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魔法の言葉
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五歳の夏。
かんかん照りの太陽が運動場を焼き付けていた。
この頃からだろうか....
ボクはファンデーションが取れる事を恐れなくなった。
幼稚園では人気者のケンちゃんにくっつき虫をしてきたので、自然と友達ができた。
友達ができれば、当然外で遊びまわる。
男の子幼稚園児が集まって、外ではしゃぎ回れば、母さんが朝入念にしてくれたファンデーションなどすぐに落ちてしまう。
至極当然の事だ。
でも、そんな事関係無かった。
ボクはそんな事よりみんなと仲良く遊びたかった。
新しく出来る友達の中にはケンちゃんと同じ質問をしてくる子もいた。
でも、あの時泣いていただけだったボクとこの時のボクは違う。
『魔法の言葉』を手に入れたのだ....
あの日、ケンちゃんに初めてアザの事を聞かれたあの日....
泣いて謝る母さんがボク達を抱きしめていた。
父さんが仕事から帰宅したのはそこから20分ほどした頃だった。
父さんは母さんから事情を聞き、悲しそうな顔をして、ゆっくりタバコ一本吸った。
そして、父さんはボクを寝室に誘った、「男同士の話をしよう。」と。
母さんとアッコをリビングに置いて、ボク達は寝室で向き合ってあぐらをかいて座った。
こんな事は今のまで無かったので、すごく緊張したのを覚えている。
「慎吾、今日幼稚園で何があったの?」
戸惑うボクはなかなか答えられない。
「何か嫌な事されたのか?」
「ううん....」
「じゃあ、友達と喧嘩したか?最近友達になったケンちゃんかな?」
「ううん....、ケンちゃんが聞いたの....お化粧なんでしてるの?って。」
なぜだろう、この頃のボクはそれを話す事に罪悪感を感じていた。
自分の顔のせいでみんなに迷惑をかけている様な気持ちだったのだろう。
それを聞いた父さんはニコッと笑った。
「慎吾。慎吾は母さんが嫌いか?」
「ううん。大好き。」
「母さんは、自分のせいで慎吾とアッコのお顔にアザできちゃったって思ってるんだ。」
「だから、母さんはいつもああやって謝るんだ。」
「慎吾も母さんのせいで、お顔にアザができたと思うか?」
「ううん....」
「そうだよな、父さんも母さんのせいじゃないと思う。」
「このアザは誰のせいでもないんだ。母さんのせいでも慎吾のせいでも、だーれも悪くない。」
「だからな、母さんがなまた今日みたいに、ごめんねって泣く事があれば、『母さんは悪くない』って言ってあげてくれないか?」
「きっと母さん、少しだけ楽になると思うんだ。」
「うん....『母さん悪くない』って言えばいいの?」
「そうだ、父さんが家にいない時は、男は慎吾だけだろ?」
「だから父さんがいない時は、慎吾はこの言葉で家族を守ってくれ。」
「男同士の約束守ってくれるか?」
「........。うん、わかった....」
ボクにはうまく言えるか自信が無かった。
でも、父さんのまっすぐな視線にそう答えざるおえないと子供ながらに感じた。
「約束してくれるなら、もう一ついい事を教えてあげよう!」
「いい事?」
「そうだ、友達が出来る魔法の言葉だ。」
「魔法の言葉?」
「うん、魔法の言葉だ。」
「今日みたいにお顔のアザやお化粧の事を聞かれた時に『生まれつきなんだ。』って笑顔で言ってみな。」
「生まれつきなんだ?」
「そう、『生まれつきなんだ。』笑顔がポイントだぞ、笑顔が。」
「暗い顔でゆうと逆効果だぞ、笑顔でな!」
「さぁ、練習で言ってみな!」
それから何度も何度も魔法の言葉と笑顔の練習をさせられた。
何分ほど経っただろうか、魔法の言葉を完全にマスターしたボクと父さんは寝室を出て、リビングに戻った。
母さんはまだ泣いていた。
父さんが耳元でコソコソと話して来た。
「コショ....コショ....母さんは悪くない....、母さんは....悪くな、い....」
どうやら、さっそく言ってあげてくれとゆう事らしい....
緊張した。
でも、何とか母さんを楽にしてあげたかった。
大きく息を吸い込んで、不自然なぐらい大きい、家中に響き渡る様な声でボクは
「母さんは悪くない」
と叫んだ。
父さんも、あまりものボクの声のボリュームに驚いた。
母さんは「ばか....」と笑った。
なぜ馬鹿と叱れられたのかこの頃のボクには分からなかった。
こうして、手に入れたこの『魔法の言葉』の効果は絶大だった。
幾度となく聞かれる質問に、ボクは惜しげも無く何度も何度も魔法の言葉をつかった。
みんな「そーなんだ」とまるで何も無かったかの様にその後、普通に接してくれた。
もう、泣く必要なんてない。
無理に隠す必要なんてない。
このアザは何も悪い事じゃないんだ。
誰も悪くなどないんだ。
幼いボクもそのころにようやく気付き始めた。
かんかん照りの太陽が運動場を焼き付けていた。
この頃からだろうか....
ボクはファンデーションが取れる事を恐れなくなった。
幼稚園では人気者のケンちゃんにくっつき虫をしてきたので、自然と友達ができた。
友達ができれば、当然外で遊びまわる。
男の子幼稚園児が集まって、外ではしゃぎ回れば、母さんが朝入念にしてくれたファンデーションなどすぐに落ちてしまう。
至極当然の事だ。
でも、そんな事関係無かった。
ボクはそんな事よりみんなと仲良く遊びたかった。
新しく出来る友達の中にはケンちゃんと同じ質問をしてくる子もいた。
でも、あの時泣いていただけだったボクとこの時のボクは違う。
『魔法の言葉』を手に入れたのだ....
あの日、ケンちゃんに初めてアザの事を聞かれたあの日....
泣いて謝る母さんがボク達を抱きしめていた。
父さんが仕事から帰宅したのはそこから20分ほどした頃だった。
父さんは母さんから事情を聞き、悲しそうな顔をして、ゆっくりタバコ一本吸った。
そして、父さんはボクを寝室に誘った、「男同士の話をしよう。」と。
母さんとアッコをリビングに置いて、ボク達は寝室で向き合ってあぐらをかいて座った。
こんな事は今のまで無かったので、すごく緊張したのを覚えている。
「慎吾、今日幼稚園で何があったの?」
戸惑うボクはなかなか答えられない。
「何か嫌な事されたのか?」
「ううん....」
「じゃあ、友達と喧嘩したか?最近友達になったケンちゃんかな?」
「ううん....、ケンちゃんが聞いたの....お化粧なんでしてるの?って。」
なぜだろう、この頃のボクはそれを話す事に罪悪感を感じていた。
自分の顔のせいでみんなに迷惑をかけている様な気持ちだったのだろう。
それを聞いた父さんはニコッと笑った。
「慎吾。慎吾は母さんが嫌いか?」
「ううん。大好き。」
「母さんは、自分のせいで慎吾とアッコのお顔にアザできちゃったって思ってるんだ。」
「だから、母さんはいつもああやって謝るんだ。」
「慎吾も母さんのせいで、お顔にアザができたと思うか?」
「ううん....」
「そうだよな、父さんも母さんのせいじゃないと思う。」
「このアザは誰のせいでもないんだ。母さんのせいでも慎吾のせいでも、だーれも悪くない。」
「だからな、母さんがなまた今日みたいに、ごめんねって泣く事があれば、『母さんは悪くない』って言ってあげてくれないか?」
「きっと母さん、少しだけ楽になると思うんだ。」
「うん....『母さん悪くない』って言えばいいの?」
「そうだ、父さんが家にいない時は、男は慎吾だけだろ?」
「だから父さんがいない時は、慎吾はこの言葉で家族を守ってくれ。」
「男同士の約束守ってくれるか?」
「........。うん、わかった....」
ボクにはうまく言えるか自信が無かった。
でも、父さんのまっすぐな視線にそう答えざるおえないと子供ながらに感じた。
「約束してくれるなら、もう一ついい事を教えてあげよう!」
「いい事?」
「そうだ、友達が出来る魔法の言葉だ。」
「魔法の言葉?」
「うん、魔法の言葉だ。」
「今日みたいにお顔のアザやお化粧の事を聞かれた時に『生まれつきなんだ。』って笑顔で言ってみな。」
「生まれつきなんだ?」
「そう、『生まれつきなんだ。』笑顔がポイントだぞ、笑顔が。」
「暗い顔でゆうと逆効果だぞ、笑顔でな!」
「さぁ、練習で言ってみな!」
それから何度も何度も魔法の言葉と笑顔の練習をさせられた。
何分ほど経っただろうか、魔法の言葉を完全にマスターしたボクと父さんは寝室を出て、リビングに戻った。
母さんはまだ泣いていた。
父さんが耳元でコソコソと話して来た。
「コショ....コショ....母さんは悪くない....、母さんは....悪くな、い....」
どうやら、さっそく言ってあげてくれとゆう事らしい....
緊張した。
でも、何とか母さんを楽にしてあげたかった。
大きく息を吸い込んで、不自然なぐらい大きい、家中に響き渡る様な声でボクは
「母さんは悪くない」
と叫んだ。
父さんも、あまりものボクの声のボリュームに驚いた。
母さんは「ばか....」と笑った。
なぜ馬鹿と叱れられたのかこの頃のボクには分からなかった。
こうして、手に入れたこの『魔法の言葉』の効果は絶大だった。
幾度となく聞かれる質問に、ボクは惜しげも無く何度も何度も魔法の言葉をつかった。
みんな「そーなんだ」とまるで何も無かったかの様にその後、普通に接してくれた。
もう、泣く必要なんてない。
無理に隠す必要なんてない。
このアザは何も悪い事じゃないんだ。
誰も悪くなどないんだ。
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