応じる。去り時を逃したのは失敗だった。娘たちは森の魔女に構うことなくお喋りに話を咲かせている。
適当にお茶を濁して娘たちの輪の中から離脱する……というのは、世慣れない森の魔女には難題だ。王子なら、適当にあしらったり強引にごまかしたりするが得意だから、うまくこの場を切り抜けられるんだろうな……そんなことを考えたが、実際この場に王子にいたら娘たちは余計に色めき立つだろうし、王子は照れもせず甘い台詞を言ってのけるに違いない。
「あら、噂をすれば」
想像をめぐらせていた森の魔女の鼓動を跳ねさせることを、娘の一人が口にした。
森の魔女はぎょっとして娘の一人が視線を流した方へ、顔を向けた。
「これは、皆さま、おそろいで」
大勢の娘達の視線と賑やかしい声に足を止め、穏やかな笑みを見せたのは美貌の青年ではなく、初老の男性だった。
「森の魔女様にも、ここでお目にかかれてよかった」
慇懃に会釈をしたのは、セレンの執事を勤めるハディスだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる